第76話 突然の依頼
『飲み終わる事を意識せねば、飲んでる事を実感できない』
―哲学者パイデッカー―
しばらくクリンゲルを宿のベッドで寝かせて、意識が戻るのを待ったのよ。
「っは!?こ、ここは・・・我はいったい・・・?!」
「目が覚めたようだわさ」
「ま、マジョリン!?それに、勇者さん達まで・・・!」
クリンゲルは慌てて騎馬族の仮面をかぶったのよ。
「ゴホンッ・・・えっと、勇者殿、我はダイムラー辺境伯からの伝言を伝えに来た!」
「今更かっこつけてもどうしようもないのだわさ・・・」
「・・・うっ、記憶がよみがえるぅ・・・我は何という醜態をっ・・・うわあああああああああああっ!!」
クリンゲルの脳裏に先程の醜態がよみがえったみたいで、その場でのたうち回ったのだわさ・・・
「き、記憶を消してくれぇ!!」
「そうすると、大事な伝言まで消えそうなのよさ・・・」
なんとかクリンゲルは落ち着きと自我を取り戻したのよ・・・
「そうである、ダイムラー辺境伯からの伝言がある。急な事態が起こったので、大至急、辺境伯領に来てほしいとの事だ」
「急な事態?」
「下手をすれば、戦争が起こってしまう事態である・・・」
「それは、勇者として止めれる事なのかねぇ?」
「辺境伯領の南に、ドラゴン城伯の特別自治区があるのだ。そこで何やら不穏な動きがあるとの事で、それの調査に行って欲しいとの事である。噂では、魔王軍と同盟を組もうとしているとか・・・」
「それは、勇者案件に入るかねぇ?」
あたしはメメシアの方を向く。
「ドラゴン城伯は、勇者相手に戦った暴君でしたが、聖人マーガレットによって改心したドラゴンの一族の末裔のはずです。そのような一族が、魔王と手を組むのは考えにくいです。わたくしは、行って確かめるべきだと思います」
メメシアの意見に、みんな賛成したのよさ。
もはや、勇者パーティーじゃなくて、聖女パーティーなのだわさ・・・
「では、我は言伝を伝え終えたので、さらばいたす」
そう言うと、クリンゲルはペガサスを呼び、それに乗って飛んでいこうとしたのよ。
「まってなのだわさ。せっかくだからあたしらも乗せてって欲しいのよ」
「5人も乗れぬ。そなたらは歩いて来てほしい」
「他の人数分のペガサスを召喚して欲しいのよさ」
「いや、無理である。そもそもペガサス1頭につき、ザントドルン(サジー)がどれくらい対価として必要だか」
「そんな、木の実が召喚対価なら安い方じゃないかねぇ~」
「そなたは簡単に言う・・・」
「辺境伯に請求しましょう。クリンゲルさんからは言いにくいでしょうから、わたくしが交渉致します」
「しかし、ご主人様からこのような召喚獣の対価を請求するなんて・・・」
「するべきです。それが仕事のあり方でしょう」
「・・・聖職者らしくない商売根性」
「いいえ。利益は出ませんから、商売的には不適合ですよ」
メメシアは変な所で柔軟性があるのよねぇ~・・・
まあ、おかげで助かる事も多いからいいけどさ~。
そんなもんで、クリンゲルはペガサスを他に3頭召喚してくれたのよ。
ハレルはメメシアと2人乗りする事になったのよさ。
「オレは馬には少し乗った事があるけど、ペガサスなんてはじめてだぜ」
「大人しいですよ。それに我に付いてくるように命じていますので、何もせずとも目的地まで飛んでゆけます」
みんな、ペガサスに乗って、手綱を持ったのよ。
「ハレル。飛んでる時は危険です。もっとわたくしの方にくっついて乗ってください」
っと、メメシアはハレルを引き寄せると、ハレルの後頭部がメメシアの大きな胸に挟まれたのよ・・・
「あ、いや、だ、大丈夫だよ・・・」
顔を真っ赤にして、少しでもメメシアから離れようとするハレル・・・
でも、すぐに引き寄せられ、愛の谷間に後頭部がうまるのであったのよ。
飛んで移動する間、ずっとこんな感じじゃハレルは到着する頃にはオギャってしまうだろうねぇ・・・
ハレルの将来の性癖が心配なのだわさ・・・
ペガサス達は大きな翼を羽ばたかせ、一斉に飛び立ったのだわさ。
空を駆け抜けて山を越えて、不思議な旅が始まる予感なのよねぇ~。
ロマンティックもらっちゃったのだわさ。
「地上の馬より、ずっとはやいのだわさ!」
「当たり前であるぞ。ペガサスは飛んでいるのだ」
「でも、いい召喚獣だわさ。クリンゲルのおかげで楽しい体験が出来るのよさ!」
「この後、ちゃんと辺境伯と交渉するのだぞ」
あたしはメメシアの方を向くのよ。
「どうしました?」
顔を赤くしているハレルが目に入ったのよ・・・
どうして、プロテイウスと2人乗りにさせなかったのかねぇ~・・・
まあ、あたしもこの状況を眺めるのを楽しんでいたからなのよねぇ~。
「マジョリン・・・よこしまな感情が湧き出てますよ・・・」
「あ、な、なんでもないのよさ」
アブナイ、メメシアに悟られる所だったのよ・・・
そんなこんなであたし達は無事にダイムラー辺境伯のいるベンズガルトの街に到着したのだわさ。
ペガサスから降りたハレルはふらふらしているのだわさ。
「ハレル・・・大丈夫ですか?酔ってしまいましたか?」
「ふぇ・・・め、メメシア・・・だ、大丈夫・・・・」
ハレルは鼻から血を垂らしてしまったのよ・・・
「大変。酔ってしまったのですね?気が付かずにごめんなさい」
っと、メメシアは布切れでハレルの鼻血を拭きとろうとしゃがんだのよ。
ハレルの視線はメメシアの胸にくぎ付けだったのがわかってしまったのよねぇ~・・・
しゃがんだ時に揺れるメメシアの胸をおがんだハレルの鼻から、どばーっと血が噴き出たのよ。
「あらら、少し休みましょう」
これでも全然気が付かないメメシアは、罪な聖女だわさ・・・




