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第8話 難民街の密造ビール

『我思う、故に酒あり』

―哲学者デカスギルト―




背の高くて長く町を囲む城壁。

サビス城の城下町にたどり着いたあたし達。


「美味しくて健康になれる万能野菜、ツヴィーベルはいかがかね?」


「豚肉の腸詰めのヴルスト、燻製したヴルストが安いよ~」


「パセリ、セージ、ローズマリーとタイム、ハーブそろえてあるよ~」


城下町の市場はとても賑わっていたの。

しかし、その反面、汚い布の敷物をし、行き交う人々に頭を下げ続ける物乞いの姿が多く見れたのよ。


「おかしい・・・サビス城の城主、テレ・フォン・サビス卿の領地は比較的、安定していると聞いたことがあるのに・・・」


「何か起きているのかもしれない。話を聞いてみようよ」


ハレルとメメシアは物乞いの人に声をかけ、何か異変が起きているのかと聞いたのよ。


「ああ、勇者様・・・私達は・・・私達の住む町が、魔王の配下にある強盗騎士団に襲われ・・・家も畑も家畜も全て奪われました・・・私達は命からがら逃げて参りました」


「そんな恐ろしい事が起きていたのですね・・・」


「サビス卿のご厚意で、城壁の内側にいさせて頂けていますし、わずかですが食料も配給して頂いているのですが、いつも飢えて貧しい生活を強いられています・・・」


徐々に他の物乞い達も近寄って来たの。


「仕事をしようにも、下水処理のような不浄の極みたる穢れた仕事でさえも無い状況なのです。我々は日々、道行く人々に恵みを乞う事しか出来ないのです・・・」


「勇者様、どうか、我々の村を奪い返していただけはしませんでしょうか?」


「この城の兵士達は対処してくれなかったのですか?」


「サビス卿配下の兵士達が三度、村を奪還しようと攻撃を仕掛けましたが、いずれも返り討ちにされ、私の息子も兵士として参加したのですが、帰らずに・・・」


そうさ、普通の兵士が立ち向かった所で末端であろうが魔王の騎士団に太刀打ちできるわけがないのさ。

魔王の配下の騎士はベーゼンクネヒトと呼ばれる魔人なのさ。

邪悪な魔力を宿した、強大な力を持つ人型の魔物なのだよ。

例えそれが強盗騎士をやっているような末端だとしても、常人が束になった所で勝ち目はないのよさ。


早速、村を奪還しに行く事をハレルは決めたのだが、事前に準備をしてから、明日の明朝に出発しようという事になったのさ。



☆☆



その夜、宿で行われた、難民の村人達も交えた明日の為の作戦会議が長くなった為、みんなが就寝する時間も遅かったの。

だけどさ、明日の為に、今日はお酒を飲んでおきたかったのだわさ。


いつものように、こっそりと宿を抜け出して、酒場に向かってみたはいいのだけどさ・・・


「あれ・・・?閉まってる・・・」


周囲を見渡してもシーンと静まり返っているのだわさ・・・


「おい!そこで何をしている!」


松明をかかげた兵士があたしに声をかけて来たのさ。


「あ、あたしは酒場で1杯やろうと思って・・・」


「馬鹿者!今は外出禁止の時間帯だ!酒場はもう、閉まっているのだ!」


「そうだったのですか~・・・あたし、知らなくて・・・」


「知らない?怪しいな・・・お前、ちょっと詰所に来い!」


兵士はあたしの腕を掴んで、連れて行こうとするのさ。

ああ、やばい・・・

でも、下手に抵抗するのもやばいだろうしさ・・・

魔法を使えば一撃で倒せる相手ではあるけれど、下手にもめ事を起こすわけにもいかないのだよ・・・


「おお、こんな所にいた!」


暗闇から声がした。

難民の村人の姿があったのさ。


「番兵さん、すみません。私達の知り合いでして、迷子になっちゃったのです」


「そうか、ちゃんと一緒にいてやらねばいかんだろ」


兵士はあたしを放してくれたのさ。


「勇者の仲間の魔法使い様、どうしてこんな夜中に外へ?」


あたしは恥ずかしいと思いつつ、お酒を飲むために抜け出した事を話したのさ。

すると、難民の村人はあたしをまねいて、城門近くの難民街に連れて行ってくれたのさ。

ボロボロの布や獣の皮で造ったテントがひしめき合っている難民街。

そこで何人か、焚火を囲って、丸太に腰をかけているのが見えたのさ。

焚火には、大きな鍋があって、じっくりと煮込み続けていた。


「魔法使い様、他の人達にはナイショですよ」


そういって、難民の村人は小さな木彫りのカップにビールを注いであたしにくれたのさ。

まあ、正確に言えば、深底のお皿なのだわさ。


「これは、配給されている小麦で造ったビールです。小麦は器量な食料で、ここらでは小麦からビールを造る事は禁止されているのですが、私達もビールが飲みたくなるもので、デュンビールも配給はされていますが、やっぱり酒成分があるビールは飲みたいのです。だから、こっそりと造っているのです」


「そんな貴重なビール、もらっちゃっていいのかな?」


「はい。村を奪還に向かってくれる魔法使い様ですから、少しでも何か魔法使い様の為にって思いまして・・・」


あたしはその密造ビールを見た。

濁りが強い、品質の悪いビールだったけど、ありがたく頂こうと思ったの。


1口、ゴクリ・・・


「これは・・香りが独特だね~。ハーブがいい感じに香りを付けてるんだね~。パンを飲んでる感じが強いのよ。これはこういう自家製って感じだから味わえる味だわさ」


「おお、流石は魔法使い様。これは私の家で続く秘伝の製法で作ったビールなのです。もっとも、村で作っていた時はもっといいものができたのですが、魔法使い様が少しでも喜んで頂けたのなら幸いです」


難民の村人は、他の皿にスープを盛りつけてくれたのさ。


「口にあうかわかりませんが、肉屋からもらいました捨てる豚の内臓や、くず肉と球根野菜のツヴィーベル、食用ハーブのチャイブ、マジョラムなどを加えて煮込んだスープです」


「貴重なお食事、わけてくれてありがとうなのよ。ありがたく、頂きますね」


このスープ、肉の臭みが強いけど、具の肉がいい感じに火が通っていて、食べやすい。

何よりビールにあう。

多分、今まで食べて来た料理に比べると、とても貧しい料理なんだと思うの。

でも、人と人の助けあいみたいな、やさしさで作られた心温まる料理だと感じたのさ。


しばらく難民の村人達から、村の話しを色々聞いたのよ。

子供の頃に遊んだ小川から、初恋の話し、誰かの失敗談とかさ。

まるで、古典にあった、3人の男と7人の女が語る100の物語のようにさ。


もうしばらく難民の村人達と語らい続けたかったけど、明日は早いから、あたしは宿に戻る事にしたのさ。


「魔法使い様、どうかご無理なさらず、よろしくお願いします!」


難民の村人達に見送られ、明日はより一層、頑張らねばと思ったのさ。




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