第73話 迷える子羊達の賛歌
『余の務めは、聖なる酒の酒造を作る事』
―ワカール大帝―
怨霊の狩猟軍団は消え去ったのよ。
魔女監獄も破壊されたが、囚人達は負傷者はいたものの、無事に救出されたんだわさ。
鉄のカゴに入れられて吊るされた人達は、カゴが頑丈だったおかげで助かっていたのよねぇ~・・・
魔女狩り隊は壊滅、魔女狩り将軍ハスラングは塩の柱と化したのさ。
あのしぶとく、悪魔よりも恐ろしい魔将の最後はあっけなかったのよ・・・
他の魔女狩り隊の兵士達は怨霊に狩り殺されたそうなのよ。
狩る者が狩られるなんて、皮肉なものだわさ・・・
街は至る所に建物の被害が生じ、負傷者も多く出たのよ。
幸い、街の人達に死者、行方不明者は出なかったの。
焼け落ちた建物や、崩れた壁など、痛々しい光景があちこちに見られたんだけど、みんな口々に、生きているからなんとかなるって言っていたのよ。
たくましくて安心したのだわさ。
あたし達は街の人達に歓迎されたのよ。
街を救った英雄として・・・
寸前まで、魔女監獄にぶち込まれ、臭い飯を食わされていたと言うのに、この変貌だわさ。
市長舎に招かれ、歓迎会が開かれたのよ。
あたしと、メメシア、ハレル、プロテイウス、ヴィトゥス、フォースタス博士は街の英雄として、市長代理から表彰されちゃったのよ。
「今、大司教は他所の土地にいますが、彼の行って来た恐怖政治の代名詞でもある魔女狩りの流れはここで断ち切れる事でしょう・・・あの怨霊の軍勢も、思えば犠牲者達の恨みが呼び起こした災害・・・これらから、市民を守って下さいました皆様に感謝をしない市民はおりません」
振る舞われた御馳走には、ツヴィーベルの中にひき肉を詰めた料理があったのよ。
「あ、これ。街の人に聞いた名物料理だわさ。たしか、ヤーバンブルクツヴィーベルって言う料理なのよ。みんなで食べる夕食はこれにしようって思ってた所で捕まっちゃってさ・・・やっと、みんなと一緒に食べる事ができるのよ・・・」
「マジョリン・・・すぐに助け出せないでごめんなさい・・・辛い思い、させてしまいましたね・・・」
「謝らないでよ~。メメシアがあたしの為に色々やってくれてるって、ちゃんと信じて問題起こさなかったんだわさ・・・」
すると、メメシアがビールを持ってきてくれたのよ。
「今日は、飲んでもいいですよ・・・」
そのビールは、ヤーバンブルクの名物、燻製ビールだったのよ。
1口、燻製の独特な香りと、ほのかな酸味、クセになる味・・・
身に染みるのよ・・・
「美味しい・・・美味しいよ・・・」
なんか、うれしくて、あたしは涙があふれてしまったのよ・・・
「マジョリン。よかったね。素敵な仲間達があなたにはいて・・・羨ましい限りよ」
「ヴィトゥス。君さえよければなのだが、私の助手にならないか?錬金術の研究の為にならないか?」
「フォースタス博士・・・わたしはあなたみたいな優秀な錬金術師ではありませんよ?」
「何を言う。君は信頼できる。私の助手になってくれ」
「助手なんて大儀な事、わたしには務まりませんわ・・・でも、弟子にしてください」
「ああ。喜んで迎え入れよう」
監獄で巡り合った2人にも、何か絆が生まれたようなのよ。
「ヴィトゥス。ちゃんとフォースタス博士を見張ってなさいねぇ。また、爆発するかもしれないのだわさ」
「君は私を何だと思っているのかね?」
みんな笑顔で、語り合って、あの監獄で過ごした時間が噓のような明るさがあったのよ。
「ハレル、マジョリン、プロテイウス、少し真面目なお話し、いいでしょうか?」
メメシアは前に狼男達のアジトから入手した金貨を取り出したのだわさ。
正直、忘れてたのよ・・・
「これを被害にあった街の修復費の為に寄付をしようと思います。よろしいでしょうか?」
それはみんな賛成なのよさ。
あたし達は、被害救済としては微々たるものだけど、金貨を5枚、市長代理に手渡したのだわさ。
「そんな・・・助けていただいたというのに、さらに寄付まで・・・」
市長代理は泣いて喜んでくれたのだわさ。
集まった人達も、感謝の言葉を沢山送ってくれたのよ。
まあ、求めてやったってわけじゃないんだけどさ、気分はいいものねぇ~・・・
でも、これで少しでも早い復興が行われる事を祈るばかりだわさ。
☆☆
楽しい宴も過ぎ、次の日の朝・・・
あたし達は街を離れる事になったのだわさ。
街の広場で、ヴィトゥスとフォースタス博士にお別れの挨拶をするのよさ。
「マジョリン。また、会えるかしら?」
「きっと会えるのよ。ヴィトゥス、元気で暮らすんだよ」
「次、会う時はまた、別の名前、名乗ってるかも」
「何?前はドクトルなんちゃらって名乗ってたって聞いたけど、そういう通名を使うの好きなのかねぇ?」
「そうよ。好きな名前を名乗ったり、それで呼ばれるって、なりたい自分になれるみたいで素晴らしい事なのよ。次は・・・ヴァーグナーとかいいかなって思うのよ」
「まあ、もし会えても、ヴィトゥスって呼ばせてもらうのよさ」
「マジョリン。短い間だったが、君と語り合った日々は大切な思い出になるだろう。もし、全てが終わったら、会いに来てほしい。みんなでお酒でも飲みながら、語り合おう」
「そうねぇ~・・・楽しみだわさ。探しやすい所で研究続けて欲しいのだわさ」
『吾輩だ。心に直接話しかけている。吾輩から言える事は1つだ。酒は飲みすぎるなよ』
『マジョリン。魔王と戦うなんて、大変な事だけど、きっと、マジョリンなら大丈夫だと思うよぉ。神のご加護があらんことを』
メフィスとフェレスは姿を現さなかったけど、その言葉は伝わったのだわさ・・・
あたし達はこうして街を出たのよ。
朝の教会の鐘が鳴り、まるであたし達の門出を知らせているようだった・・・
いや、振り返れば、街の人達が見送りに集まっていたのだわさ。
「マジョリン・・・みんな、手を振ってるよ」
「そうねぇ~。こうして見送られるのも、みんなのおかげなのだわさ」
真心からの感謝の言葉は、人を強くたくましくさせるんだなぁ~って、実感したのだわさ。
何処かにあたし達を待ってる人がいる・・・
あたし達の旅は続くのよ。
信頼できる仲間達と、旅の記憶を道連れにねぇ・・・




