第66話 同じ時代を生きた偶然
『良酒は体に苦く心に利あり』
―子牛―
今日も朝からヴィトゥスと一緒に、来る恐るべき魔法に対抗する手段を模索していたのよさ。
そこへ、魔女狩り将軍のハスラング将軍がやって来たのよさ。
「魔女の2人。調子はどうだ?何か対策につながるものでも見つかったか?」
「何の成果も得られませんだわさ」
何か、昨日と同じような事をやっているのよさ・・・
「そう言うだろうと思って、今日は強力な助っ人をお呼びした。大司教様の客人である。粗相の無いようにな」
っと言って、ハスラング将軍と入れ替わるように部屋に入ってきたのは、黒服黒マント姿の若い男性だったのよ。
彼の身にまとう邪悪なオーラからして、悪魔と契約をしているタイプの魔法使いだって、わかっちゃったんだわさ・・・
「やあ。君達がこの監獄に捕らわれている本物の魔法使いか?」
「まあ、そうだけどねぇ・・・」
「見張りの兵がいては、話しにくいだろ?」
っと、その男は振り返り、兵士達に部屋から出て行くように言うも、兵士達は魔女の監視を続けないとならないので、それは出来ないと断ったのさ・・・
「そうか。では、仕方がない。強制的に退席してもらおう」
っと、男は指を鳴らす。
すると、先程まで言う事を聞かなかった見張りの兵士達は、突然部屋の外へ出て行ってしまった。
「さて、邪魔者はいなくなった。改めて挨拶しよう。私はゲオルクと言う、魔法使いであり、錬金術師であり、聖霊的治療者でもあり、占星術師でもある」
「わたしはヴィトゥスです・・・」
「あたしはマジョリンだわさ。あたし達よりも、魔女監獄にいるべき人材が、まさかの大司教様様に客人扱いされてるなんて、驚きだわさ」
すると、ゲオルクは笑ったのよ。
「この監獄に魔法使いが入る事は間違えている。大司教領内で、資産があるが、地位は低い者達を狙って魔女狩りが行われているのだよ。そう、大司教の財源を確保する為にだ。拷問は、何か隠し財産がある者に行われる」
「・・・え?じゃあ、捕まってるのは皆、魔女とかそういうのじゃ無かったの?!」
「何かの手違いで1匹、羊がいた以外はそういう事だ。旧約の民も多く狙われて、この監獄で命を落とした。囚われている本の正体は、ゴシップ本でも無い。旧約の民のカバラーの本、魔術書だ」
「でも、魔法使い相手にする為か、兵士が火縄の無い銃を携帯しているのは・・・」
「あれはゼンマイの力で滑車を回転させ、火打石の火花を使い着火する銃だ。だが、ゼンマイはずっと巻きっぱなしにしておくわけにはいかない。火薬も弾も、撃つ寸前に装填するんだ。別に、大司教が力を見せつけているだけに過ぎない」
「そもそも、魔女を捕えて殺している大司教が、どうしてあんたみたいな魔法使いを客としているのよさ?」
「私は大司教に頼まれ、ホロスコープを用いた占いをやったのだよ。まあ、あまりにも最悪な結果が出たものでね、少しでも最悪な運命を軽減させたいと考えたのだが・・・現状は困難を極めているようだな」
ここで、妙に黙り込んでいたヴィトゥスがゲオルクに近寄ったのよさ。
「あの・・・こんな事を聞くのは・・・えっと、間違えていたらごめんなさい。単刀直入に尋ねますわ・・・」
おや?悪魔と契約しているであろう事を尋ねるのかねぇ~・・・
「あなたは・・・あなたが、かの有名なフォースタス博士ですよね?」
フォースタス博士・・・さりげなく噂は聞いた事があるのよさ。
大学の研究者だった人で、医学、哲学、自然科学、物質学など、様々な研究をしていたんだけど、究極の英知を求め、悪魔と契約をしたとされる人物だわさ。
「そんな、大物魔法使いが、魔女狩りを進める大司教と仲良くしてるなんて、予想外にも程があるのよさ・・・」
「だから私は嫌われている。すべての人にとっての悪魔と、君達魔女側にとっての悪魔と、どちらとも契約を結ぶのだからな。ちなみに、悪魔と契約している事は正しいが、それだけではない」
ゲオルク・・・いや、フォースタス博士は呪文を唱え始めた。
「パリファスタ フィルミス デメカ ハイム」
詠唱後、指を鳴らすと、床に真っ黒な異空間につながる穴が開き、紳士に着飾った1体の悪魔が姿を現した・・・
もう一方に、光の塊りが現れ、その光がはじけ飛んで、中から少年の天使が現れたのよ・・・
「悪魔のメフィスと、天使のフェレスだ」
「悪魔と天使、双方に契約を結んでいるなんて、初めてみたのよさ・・・ってか、天使って契約できるの知らなかったのよさ・・・」
天使はあたしの言葉にうなずいたのよ。
「ボクも、人間と契約できるなんて、知りませんでしたよぉ・・・だから、堕天使扱いになっていたらどうしようかと、気が気でなりませんよぉ・・・」
可哀想な天使だわさ・・・
「フェレス、もし、堕天使扱いされていたら、吾輩の所へ来ると良い。悪魔の世界で堕天使は、エリートコース間違いなしであるぞ」
「ひえ・・・悪魔が優しいよぉ・・・」
「余計な話しはここまでにしておこう。メフィスよ。今の状況、どう打開すればいいか教えてくれ」
「よいとも。我が契約者よ。魔女が自信を生贄に発動させた、いわゆるワイルドハントを召喚する魔法。これに間違いは無い。だが、強力な魔力を秘めた魔女とは言え、1人の生贄で召喚できるものではない。されども、召喚の儀は成功している。我が契約者よ、何故だと思う?」
「生贄・・・魔女狩りの犠牲者がその役割をしているのか?」
「ご名答。メフィスポイント3点を与えよう」
あたしゃさりげなくフェレスに尋ねたのよ。
「メフィスポイントって何?」
「メフィスがふざけて言っているだけなんだけど、100ポイント貯めると、メフィスと精神体状態で行く、7日間過去の時代へ冒険ツアーのチケットがもらえるそうなんだよぉ・・・」
「面白い悪魔だねぇ・・・」
「でも、あくまでも悪魔だから気を付けなよぉ・・・」
「我が契約者よ。魔女狩りの犠牲者の魂は、天に召される事も無く、また、肉体は焼かれ、骨は砕かれ、川にばら撒かれ、二度と蘇る事ができないでいる。これらの魂をどうにかすれば、ワイルドハントの召喚の妨げとなるであろう・・・」
すると、フェレスが手を挙げたのよ。
「はいはいはい。さ迷える魂の件はボクに任せてください。でないと、メフィスはその魂を・・・閉じ込めてしまいますよぉ・・・その・・・あの・・・それでは魂に救いはありませんよ・・・・」
「しゃしゃり出るな天使よ。お前さんの仕事は遅い。吾輩が一瞬で片付けてみせよう。我が契約者よ。吾輩に命令を与えよ」
「だめです。メフィスに捕まった魂は、無駄に苦しみ続ける事になるし、救いは無いじゃないですか。ボクに指示してくださいよぉ」
フォースタス博士はしばらく考えたのよ。
「正直、フェレスはさ迷える魂を捕らえるのが苦手である。ここは、メフィスに任せる事にしよう・・・」
「任せる、吾輩の好きな言葉である。良い判断だ、我が契約者よ」
「ボクの力不足かよぉ・・・悔しいよぉ悔しいよぉ・・・ギギギ・・・」
「我が契約者よ。命令の言葉を述べよ」
フォースタス博士は指で空中に印を描いたのよ。
「インペリウム マグナム インフェルナリス 我が契約の名の下、我が願望に答えよ」
メフィスは不気味な笑顔を浮かべ、空中に身を浮かせ、壁を透きぬけて外へ出て行ったのよ・・・
「これで、メフィスが犠牲者の怨霊を回収すれば、ワイルドハントの出現率は大きく低下するであろう」
「でも、虐げられた魂は、メフィスの所有物になって、苦しみが続く事になっちゃうよぉ・・・ボクはそういうの・・・嫌だよぉ・・・」
「それでも、街の全住民の命と比べれば・・・」
フォースタス博士は苦渋の決断をしていたのよさ・・・
メフィスが魂を回収し、これで無事に解決すると思われた、その時だった。
「デウスロヴォルト!!」
ドカァァーーーーン!!!
外から大きな声がし、爆裂音と共に一瞬、天高く突き抜ける光の十字架が現れ、その輝きの強さのあまり、周辺が暗く見えた程であり、物凄い霊力から大地が大きく揺れたのよ!
「な、なんだ今のは!?」
壁を透きぬけて、メフィスが慌てて帰って来たのよさ。
「外に恐ろしいやつがいる!吾輩の魔力すら弾き飛ばす程に恐ろしい聖霊の力の塊り、亜使徒レベルの聖女がいる!」
悪魔が慌てて逃げて来る・・・そんな相手・・・
「メメシアが外にいるのかねぇ・・・」
「知り合いか?」
「あたしの仲間なのよさ・・・」
さて、どうなることやら・・・




