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第88話 戦争を起こさぬ勝利

『早朝に迎え酒を飲む事は、朝の祈りである』

―哲学者ヘーゲルナッツ―




あたし達はベンズガルトの辺境伯の宮殿に入ったのだわさ。

問題は解決されたと、それをダイムラー辺境伯に伝えたんだわさ。


「勇者とその仲間達よ!そなたらがもたらしたこの平和の時を祝おうではないか!」


っと、メルセデスお嬢様はテンションアゲアゲなんだわさ・・・


その晩は、豪華な晩餐会が開かれたんだわさ。


「マジョリン。お疲れ。上手く事が運んでよかった!」


っと、クリンゲルが近寄って来たんだわさ。

手には2つのゴブレットがあったんだわさ。


「マジョリン。ほら、ワインであるぞ。お嬢様自慢のトロリンガーである」


クリンゲルはあたしに赤ワインが入ったゴブレットを手渡ししてくれたのよ。


「お嬢様がお国のワインを好むのは、郷土愛というやつなのか、それとも単に、我の故郷のブドウの評価が低いから、そう見えるだけか・・・」


「何すねた感じ出しちゃってさ、あたし達の活躍に妬いちゃったのかねぇ?」


「そうだな。大分妬いておるぞ」


「嫉妬される程、あたしは大したことしてないんだわさ。ただ、運よく上手く色々な人が動いてくれただけなんだわさ」


「運を手繰り寄せ、掴んで離さない。それはもはや、実力であるぞ。誇ってくれ。我は妬いているが、それ以上に友の活躍をうれしくも思っている」


「へぇ~。あんた、メンドクサイ女だわさ!」


「所で、あのお堅い聖女は何処へ行ったのだ?先程から姿が見えぬが・・・」


そう言われると、メメシアの姿が見えないんだわさ・・・


「ちょっと、探してみるのだわさ」


あたしはメメシアを探して屋敷をうろうろしていたのよ。

すると、裏のバルコニーで1人、ぼんやりと空を眺めてるメメシアを見つけたのだわさ。


「メメシア~。こんな所にいたのかねぇ~。今回、一番活躍したと言ってもいい人がいないなんて、困っちゃうんだわさ~」


「マジョリン・・・」


メメシアは何か、思い詰めているようだったんだわさ。


「正直、改革派の説得は難しいです。旧約の民に我らの救世主を認めてもらう並みに困難である事が理解出来ました・・・そして、厄介なのは、この改革の流れを政治利用し、自らの権力を高めようとする諸侯の存在です」


「なんか、魔王退治よりも厄介な話しなんだわさ・・・」


「諸侯にとって、神聖帝国皇帝や、霊的統治を行う大司教の存在は厄介なのでしょう。わたくしの所属する道の修道会は、その根源である司教や司祭、または修道会の汚職や、教義の見直し、神学知識の学びなおしなどに力を入れています・・・特に金で地位を得た諸侯は神学の知識が乏しい・・・」


しばらく黙った後、メメシアはあたしの方を見て、


「今のは他所には言わないで下さいね」


っと、付け足して言ったんだわさ。


「大丈夫だよ。あたしゃ、案外口は堅い方なんだわさ・・・単純に教会の、司教や司祭の間違いを正すとかじゃ済まないような事なのねぇ~・・・」


「マジョリン、今日は妙に優しいですね?」


「な~に行ってるんだわさ。あたしゃ~いつも優しいんだわさ。アガペーの塊りなんだわさ~」


「あなたって人は・・・」


「こういう時は飲むのもいいのよさ。ほれ、メメシアも1杯、飲んでみるといいんだわさ!」


「気持ちだけ受け取ります。マジョリン、今日はあなたが飲んでいる事には目をつぶっておきます」


「おや、ありがとうなんだわさ~」


「でも、きっと、こういう事の積み重ねが宗教改革を訴える人達が生まれる事につながっているのかもしれませんね」


あたしゃ~正直、信心深いわけじゃないからよくわからんけど、教会の長い歴史で解釈が臨機応変に対応し続けた歪みみたいなのが生じてるって事なのかねぇ~・・・

まあ、救世主が生まれてから約1,500年以上もたった今なんだから、色々事情だって違ってくるはずなんだわさ。


「でも、メメシアってさ~・・・」


「何ですか?」


「・・・いや、なんでもないのよさ」


救世主様だって、ワインは好きだったんだから、飲酒ぐらい多めに見て欲しいとも思うのよさ~って、言おうと思ったけど、今それを言う空気じゃないなって思って、飲み込んだんだわさ。



☆☆



翌朝、あたし達は改めて、ダイムラー辺境伯から感謝されたのだわさ。

そこでハレルがフリーデスラ方伯こと、フィーリプ殿下から渡すよう頼まれた手紙をダイムラー辺境伯に手渡したのだわさ。

辺境伯はすぐにその手紙を見たのよ。


「・・・彼はいったい、どっちの味方なのだろうか」


っと、辺境伯はぼやいたんだわさ。


「どっちの味方といいますと?」


「・・・いや、すまぬ。忘れてくれ。これはまだ、公には出せぬ事のようだ」


ドラゴン城伯に渡した手紙といい、辺境伯に渡した手紙といい、いったいどのような事が書かれていたのだろうかねぇ~・・・

その真相が明らかになる日は来るのかねぇ~・・・


ともかく、あたし達は辺境伯からお礼として、金塊を渡してくれると言ってくれたのよ。

まあ、メメシアが丁重にお断りしたのだけどねぇ~・・・

代わりに、辺境伯領内と、帝国自由都市での飲み食いは、辺境伯のツケにできるという約束がされたんだわさ。


あたし達はまた、旅路に戻るんだわさ。

出発の見送りに、クリンゲルが来てくれたんだわさ。


「マジョリン。元気でな。また、会おう」


「あんたも元気で暮らすのよさ~」


あたし達はこうして街を出たんだわさ。

今回、戦うだけが人を守る事ではないって事を知れた気がしたんだわさ。

そして、これまでの旅で出会った人達、達成した事、全てがあたし達の力になっている事も知ったんだわさ。


さて、この先、どんな出会いが待ってるんだろうねぇ~・・・




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