第84話 95ヶ条の論題
『この世で最も暗いのは、禁酒の暗黒だ』
―作家シェイクステア―
世の中の秩序を乱すような暴露本の翻訳原稿を書いていたのが現在の魔王こと、ワルリッヒ・フォン・ハッテンだったのだわさ!
「ワルリッヒが魔王になる以前に翻訳した原稿を元にしていたとしても、それを印刷所に持ち込んだ人物・・・」
「えっと、原稿の持ち主は・・・聖職者です。ただ、彼は世の中の秩序を乱す為では無く、議論し、その後の世の中のあり方を多くの人達で考える為にと申しておりました・・・」
「他にも・・・彼の名前が入った本はありますか?!」
「えっ・・・あ、いやぁ~・・・」
そんな感じで、あたし達が騒いでいると、周りに人が寄って来てしまったのだわさ。
「何かと問題でも?」
っと、ハレルと同い年ぐらいの見知らぬ美少年が声をかけて来たのだわさ。
「あ、いやぁ~・・・お騒がせしているのだわさ・・・でも、内々の話しなんだわさ~・・・」
しかし、この美少年、妙に衣装に予算がかかってる感じがするのだわさ・・・
身分が高いお方なのかねぇ・・・
「本の事でそこまで熱くなれるのじゃろ?余は何を問題としておるのか、それがしりたいのじゃ」
のじゃショタ?!
まあ、ぐいぐい質問してくるのじゃショタにあたしゃ上手い回答ができなかったのだわさ・・・
「なんだ?気になるのか?物好きなガキだぜ」
「れ、レギンくん!見知らぬのじゃショタに対して角が立ちすぎる言葉を使うのは良くないのよさ。角が立ちすぎて、角打ちなんだわさ!」
「ああん?オレが口悪いのを過度に協調すんな」
「かまわぬ。口が悪い事など、騎士を相手に話せばすぐになれる事である。教えて欲しいのじゃ。余は知見を広めたくここにいるのじゃ」
「っは?!随分と偉そうな言いようだぜ。気に食わねえけどよ・・・いいぜ、教えてやんよ」
レギンくんは乱暴な口調で、魔王が翻訳した書物がある事をのじゃショタに伝えたのよ。
「魔王が翻訳・・・魔王とは、ワルリッヒ・フォン・ハッテンで間違いないかのう?」
「ああ、そうだぜ。魔王っつても、強盗騎士に毛の生えたような野郎だって思っていたがな」
「魔王を侮るで無い。むしろ侮っているから、神聖帝国の皇帝は魔王討伐に動かぬのじゃ。熱心なのは教皇だけであるが、トケツスタンの侵略者に対する十字軍もまともに動員できぬ有様じゃ。皮肉にも、恵まれた魔王である」
「今、トケツスタンの話し、してませんでしたか?」
マカフシくんが妙な所に食いついてきたのよさ・・・
「ぎいーーーーーっ!!」
それらとは別に突然奇声を発するメメシア・・・
「ど、どうしたのだわさ・・・」
「この、『闇の男達の手紙』と言う、教会批判に全振りした内容の本があるんですよ!もはや、秩序を乱す為に書かれたかのような内容!どうやら、この本の原稿を書いた人文主義に、魔王が紛れているようなのです!」
「そ、そうなのねぇ~・・・」
「マジョリン!これは大変な事です!魔王は、この度の魔王は、人文主義を、宗教改革を利用しようとしているって事ですよ!」
「そ、そうなのねぇ~・・・」
「あなたって人は、この恐ろしさをまだ理解していないのです!魔王は自らが戦って侵略をするよりも、世の中の秩序を乱し、人々が争うように仕向けようとしているとしか思えないのですよ!」
「そ、そうなのかねぇ~・・・魔王って、そんなまどろっこしい事、するのかねぇ~・・・」
「いや、確かにありえる事じゃ。されど、宗教改革派は魔王から距離を取るであろう。いや、そうせねばならぬのじゃ」
っと、メメシアに話しかけたのじゃショタ・・・
それに対してメメシアは眉間にしわを寄せたのだわさ・・・
「・・・その手に持っている冊子、95の論題とタイトルが書かれていますが、あなた、改革派思想?!」
「これか。これについて、よく説明してくれる人物を欲していたのじゃ。教会側の立場として、どう説明されるのか、感情的では無く、論理的に話が聞きたい」
「良いでしょう。あなたのように知識のある人は周囲の人に影響を与えます。ちゃんとした教義に基づいた説明を致しましょう」
「ここで立ち話する内容でもない故、余の屋敷に来て、じっくりと話を聞きたいのじゃが、よいか?」
「もちろんです」
「でも、メメシア・・・これから」
方伯に会うのではっと、言いかけた所、レギンくんに止められたのだわさ。
「魔女さんは人を見る目が無いな~」
「え?そんな、興味本位であっちに行ったら、メメシアは色々語るーにゃし初めて止まらなくなってしまうのだわさ」
「ボクも、彼に付いて行って大丈夫だと思いますよ?」
っと、マカフシくんまで・・・
男の子って、論争が好きなのかねぇ~・・・
あたし達はのじゃショタに付いて行ったのだわさ・・・
すると、ハレル達が待っている方伯の屋敷の前に付いたのだわさ・・・
「ここが余の屋敷じゃ」
「・・・って事は、方伯殿下?」
「左様。余はフリーデスラの統治者であるフィーリプである」
「ま、まさか、のじゃショタの正体がフリーデスラ方伯殿下だったとは!」
「え?魔女さん、そんなに驚く?そんな雰囲気だしてやがったじゃねえか」
「マジョリンさん、鈍感すぎでだよ~」
っと、レギンくんとマカフシくんは気が付いていたようなのだわさ・・・
「マジョリン、これは困ったことになりました・・・」
どうやらあたしと同じく、メメシアも気が付いていないタイプだったのよ。
「よかった~。メメシアがあたしと同じ」
「よ、よくないです!準備も無く、方伯様に95の論題について説明しなくてはならないなんて、下手すれば、神聖帝国が分裂し兼ねないのですよ?フリーデスラ方伯様の権力は大公クラスです。選帝侯の候補になる日も近いと噂されるお方ですよ?」
「そんな大げさな・・・」
メメシアは心配し過ぎだと思うのよねぇ~・・・
そんな、95の論題って、あたしもちらりと読んだけど、免罪符って間違いじゃね?って話しな訳で、そんなボヤキが原因で神聖帝国で内乱が起こるみたいな事、あるわけないじゃんねぇ~。
「今、ここに来るまでの道中、わたくしに、幻視が見えたのです・・・宗派対立によって100年以内に大きな戦争が起こり、神聖帝国の国民の2割が死にます!」
「それは魔王よりやべぇんだわさ・・・でも、気にし過ぎなのよ。いつも通りのメメシアの考えを伝えればいいじゃないかねぇ~。方伯殿下もそれが聞きたいのだし、何が起ころうとも、方伯殿下が様々な意見を聞いてるって言ってる以上、メメシアだけが原因にはならないのよさ」
「マジョリン・・・今日はあなたの楽観主義に救われた気持ちです・・・そうですよね・・・わたくしは、わたくしの務めを果たします」
まあ、なんだかんだ、あたし達は方伯殿下の屋敷に招かれたのだわさ。




