第55話 魔法使いのチャルダッシュ
『酒は心を打ち明けさせる』
―哲学者カント―
鉄の仮面を付けたマギャロ人魔法使い、クリンゲルとの魔法対決はあたしの勝利で終わったのよさ。
辺境伯令嬢のメルセデスお嬢様も、究極魔法にはちょっとひいていたけど、あたしの魔法を絶賛してくれたのよさ。
ダイムラー辺境伯もあたし達の実力を認めてくれたのよさ。
魔王が脅威であるこのご時世、勇者を名乗り、資金を要求する輩が多いそうで、本物かどうかを見分ける術として、魔法対決をお嬢様が考案したそうだわさ。
また、騎士の私闘禁止条例以降、稼ぎ口を無くした騎士が資金だけ得ようと企んでいるってのもあるそうなのよさ。
近頃の騎士は神聖帝国の領地の平和活動推進として、同盟を組んでる連中がいるとの事なのよ。
その騎士団同盟はズィーベン同盟って言うらしく、昔は帝国の脅威になる勢力の廃除や帝国内の貴族の汚職などに対応していたらしいけど、今は魔王とは戦わず、力の弱まった同盟外の騎士団を強盗騎士だとか、魔王の支援者だとか言いがかりを付けて領地を奪っているらしいのよさ。
そんなもんだから、うさぎ狩り同盟なんて皮肉で呼ばれているみたいなのよねぇ。
前にメメシアが言っていたけど、騎士はろくな連中じゃないって感じなのさ。
ただ、ヘーニッヒ一族はこういった同盟には加わってはいないそうなのよ。
ハレル達は辺境伯や辺境伯の家臣、街の教会の人達、街の役人とかと話をしているのよ。
どうやら、本題の資金に関しての事らしいのよねぇ。
でも、あたしは妙にさっき対決したクリンゲルが気になってさ、探してみたのよね。
すると、宮殿の裏庭で、ワインの樽を魔法円の中にぶっこんでいたのよ。
「召喚のお代は支払えたみたいだねぇ」
「なんだ・・マジョリン、見ておったのか・・・」
「なぁに、一度負けた程度で落ち込まないのよぉ。例え頭が3つだけとは言え、ドラゴンを召喚できる魔法使いなんて、この世に何人いるかわからんのよさ」
「お世辞はよせ・・・」
クリンゲルは鉄の仮面をとったのよ。
まあ、羨ましい程の金髪美女だったのよねぇ。
「仮面付けるのが勿体ない程の美女だわさ・・・ルッキズムオブザルッキンだわさ!」
「マジョリンが何を言っているのかよくわからぬが、褒めたとて・・・」
「あたしは正直、あんたをはじめ、見下していたさ。でも、本当は凄いって事、あの対決中にわかったのよ。だから、あたしはあんたの失敗を笑ったりはしないさ」
クリンゲルは少し恥ずかしそうにするも、
「マジョリン・・・ちょっと、付き添ってはくれぬか?」
っと、あたしと街の酒場に入ったのよさ。
テーブルに置かれたランプの油皿のぼんやりとした灯りはあまり質の良くない獣油の独特な香りをたてていたのよ。
そこで白ワインを飲みながらお話ししたのよさ・・・
「我は、我はメルセデスお嬢様の道具に過ぎなかった・・・なんとなくわかってはいた・・・けど、認めたくは無かった・・・」
「いやいや、道具なんて、あんたはちゃんとお勤めを果たしているだけでさ・・・」
「道具であるよ・・・偽物勇者を追い払う為の道具。でなければお嬢様がマギャロ人である我を採用するわけが無い」
「それは生まれ育ちとか、何人とか関係無いと思うのよ。信頼しているからそういう重要な役割を与えているんじゃないのかねぇ?」
ああ、厄介だわさ・・・
あたしゃよく、魔法使い仲間からも共感性が薄いとか言われがちなのよねぇ。
さっきまで敵対していたってのに、相談を聞かねばならないなんてねぇ・・・
まあ、せっかく酒場に来たんだし、何かおすすめの料理を1つ、注文しておいたのよね。
そしたら、薄いパンの生地の上に刻んだツヴィーベルやベーコンがまぶしてあって、その上にチーズがトッピングされ、こんがりと焼きあげられた料理が出てきたのよさ。
ディネテって言う、ここらの料理なんだってさ。
南の方の料理、ピッツァに似ているやつよ。
切り分けて、食べたけどさ、美味しいんだよねぇ。
ワインが進むのよさ。
「人が悩みに悩んでいるというのに、幸せそうに食べるものだな・・・」
「クリンゲルも食べてみなよ。少しは気分も良くなるのよ。ほら、お昼そんなに食べて無いみたいだしさ」
クリンゲルもディネテを食べてみるのよ。
「確かに、疲れているからか、いつもより美味しさが身に染みる・・・」
「だしょ?あ~、グラスのワインが空だわさ・・・店員さーん!ビール、おすすめのちょうだ~い!」
「マジョリンはお酒が好きなんだな」
「大好きだわさ。飲むために生きているって言っても過言じゃないねぇ」
「そうか・・・我は魔法を磨き、偉い人に認められ、安定した地位を得る為だけを考えて生きて来た・・・そなたのような考えを持つ者は、いずれもダメな人間であると思っておった」
「まあ、ダメな人間の自覚はちょっとあるけどねぇ・・」
「見せる魔法をすぐにやる事を拒む程に、自信の魔法にプライドを持ちつつ、そして腕も確かで、でも、このように酒にはだらしがない一面があると言うのが不思議に思える」
「完璧な人間であろうとし続けるってさ、背伸びしているようなものじゃん?あたしゃ背伸びし続けていると足が疲れちゃうのよさ」
「魔法以外に、上手い生き方もそなたから学ぶ所があるようだ・・・」
「そんな難しく真面目に考えるから疲れたり、自暴自棄になるのよさ。ほら、この白ビールも美味いよ。飲みやすく、苦みもまろやかで、飲んだ後に程よく控え目な甘みが口の中に広がるのよ」
「そうなのか。我も次はそれを注文することにしよう」
「まあ、あたしもさ、こんなダメ人間だし、勇者と一緒に旅する資格なんて無いんじゃないかって思う時もあるのよさ。そんなことはないって言ってくれる言葉の裏側なんて、わからないじゃん?不安はいつでも付いてくるよねぇ・・・」
「そんな、マジョリンこそ勇者と共に旅するに相応しいとわかるぞ。なんだかんだ冷静に対処して、消して取り乱す事も無い。そして、使うべき時に禁術という奥の手も使える。尊敬に値する」
「ありがと。あんたもメルセデスお嬢様からの信頼は減ったりしないと思うのよ。あの人は魔法よりも人を見ていたからねぇ。だから、あたしがむきになって、禁術使って、困惑させちゃった感じだと思うのよ」
「いやいやマジョリンこそ~」
「いやいやクリンゲルこそ~」
「「へへへへへっ」」
ってな感じで、2人でなんか慰め合ってるような、褒め合ってるような、妙な会話が続いたのよ。
でも、クリンゲルはいいやつだったのがわかったしさ、話し合って気もあう仲になれたのよ。
2人でビールのおかわりしてさ、改めて乾杯することにしたのよ。
「あたしの仲間の戦士が言っていたのよ。あいつ、元傭兵でさ、仲良くなる為の乾杯は強くグラスをぶつけ合って、お互いのビールが相手のジョッキに入るのがいいってね。毒が無い証拠的な意味合いから来ているらしいけどさ」
「良いな。やるか。親しくなる為の乾杯とやらを」
「「乾杯!!」」
今日、1人の友達が出来たのよさ。
☆☆
次の日の事。
ダイムラー辺境伯との交渉は上手くまとまったようなのだわさ。
ヘーニッヒはお礼を言って、お別れになったのよ。
ハレルとヘーニッヒは、このわずかな期間でとても仲良くなっていたようで、別れの際、お互いハグをしあっていたのよねぇ~・・・
うん、ショタ同士、眼福なのだわさ・・・
あたし達も、この街を離れ、旅を続ける事になったのよ。
辺境伯やメルセデスお嬢様、そして、クリンゲルとも別れを告げたのよ。
旅をするって事は、人との出会いと別れが目まぐるしいものねぇ~・・・
でも、またいつか、会えるような気もするのよさ。
出会いはきっと、人生の財産なのだわさ。




