第58話 大聖堂の聖なるビール
『酒は時間的な存在である』
―哲学者パイデッカー―
大聖堂を目指し、今日もの山の小道を行くのであった~。
「みんな!見て!大きな建物があるよ!あれが大聖堂じゃないかな?」
勇者ハレルは無邪気にはしゃいでいるのよさ。
まあ、無邪気であざとい所、嫌いじゃないねぇ。
「ボク、あんなに大きな建物見るの、初めてだよ!」
「ハレル。そんなにはしゃぐんじゃありません。田舎者と思われますよ」
「え~、メメシアはあの建物見て、おどろいたりしないの?」
「ええ、建物の大きさなんて些細な事です。大事なのは神様を信じ大聖堂をうんぬんかんぬん」
メメシアは堅苦しい小言をハレルに伝え続けるのよさ。
ハレルも真面目なんだねぇ~・・・
ちゃんとメメシアの話を聞いていたのさ。
途中で3、4体、イノシシのような魔物に遭遇したんだけど、メメシアの話しは止まらないのよ。
まあ、モンスターはあたしの攻撃魔法でぶっ飛ばしたんだけどねぇ。
結局、メメシアの長話が終わったのは、下山して、大聖堂の近隣の町に到着した頃だったのよさ。
「今日は山を越えて、みんなも疲れているから、大聖堂に入るのは明日にして、休める場所でも探そうぜ?」
戦士プロテイウスの提案だが、メメシアは首を横に振ったのよさ。
「だめです。大聖堂に来たからには今すぐにでも大司教様に会いに行くべきです。そうでなくてももっと近くで大聖堂をちゃんと見るべきです」
そう、一番はしゃいでいたのはメメシアだったのさ。
「うん、メメシアの気持ちもわからなくもないけど、ハレルの顔、見てよ。こんなに青ざめて、疲れ切っているのだわさ」
ハレルは長い長いメメシアの話を聞き続けて、疲労困憊のようだったのさ。
「ごめんねメメシア、ボク、妙に疲れちゃってさ・・・大聖堂に入るに、こんな状況だと失礼かもしれない・・・」
珍しくハレルが弱音を吐くと、メメシアは酷く落ち込んだ様子で黙り込んでしまったのよさ・・・
宿はすぐに見つかったのよ。
大聖堂に訪れる人々でにぎわっていて、1部屋しか空きが無かったのよ。
「ちょっと早めだが、飯でも食いに行こうぜ」
「そうですね。日も暮れてきましたし、早いうちに行ったほうが混まなくていいかもしれませんね」
あたし達は宿の隣にある食堂へ向かったのよさ。
客は多いが、席は確保できたのよ。
「がっつりした肉料理が食べてえぜ。筋肉の栄養素が必要だ」
「プロテイウス。何を言っているのですか。そんな殺生な食べ物、大聖堂の近くにあるわけないでしょう」
夕食は、メメシアの言う通り、肉が無い食卓だったのよ。
カブを茹でたものに細かく切ったケールという野菜の葉っぱをまぶしたものと、レンズ豆と野菜のスープだったのよ。
美味しいとは言えない味だが、食べるしかなかったのだわさ。
「よかったら当店おすすめのグルートビールはいかがですか?」
店員が話しかけてきたのよさ。
グルートビール・・・それは気になるねぇ~・・・
「いえ、お酒は遠慮させていただきます」
メメシアは即答だったのよ・・・
しかし、店員はすぐに引き下がらなかったの。
「大聖堂で作っているグルートビールなんですよ。このグルートビール、評判が良くて、わざわざこれを飲みに、遠方から足を運ぶ人もいるんですよ」
なんと、そんなに人気のお酒があるとは!
是非とも飲んでみたいものだねぇ~・・・
「メメシア。大聖堂が醸造しているビールだわさ。これは飲んでも罪にはならない、むしろ飲む方がいいのでは?」
「ダメです。マジョリンは魔王を倒す為の勇者の仲間の一員である事をもっと自覚してください。お酒は邪悪な存在なのです」
メメシアは頑固だわさ。
一歩も譲らなかったのよ。
あたしはしょんぼりっくメランコリー・・・
気まずい空気のまま、あたしらは夕飯を済まし、宿に戻ったんだ。
☆☆
日も沈み、みんなは早くも眠りについていて、ぐっすりすやすやしてるのよさ。
それもそうなのだわさ。
あたしがこっそりと催眠魔法を放ったもんで、みんな早々に熟睡状態だわさ。
あたしは堂々と部屋を抜け出し、先程みんなで夕食をとった食堂へ行ったのよさ。
店先で、店員のおじさんがあたしの姿を見て、にっこり笑顔を浮かべたのが見えたのさ。
「いらっしゃい。おや、さっき4人組で来てたでしょ?」
「だわさ。飲めなかった名産品のビールの味を確かめに、こっそり来ちゃったのよねぇ~」
「それは正解だね。今、カウンター席が空いてるから、座って待ってて。すぐに用意するからね」
先程来た時よりも賑わう店内。
客は皆、ビールをたしなんでいる感じなの。
地方から訪れたであろう巡礼者や、旅の商人、近隣住民、みんな頬をほんのり赤くして、いい感じしてるのよねぇ~。
「はいよ。これが噂の大聖堂醸造のグルートビールだよ。後、おまけでコォルの漬物もどうぞ」
「わあ、おまけまでもらっちゃっていいわけぇ~?」
「いいよいいよ。さっき、お連れの厳しい感じの人にダメって言われてすっごい落ち込んだ顔していたから、気になっていたんだよ。でも、こうやって飲みにこれて本当によかった。おじさんもうれしいぞ」
全容を見られていたとは、妙に恥ずかしい気持ちにもなるけどさ、このご厚意、ありがたく受け取っちゃうのだわさ。
早速、待ちに待ったグルートビールをぐいっと1口・・・
ゴクリ・・・ゴクリ・・・
「っくっはぁぁぁあああ~~~っ!染みるぅ~!やっぱりビール最高!」
口の中に広がる優しいくも清潔感のある香りが鼻の奥に広がっているのよさ。
そして、どこか優しい甘さを感じるのよねぇ。
まるで、聖母の祝福を受けたようだわさ。
「この独特な香り・・・苦みも普段のビールとは違う感じだねぇ・・・ハーブは何を使っているのかねぇ?」
「はっはっはっ!そいつはオレ達にもわからねえ。大聖堂門外不出の秘伝のレシピがあるんだぜ」
っと、店員さんから聞いた話し、通常のビールはホップを使って爽やかな風味と殺菌作用をもたらしているんだけどさ、このグルートビールはホップ以外のハーブを使っているのだとさ。
大聖堂の伝統的な製法を続けているってねぇ・・・
まあ、ビールにホップを入れたものを広めたのも、とある修道女だったりするんだけどさ、ビールと修道院、大聖堂は切っても切れない縁なわけなのさ。
ただ、メメシアには、こういったうんちくを聞かせても聞く耳持たずだろうねぇ~・・・あいつは変に頑固だわさ。
大聖堂の秘密・・・こいつはミステリーだわさ。
詳しくなくとも大まかに何を使っているのか気になる所ではあるのよねぇ。
3杯飲んで、満足して、店員のおっさんにもお礼言って、あたしゃ宿にこっそり戻ったのよさ。
みんなより一足先に大聖堂を味わっちゃった感じなのよねぇ~。
まあ、特にメメシアには悪いけどねぇ~。
朝も早いだろうから、ぐっすり寝る事にしたのさ。




