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第78話 洗礼されし龍王

『客が飲める量を見抜く事程、酒屋の主人に重要な事は無い』

―政治思想家マキャベツ―




街の南西の森の奥にある、ドラゴン城伯領で不穏な動きがあると、ズィーベン同盟の騎士から連絡があったようなのさ。

ドラゴン城伯が魔王軍に加わる為に、軍備を増強させているとねぇ・・・

そこで、あたし達が調査して欲しいとの事なのよ。


辺境伯が手回しして、ドラゴン城伯領内で取引をしている商人が招かれたのだわさ。


「わたくしはゲルブケーファーと言います商人です。ドラゴン城伯領にいますドワーフと商売していますので、安全な道を知っています。悪路ではありますが、この馬車で行き来ができます」


まあ、これは頼もしいものじゃない。

ドワーフは金属加工の名手ってのは良く言われるもので、ゲルブケーファーさんはそういう品物の取引をしているそうなのさ。

彼の黄色い馬車の荷台にあたしらは乗る事になったのよさ。


ついでに、あたし達に1人の騎士が同行する事になったのだけどさ、それが奇妙な騎士なのよさ。

華やかに着飾った2足歩行する猫なのよ。

あたし達の脇を、馬に乗って付いてきている。

猫が乗馬しているというのは妙な光景なのだわさ・・・


「吾輩は帝国騎士、シュワルツ猫男爵である。ダイムラー辺境伯の依頼でお供する事になったぞなもし。勇者殿、以後お見知りおきを」


男爵(フライヘル)の爵位持ちの猫ってわけなのよさ。


「はい。ボクはハレルといいます。猫男爵さんよろしくお願いします」


「オレは戦士プロテイウスだ。騎士は何人も見て来た。しかし、猫なのに騎士、しかも男爵とは驚いたぜ・・・だが、噂には聞いた事があるぜ。上手く飼い主を出世させて爵位を得た猫がいたとか言う話し」


「吾輩は吾輩の村のワイン産業を守った功が認められたのだぞなもし。どこぞの巨人を騙し打ちして功績を得た卑怯者の長靴猫なぞとは一緒にしないで頂きたい」


「ああ、すまん。悪く言ったつもりはないんだぜ。猫男爵は例の騎士団の同盟に入っているのか?」


「もちろん。ただ、彼奴等はあまり好かぬ連中である。この度のドラゴン城伯の件でも何か裏があると考えている。貴公の物言い、傭兵か元傭兵といった所であろう?戦地を生き抜いてきた感とやらを頼りにしているぞなもし」


そんな感じで話したりしながら、あたし達はドラゴン城伯領へ入ったのよ。


ドラゴン城伯領には、ドワーフや、苔の民が沢山住んでいるのよさ。

苔の民ってのは、森に住んでいるドワーフみたいな小人達なんだけどねぇ。

人間とはちょっと違う神秘的な人達が多く住んでいる土地なのよさ。

ただ、領内にはそういった人達が教会を持っていて、ちゃんと聖書の教えに従っているのよさ。

これが宗教の違いで攻め込まれずに領地を維持し続ける事ができた要因の1つみたいなのよ。


森の影から、ドワーフみたいな小人達があたし達を見ているのが見えたのよさ。


「あれは苔の民ですね。見た目はドワーフやノームと変わりませんが、森に住む小人達です。ここ程多く苔の民が住んでいる地域は多分、他には無いかと思いますよ」


そうなのねぇ。

多くの森林が切り開かれ、苔の民の住む場所も無くなってしまっているのは確かだねぇ・・・


森を抜けると、渓谷の狭間の集落に出たのよ。

家が何家もあるのよさ。


「ここはドワーフの居住区です。そして、あの山の上にあるのがドラゴン城伯の城です」


高い山の上、天然の城壁のように険しく切り立った上に強固な城があるのが見えるのよ。

何度も改築をしているのか、所々壁の色が違うのがわかるのよさ。


「あの城は何百年も人にあらざる者達の領地を守り続けたこの地の象徴です。」


そう、あたし達に話しかけて来たのは、茶色いフード付きのコートを着た少女だったのよさ。

フードを脱ぐと、とんがった独特の耳が見えたのさ。


「あ、魔法の本で見た事あるよ!エルフだわさ!」


「初めまして、わたしはウィットリと申します。エルフの母とドワーフの父を持つ間の子、ドワエルーフなんて呼ぶ人もいます。母は他所からこの地へ流れて来た難民でした。でも、この地でエルフの血を継ぐものはわたしだけです」


そうなのねぇ・・・

しかし、ドワエルーフ・・・なんか響きがダサいのよ・・・もっと他に、かっこよさげな呼び方がありそうだけどねぇ・・・

確かに、エルフは人間が田畑を広げたり木材確保で森林を切り開くなどの問題で争いがあちこちで起こって、でも、エルフ達は団結力がほぼ無かった為、今では生息する地域は限られた土地にしかいない絶滅危惧種って聞いた事があるのよねぇ・・・


「彼女はこの村の教会を任されています。正式な司祭ではありませんが教会から特別認定として存在は認められています。ドラゴン城伯に会う為には、彼女の許可が必要なんですよ」


あたし達は馬車から降りて、集落の小さな教会の前で改めて自己紹介をしあったのよね。


「しかし、教化されたエルフがいると言うのは初めて聞きましたし、お目にかかりました。わたくしはエルフも洗礼される権利があると思っています」


宗教の自由、(教皇派に限る)っていう考えだわさ・・・


「そうですね。でも、他のエルフ達は改宗を拒み、今はこの地に残ったのはドワエルーフのわたしだけです・・・」


そうなのねぇ・・・

でも、やっぱりドワエルーフはだせぇのよさ・・・


「城伯様は領地に住む条件として、洗礼を受ける事を義務付けています。ドワーフも、苔の民も、ドラゴンも皆、教会の教えを信仰しています」


「ドラゴンって、城伯さん以外にもいらっしゃるのかねぇ?」


「はい。城伯の一族郎党皆、ドラゴンです」


「話がこれ以上長くなる前に、皆様が城伯様にお会いできるよう、手続きをします。この木の皮に住所とお名前と性別とご職業と今日の日付と来城理由と紹介のあった・・・この場合は辺境伯様なのでそこはわたしが書いておきます」


ああ、手続きめんどくせぇのよ。


「えっと、全員の分書きますか?」


「あ、詳しくは代表者様だけで、他は名前だけ書いて頂ければ大丈夫です」


代表者として、ハレルが書いたのよさ。


「あの、勇者は職業に入りますか?」


「えっと、勇者の場合は、聖戦士と記載して下さい」


「ハレル、わたくしの名前のスペルが間違えています。それではメメシアではなく、メメッチァアーになってしまいます」


「ご、ごめんない・・・」


「まあまあ、スペルミスはよくある事です。書き直さなくても大丈夫ですよ」


ドワエルーフのウィットリは、ハレルが書き終えた書類を持って、鳩に結び付けて放ったのよ。

でも、鳩は城へ向かわずに戻って来たのよさ・・・


「あれぇ・・・ごめんなさい。今日の受付は終了したみたいです・・・」


「え~・・・閉めるの早くないかねぇ?どうにか頼めないのかねぇ?」


「ごめんなさい。お役所仕事なもので・・・融通が効かないのです」


人もドラゴンも、こういう所は共通するのねぇ・・・




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