第106話 包囲殲滅
『飲酒に無関心な者は、健康に支配されるだろう』
―哲学者プランクトン―
包囲戦は続いたんだわさ。
あたし達の活躍もあってか、防衛ラインを突破される事は避けられたのだけど、魔王軍の攻撃は止まらず、戦闘は断続して起こっていたのよ。
銃声や砲撃音が鳴りやむ事は無く、負傷した兵士達も増え、女子供も弓矢を持って戦力を補う始末・・・
プロテイウスは重症だったんだわさ。
メメシアの回復術を受けたものの、すぐに回復しきれず、寝込んでいるのよ。
「すまねぇ・・・大事な時に戦えねぇで・・・」
「馬鹿を言わないで下さい。兵士は生きて、その場を守る事が最大の役目だと、あなたが前に言っていたではないですか」
「そんな事、言ったっけ・・・?」
「勇者様!大変です!」
大司教様が慌てて来たんだわさ!
「どうしたのですか?」
魔王軍の援軍と見られる軍が接近してきているのです!
あたし達は城壁の塔に登り、迫りくる謎の軍を見たんだわさ。
「あの掲げている旗・・・フリーデスラ方伯では?」
すると、大司教様は顔を青くしたのよ。
「ま、まさか、彼が・・・魔王軍に!?」
メメシアも拳を強く握ったんだわさ。
「わたくしが感じた嫌な予感が・・・」
そう、フリーデスラ方伯は宗教改革派の思想に影響を受けていて、どうやら宗教改革を利用しようと企んでいる可能性がある人物なのだわさ。
「彼の軍が魔王軍に合流したら・・・それこそもう、我々に勝ち目は無い・・・」
フリーデスラ方伯軍は陣を組んでいるようで、よくよく見ると、何門も大砲が並べられていたんだわさ・・・
そして、並んだ大砲が一斉に煙を吹いた!
遅れて大きな爆裂音が鳴り響く!
宙を突き進む砲弾の風きり音が響き渡るのよ!
でも、街の建物に被害が無いのよ!
あたしは魔王軍の方を見たの。
砲弾は全部、魔王軍に着弾していたんだわさ!
「フリーデスラ方伯は・・・フィーリプ殿下は・・・あたし達の味方なんだわさ!」
鋼鉄の砲弾は地面でバウンドし、魔王軍の兵士達に襲い掛かる!
トレビレンシス市の兵達も、砲弾が魔王軍の兵士達を撃ちぬく度に歓声をあげる。
「フィーリプ殿下は、野心があったとしても、魔王と手を組むようなやつじゃ無いって事なのねぇ!」
これで戦の勝敗は決まったようなものなのだわさ!
フィーリプ殿下の軍に対抗する魔王軍の騎士達が見えたのよ。
馬に乗って、フィーリプ殿下の軍に向かって突撃してゆく・・・
でも、フィーリプ殿下の軍は、銃を装備した兵士達を並ばせて、激しい銃撃を与えて騎士達を撃ち殺してゆく・・・
その銃撃をかいくぐった騎士達は突撃を止めない。
すると、銃兵が身をひいて、長槍を突き出し構えた兵士達が並んだのよ。
騎士達は長槍の壁を越える事が出来ず、突き刺され、落馬し、そのまま動かなくなる者や、反転して退却する者・・・魔王軍の騎士達の突撃は失敗したんだわさ。
「こりゃあ、強い軍隊が味方についてくれたようなんだわさ」
素人目に見ても、綺麗な隊列が組まれたフィーリプ殿下の軍隊の訓練が行き渡っている感じがよくわかったんだわさ。
砲撃だけじゃなく、接近戦においても十分に戦える・・・
あたしには最強の軍隊に見えたのよ。
「今は、彼の軍隊に感謝しかないですね・・・」
――――まるで悪夢のようだった。
援軍だと信じて疑わなかったフリーデスラ方伯の軍は、我々魔王軍に向かって砲撃を続ける。
精鋭の兵士達が、騎士達が次々と蹴散らされて行く・・・
「もはや同盟を結ぶと約束をしておきながら・・・おのれフリーデスラ方伯!」
ジッヘンハイムは怒り、会議室のテーブルを殴り壊してしまった・・・
「フリーデスラ方伯は味方になるものだとしていた為、我々がどう陣を組むのか、細かく伝えてしまっている・・・」
「すると、包囲していた我々が逆に包囲されてしまう・・・一度に包囲されずとも、部隊を分散されて、包囲殲滅を繰り返されてしまう」
鉄腕ダッツも失った我らが魔王軍・・・
最新鋭の大砲を揃えたフリーデスラ方伯軍に立ち向う為には、包囲を解くしかなかった。
「そうですよ・・・包囲を解いて、フリーデスラ方伯軍を総攻撃しましょう!まだ、戦力は十分に残ってます!」
私の提案に、ジッヘンハイムは首を横に振った・・・
「方伯軍を攻め、そして撃退したとして、その後、再び包囲を続ける余力は残っていない」
しかし・・・鉄腕ダッツならどう判断し、行動に出るように提案しただろうか・・・
これまでの彼の言動なら、方伯軍を撃退して、戦力を知らしめてから退却すると言うかもしれない・・・
「これより我が城まで退却し、そこで籠城戦を行う。方伯軍が相手に付いた以上、他の諸侯の軍も参戦してくると予測する。我が鉄壁の城をもって、それらを返り討ちにしてやるのだ」
「しかし、そのような籠城戦・・・無謀では!?」
「なあに、魔王直属の騎士団がいただろ?彼等にも参加してもらうまでだ。そうすれば、諸侯を相手に渡り合える」
なんともあやふやな考えで・・・
しかし、私にジッヘンハイムの考えを変える術は無かった。
魔王軍は退却を決定したのだった――――




