第110話 戦場を飛ぶブドウ
『酒は実体で、泥酔は反省である』
―思想家キムチゴール―
フィーリプ殿下の軍の砲撃は続き、魔王軍の山城の塔が崩れ落ち、兵士達は歓声をあげたんだわさ。
魔王軍も黙ってやられ続けてはくれなかったんだわさ。
土煙をあげ、騎馬の軍勢が、魔王の騎士達が隊列を組んでこちらに向かって突き進んで来るんだわさ!
「ようやくお出ましじゃ。歩兵、前へ!」
フィリープ殿下の指揮で、銃を備えた兵士達が横に幅広く並んで、銃を構えたんだわさ。
「よいか。必中必殺の距離に入るまで撃つのでないぞ」
どんどん迫りくる魔王軍の騎士達・・・
歩兵は火縄銃を構えるのよ。
「これだけの数の火縄銃・・・初めて見るんだわさ・・・」
そんなあたしの言葉にフィリープ殿下はニヤリと笑みを浮かべたのよ。
「今だ。撃てっ!」
物凄い数の発砲音がほぼ同時に鳴ったんだわさ!
そして、魔王軍の騎士達が次々と落馬し、地べたに転げ落ちるのよ!
この一斉射撃で多くの数の騎士が倒れたのに、魔王軍の騎士達は突撃を止めずに突き進んでくるんだわさ!
「槍!前へ!」
銃兵が引き返し、長槍を手にした歩兵が前に出て、槍の壁を築きあげたのよ!
そして、魔王軍の騎士達は長槍の壁に激突したんだわさ!
槍が馬に突き刺さり、落馬するもすぐさま立ち上がり、剣で斬りかかる者、槍を踏み越えて歩兵を馬蹄で踏み散らす者、自信の槍で長槍の矛先を跳ね除けて歩兵を突破する者、魔王軍の騎士達は歩兵の隊列を崩したんだわさ!
あたし達も眺めてられないんだわさ!
そこからはまさに混戦状態!
プロテイウスは一目散に騎士の馬の首を跳ね、突進を止めようとし、メメシアもメイスをぶん回し、鎧の騎士とやりあうのよ!
ハレルが神の雷を放とうとした瞬間、1人の騎士がハレルに斬りかかる!
ハレルも剣を抜いて応戦!
これでなんとか持ちこたえれると思った所、巨大な2頭の虎が兵士達を蹴散らして突き進んできたんだわさ!
「シャーフェクリンゲ!」
あたしは切断魔法を放つも、虎はそれをひらりとかわしたのよ!
すると、神の雷を剣にまとわせたハレルが虎に飛びかかり、激しく戦い始めたんだわさ!
プロテイウスもそれに加わり、2頭の虎との激しい斬り合いが繰り広げられるのよ!
あたしも火炎魔法を放って、他に突っ込んでくる騎士を焼こうとするも、騎士は倒れた歩兵を盾にして、あたしに向かって突き進んできたんだわさ!
危うく斬られると思った瞬間、下がった歩兵の火縄銃の銃撃が騎士の頭に命中!
それを倒したのよ!
「お、おお、ありがとう火縄銃の兵隊さんだわさ!」
「マジョリン!油断するな!」
なんと、頭を撃ちぬかれたと思った騎士は立ち上がったのよ!
弾丸は兜にあたって、弾き飛んでいたのよ!
「ブレンネンシュトゥルム!」
あたしは炎の嵐を拭き起こし、目の前の騎士の鎧を焼いて、蒸し焼きにしてやったんだわさ。
鎧の隙間から煙をたてて、その騎士は倒れたのよ・・・
間一髪だったんだわさ・・・
「今だ!行けメルダース!」
すると、軽装の剣士が混戦状態の兵士達の合間を抜け、大砲陣営目掛けて走って行くんだわさ!
すぐそれに気が付いた兵士が槍を手に、メルダースと呼ばれた軽装の剣士を止めようと進路をふさぐのよ。
しかし、物凄い速さで槍を、そして兵士を輪切りにして走り抜けるメルダース!
火縄銃の弾丸をかわし、もはや、誰も彼を止める事が出来ないのよさ!
「大砲がやられちゃうのよ!」
そう思った瞬間、大砲が火を吹いたのよ!
そして、銃弾用の小粒の弾がばら撒かれるように発射されたんだわさ!
あまりに広範囲にばら撒かれる弾丸を、メルダースは避ける事が出来なかったのよ!
彼はズタボロに引き裂かれ、大地にその身をばら撒かれたんだわさ!
ひゃー!えぐい!
「あれはブドウ弾じゃ。砲撃部隊が接近戦を強いられた時に役に立つ秘密兵器なのじゃ」
大砲は、ただ、長距離を攻撃するだけじゃなく、そんな事も出来るのねぇ~・・・
「これからの戦は大砲で決まるのじゃよ」
フィリープ殿下の言う通りなのかもしれないねぇ~・・・
――――親衛騎士団が敵の前線を崩し、なだれ込んでいる。
その後に、歩兵達も続いている。
「今が攻め時ですよ!もっと増援を送りましょうよ!」
私はハルハート様に訴え出るも、ハルハート様は渋い表情を浮かべる・・・
「あれは、攻め入れてると言うよりも、招き入れられているようだ」
「そんな、今攻めなくてどうしようと・・・」
「もう、有力な戦力が出払って無いのだよ。魔王様が魔力を使って召喚し続けたオークの兵士達も、黒魔術で強化された兵士達も、あれで終わりなんだ。後に残るのは、人間でありながらも魔王に忠義を誓った者達・・・それも、続く砲撃で大半が傷つき倒れてしまった・・・」
「でも・・・でも、これより後は無いでしょう!」
親衛騎士団は徐々に敵兵に囲まれつつある・・・
このままでは包囲殲滅されるのも時間の問題だ・・・
「わかりました・・・私が率います!まだ、戦える者を導いてみせます!」
私は大声をあげて、城を駆け回り、まだ、戦う意志のあるものを集った。
その数、たったの15人・・・
「・・・行くよ!付いてきて!」
私はこの15人の兵士を連れて、前線へ走った・・・
倒れる人や馬を乗り越えて、今、まさに包囲される親衛騎士団に接近した。
その時だった!
「それ以上近寄らせないんだわさ!」
目の前に・・・敵の魔法使い・・・・
いや、彼女は・・・・
「マジョリンさん・・・」
「テジーナ?」
正直、これまであちこちで偶然にも出会い続けてきた事、なぜだろうか考えた事はあった。
だけど、最悪な結末を考えたくなかったし、そうであろうと思っても、心の底から否定し続けていた・・・
でも、どんなに拒んでも、とうとうこの瞬間が訪れてしまった・・・
最愛の友と・・・戦場で対立してしまった――――




