第54話 魔女対決の舞曲 No5
『2人で黙って飲むがいい。その沈黙に耐えれるならば』
―思想家キムチゴール―
あたしが辺境伯令嬢のメルセデスお嬢様のお願いで、見せる魔法をして、喜ばれていたら、広間の絨毯からメルセデスお嬢様に仕える魔法使いが出て来て決闘を挑まれてしまったのよさ。
「っで、あんた、あたしが魔法使うまでその絨毯に隠れてたの?」
「そうだ。途中で皆が昼飯へ行った時は出る機会が無くて悲しかったぞ!」
それは可哀想・・・
「おぬしが戻る前に、急いでパンとスープをかっこんで、また絨毯で待機していたのに、随分とのんびりしおって・・・」
それは逆恨みだわさぁ・・・
「勇者に仕える魔法使い!我と勝負せよ!どちらが優れているか、メルセデスお嬢様の前で決着をつけようぞ!」
「いやいや、あたしゃそんな意地の張り合いみたいなの、したくはないのよさ・・・それに、あたしはマジョリンって言うのよ」
「マジョリンか。我はクリンゲル!メルセデスお嬢様に仕える魔法使いだ!」
「わかったわかった・・・その仮面は何さ?」
「この鉄仮面は我が祖先より受け継がれしクマノニア騎馬戦士の仮面である。我はクマノニア人を祖にもつマギャロ人だ」
マギャロ人・・・
東に位置する国の人か・・・
スルターンとの戦が続く地域だったかねぇ・・・
「マジョリン!おしゃべりは早々に切り上げ、我とどちらがメルセデスお嬢様を感動させる魔法が見せれるか、勝負だ!」
「もう、なんでそんな無利益な事をしたがるのよさ・・・マギャロ人の特徴なのかねぇ?」
「辺境伯ご令嬢様に、いい魔法使いであると認められるという事は利益ぞ。マギャロ人のハングリー精神をくすぐるのであるよ」
クリンゲルは湾曲した刀を鞘から抜き、くるくると軽やかにまわす。
「さあ、我の媚魔法に付いて行けるか?!」
「堂々と媚てるぅ~」
クリンゲルの周辺に光り輝く玉がいくつも現れ、様々な色の光を放っている。
クリンゲルが華麗にステップを踏み、舞い踊りながら玉を刀で斬ると、玉は虹を放ちながら散って行く。
見事に色鮮やかな見せる魔法である。
「ああクリンゲル!そなたの魔法が一番じゃ!わらわも踊りたくなって来たぞ!」
「おお、流石我が娘に従える魔法使いだ。喜びに満たされる気持ちだ!」
ん?何かおかしいな・・・
「こいつはすげえ・・・オレの筋肉も何故か踊りを欲する!」
「わあ、すごい・・・ボク、こんな凄い魔法見るのは初めてだ・・・」
プロテイウスやハレル、ヘーニッヒまでもがクリンゲルの魔法に感化されているのよ・・・
「マジョリン。これはわたくしとしては正直NGに値する魔法ですよ」
冷静さを保っているメメシアはあたしにそう忠告したのよさ。
そう、これはただ綺麗に見せるだけでなく、人の感情を操作する魔法だわさ。
あたしもわかっちゃいるんだけど、妙に体がリズムを刻みたがる・・・
「さあマジョリン・・・我の魅力に墜ちるのだ!」
だけど、こいつに負けるのは妙に癪だわさ・・・
ここは、あまり使いたくないけれど、強力な魔法を1つ入れておかねばならないようだねぇ!
「秘儀、拒絶魔法!『ドゥハスト』発動!」
あたしに向かってかけられる魔法、神秘術、呪い、それ以外の物理現象やら何やらを拒絶する究極魔法の1つ。
この魔法は魔力を大量消費するが、あたしは何も受け付けない無敵状態になるのよさ。
故に、地上からの縛りにも開放されるので、あたしは空中に体を浮かすことになるのだわさ。
「なんだその魔法は?逃れようとは無駄なあがき!我の魅力に染まれ!」
虹のオーラがあたしの周りを包み込む。
「否っ!」
あたしはそれを拒絶し、虹のオーラを消し飛ばす。
そして、消し散らした虹のオーラを爆散させる!
花火のように鮮やかに、でも激しく豪快に!
「何!?我の魔法を受け付けない!?」
「あんた・・・・」
「な、なんだ?!なんだその魔法は!?」
「あんたの魔法にあたしは答えない!」
あたしは床から稲妻を沸き立たせ、炎を吹き上がらせる!
「魔王と対峙する魔法使いなのさ。甘っちょろい魔法なんか知らないのよねえ!」
「マジョリン!ここまでです!」
っと、メメシアが止めの止めの言葉を言うのよ。
まあ、全てのしがらみから解放される魔法だけど、メメシアの声は聞こえるようにしておいたのよさ。
そういう制御くらいはできないと、危険な魔法だからねぇ。
あたしは『ドゥハスト』を解除し、地に足を付けたのさ。
メルセデスお嬢様も、怯えているような顔をしていたのよさ・・・
ちょいと刺激が強すぎたのかもねぇ・・・
「こういう訳で、一方的に勝負と言われても、分野が違うから勝負にならないのよさ」
「侮辱だ・・・我を侮辱した!貴様を許さない!」
クリンゲルは刀を床に突き刺し、呪文を唱えたのよ。
「いでよ!サルカーニ!!」
すると、床に魔法円が映し出され、その円の中からドラゴンの頭が1つ、2つ、3つと出てきたのだよ!
「これは、マギャロの多頭ドラゴン!?」
「そうだとも!我の召喚術に恐れおののけ!」
するとドラゴンが言った。
「クリンゲルよ。魔法円が小さくて、他の頭がつっかえて出れぬのだが、どうにかならんか?」
「え?いや、これ以上大きい円は流石に・・・ここ、室内であるし・・・」
「クリンゲルよ。お前、馬鹿だろ・・・オレは後、21個の頭があってだな、それに胴体だって翼だってあるんだぞ!こんな狭い所に出そうとするな!!迷惑だ!」
「ああ、すまぬすまぬ。頭3つで十分だから、そのまま相手を威圧してはくれぬか?」
「はあ?お前、この体制キツイんだよ・・・召喚魔法円の下、結構無理な姿勢なんだよ・・・」
「頼む!先っちょだけ、先っちょだけでよい!無理は承知で、後に羊を1頭、捧げ奉る・・・」
「1頭だけじゃあわねえよなぁ~・・・」
「では、ワインも奉るぅ!」
「・・・っち、わかったよやるよ」
「おお!感謝するぞ!」
すると、ドラゴンはあたしの方を向いたのよ。
「お前が敵対する魔法使いであるな・・・俺様は本来、24つの頭を持っているのだが、お前如き、3つで十分だ!」
「いやぁ、4つは欲しいかもねぇ」
「っは!生意気な事を言いやがって・・・3つ、いや、2つで十分だ!」
ドラゴンは頭を1つ引っ込めた。
「サルカーニ!何故引っ込めるのであるか!?」
「クリンゲル!馬鹿!姿勢が辛いんだよ!ちょっと体制を直す間、引っ込めたっていいだろ!?」
「あのぉ、みっともないもめ方はおよしなよぉ~・・・」
「敵対する魔法使いよ!俺様は特にもめてなど・・・いたっ、あっいったたたっ・・・足つった・・・」
ドラゴンは魔法円の中に帰って行ったのさ・・・
「あああ・・・そんな、途中で帰るでない!」
「無理。今日はもう無理。羊は諦めるから、召喚代でワイン1樽捧げてくれよな」
魔法円からドラゴンの声・・・
お高いじゃない・・・
魔法円は消えたのよ・・・
「・・・ま、マジョリン!まだ勝ったと思うでない!」
「いやぁ、あんたの負けだわさ・・・」
メルセデスお嬢様もうなずく。
「・・・っく、殺せ!」
クリンゲルは負けを認めたのよさ・・・




