第79話 ドワーフの酒
『飲酒は本質的に良く、堕落しているのは社会である』
―ジャン≒ジャック・ジャソー―
明日の入城の受付開始まで、あたし達はドワーフの集落で待つ事になってしまったのだわさ・・・
それに、商人のゲルブケーファーさんはあたし達を置いて、そのまま帰ってしまったんだよねぇ・・・
猫男爵は呑気に教会でくつろいで毛づくろいしているし・・・
困ったねぇ・・・
「こういう事はよくあるので、教会の裏に住居スペースがあります。お客様にとまって頂けます部屋もご用意してありますので、ご安心ください」
「へぇ、こういう事、よくあるのねぇ・・・」
「ええ、つい最近、ほんの10年前にもありました」
「・・・10年前。あんた、寿命が長い系の人だね?」
「あ、そ、そうでしたね。10年って、テウトネス人にとっては長い年月にふくまれましたね・・・」
まあ、聞いてみれば、ドワエルーフの寿命は300年って事らしいのよ。
人生50年だとしても、10年は感覚的に1.66666・・・年って感じなのかねぇ?
でも、ウィットリの年齢は54歳って言ってたから、54の内の10って、言う程短くは無いはずなのだわさ・・・
感性がわからんのよ・・・
エルフはあたしらみたいな、あたしらにとっては普通な人間をテウトネス人って呼ぶみたいなのよね。
まあ、エルフは地域によって文化がかなり異なるから、そう呼ばないエルフもいっぱいいるんだけどねぇ。
エルフの人間の呼び方にはその土地の個性と個人差があるみたいねぇ~。
「わたし、商人のゲルブケーファーさん以外のテウトネス人と話すのは久しぶりなもので・・・せっかくですので、ドワーフの集落をご案内しますよ!」
あたし達はドワエルーフの司祭、ウィットリに案内され、集落をまわってみる事になったのよさ。
ドワーフの集落は、石が積んである背の低い家が多いし、石の壁で建物がつながっていて、まるで迷路のようになっているのよさ。
ガン!ガン!ガン!
ドワーフが鉄をハンマーで打つ大きな音がするのよ。
「ここはドワーフの城下町鍛冶屋工房です。こういう小規模の事業者が多くあるのがこの集落の特徴です。ドワーフ鉄鋼工業会というギルドも存在しますが、まあ、飲み会が盛り上がる程度の会です」
「ドワーフはいい剣を作るって聞いているぜ。みんな、腕がいいってね」
「ははは・・・それは確かなんですが、見習いのドワーフ達はその風説にプレッシャーを感じているようで、中には家業を継がずに集落から出て、どこかの炭鉱で働いている若いドワーフも結構いますね。やっぱり職人技はドワーフだからと言って、全員が全員できる技じゃありませんからね・・・」
「ドワーフも大変なのですね・・・」
「そうか・・・オレの昔の傭兵仲間にも1人、ドワーフがいたが、あいつ、鍛冶仕事の話題になると黙ってしまっていたから、あいつもそういう風に家業を継がずにどこかの集落から出たやつだったんだろうな・・・」
「それでは、次へ行きましょうか」
ドワーフ達が小川で水浴びをしている。
「あれはなんですか?」
「あれはここを流れる川です。集落から出るゴミやう○こなどは全部、川に流します」
「下流の人、迷惑だわさ・・・環境に優しい集落だと思っていたのに環境に優しくないのねぇ・・・」
「でも、ゴミとかう○こなどを流す川で水浴びしているよ・・・」
「それでは、次へ行きましょうか」
道の真ん中でぼけーっと立ちながら、鼻くそをほじくるドワーフがいた。
「あのドワーフは鼻くそホジリストのホールキンさんです。ドワーフは穴を掘るのが上手いのですよ。でも、この集落で彼以上の鼻くそホジリストを私は見た事がありません」
「周囲から孤立しすぎて、変な競技が生まれてしまっているのよ・・・」
「では、次へ行きましょうか」
ドワーフ2人がベンチに座っていて、とても親密な仲っていう感じだ。
「ドワーフって女の人も髭を生やしているから見分けがつかないのよさ」
「でも、あれは2人共男ですよ」
「え?」
「ドワーフは穴を掘るのが上手いのですよ」
「えっ?!」
「それでは、次へ行きましょうか」
伐採した木を運ぶドワーフ達の姿があった。
「あれ?苔の民が住む森の木を切ってるよ」
「はい。薪に使います。計画的に伐採し、切り株に挿し木をしたりして、森が無くならないようにしています」
「じゃあ、苔の民の人達も問題ないんだね?」
「100年に1度、双方の意見が通らずに殴り合いの喧嘩をしはじめます。でも、お祭りみたいなものです」
「いや、そうならないように務めなよ・・・」
「では、次へ行きましょうか」
洞穴があったのよさ。
「この洞穴は地底につながっていまして、1度踏み入れると帰って来れません。ただ、奥にはお宝があるという事で、それを探しに年間5~10人程が行方不明になります」
「そんな危険な洞穴・・・どんなお宝があるのよさ・・・」
「嘘です。洞穴だけにホラを吹きました。本当はホールキンさんの住まいです」
「人ん家を使って変な事を言わないのよ・・・」
「嘘はダメですよ」
「ごめんなさい。でも、ホールキンさんの家にお宝が隠してあるのは本当です」
「人ん家のプライバシーが筒抜けしちゃってるのよさ・・・」
「ここでホールキンさんの名言を1つ紹介します。『その指輪は2つあって、片方しかはめる事ができない。2つをはめた者には破滅が訪れるであろう』」
「それが、ホールキンさんのお宝って事?魔力のあるやばい指輪?」
「いいえ、鼻の穴の事です。ちなみにお宝はホールキンさんの200年の人生の中で取れた一番大きな鼻くそです。彼にとってはお宝でも、わたし達からしたら、ただの鼻くそですよ」
「ホジリストめ・・・」
「では、次へ行きましょうか」
広場で仰向けに寝た状態から、背筋の力だけでぴょんぴょん跳ねるドワーフ達がいた。
「あれは何をしているのですか?」
「・・・・なんだあれは!」
「え?あんたも知らないの!?」
「初めて見ました・・・多分、思い付きで楽しそうな事をやっているだけだと思います。これがもし、飽きることなく100年続いたら、伝統とか文化とかになるのでしょうね」
「伝統とは・・・文化とは・・・」
「それでは、次へ行きましょうか」
あたし達は教会に戻って来てしまった。
「以上がドワーフの集落です。いかがでしたでしょうか?」
「・・・微妙」
こうして日が暮れて行ったのだわさ・・・
教会の裏、住居スペースで夕食を頂いたのよ。
ビールスープだったのよね。
古いデュンビールにクリームや小麦粉やハーブを加えて煮込んだルーに角切りのパンを入れた、まあ、珍しくはないスープなのよね。
そして、夜・・・
プロテイウスのいびきとメメシアの歯ぎしりが謎のハーモニーを奏でるのよ。
そこでぐっすり寝ているハレルは凄いねぇ・・・流石勇者だわさ・・・
あたしはこっそりと寝室を抜け出して、外へ出ようと、居間を通った時さ・・・
「何処へ行くつもりかね?」
猫男爵がいたのよさ・・・
「吾輩は暗い所でもよく見える目があるものでね」
「およよ、猫男爵さんかい。驚かせないでほしいのよさ・・・」
「ズィーベン同盟の騎士の証言はいささか信憑性に欠けるが、用心するに越したことは無いぞなもし」
「猫男爵さん。集落を見る限り、軍備が増強されているようにも見えないし、境界の警備すらそこまで現状にしている訳じゃさなそうだし、問題なさそうだけどねぇ」
「問題が無ければなおさらである。異常なしの報を辺境伯にするまで、気を緩めてはならぬぞ。下手をすれば無垢なドワーフや苔の民が犠牲になるであろう・・・」
「ズィーベン同盟はそこまで城伯さんを信用していないのかねぇ?」
「信用したく無いのであろう。吾輩の他の騎士共は戦いたくて仕方がないようだ。それも、小規模で絶対に勝てるであろう相手であり、短期戦で済ませ、戦利品に価値がある相手とな」
「・・・もし、同盟の騎士団が攻めてきたら、どうなるのかねぇ?」
「ドワーフは家財を全て奪われ、奴隷とされるであろう。苔の民はここの森林が荒らされれば自然と消えて行く。城伯の一族郎党は間違いなく皆殺しであろう」
「騎士は怖い人達だねぇ・・・」
「この地が荒れ果てれば、近隣の恵まれた土地の環境も崩れて行くのは、他のはげ山を見ればわかる事である。辺境伯の領地も吾輩の猫のひたい程の領地も、ここの城伯の自然の恩恵を受けている」
「恩恵ねぇ・・・」
う~ん、話が長い・・・
困ったねぇ・・・
あたしゃお酒を飲みに行きたいからねぇ・・・
「おや、魔法使いさんと、猫男爵さん、まだ寝て無かったのですか?」
ウィットリが様子を見にきたのよさ。
「もし、寝付けないようでしたら、1杯いかがでしたでしょうか?」
おや・・・




