第104話 騎士戦争
『酒は、長く味わう為にちびちび飲むものである』
―政治思想家マキャベツ―
魔王軍はあっという間にトレビレンシス市を包囲したんだわさ。
徹底防戦を決めた大司教。
多くの住民が非難する中、戦える者は武器を持てと通達をして回る兵士達。
空を切り裂くような轟音と共に砲弾が飛んでくるのよ。
魔王軍は少し小高い所に陣を取り、市内に向けて大砲をドカドカと撃ちまくっているんだわさ。
その砲弾の大きさは大小さまざまな鉄の塊りで、石造りの強固な壁にぶち当たると、それを崩してしまうんだわさ。
兵士達は崩れた壁を修復し、攻める余地を与えぬようにしていたんだわさ。
直接ぶつかり合うような戦いでは不利になると思われた兵士達は、こうした支援活動は上手くできていたんだわさ。
砲撃が止んで、しばらくすると旗を掲げた魔王軍の隊列が姿を現したのよ。
人間の兵士以外にも、オークの兵士の姿もあって、魔王軍らしい攻撃部隊なんだわさ。
防衛側、トレビレンシス市の兵士達は定めた防衛ラインを突破されぬように、家屋の屋根に上がり、弓矢やクロスボウ、そして少量の鉄砲を構えるんだわさ。
あたし達も、壁の上から敵の動きを見ているんだわさ。
「凄い数ねぇ~・・・これが本格的な戦争ってやつなのかねぇ~・・・」
「そうだな。そこらの小さい戦よりも規模はデカいぜ」
「プロテイウスは何かいい考えはあるのかねぇ?ほら、戦ならうちらで一番経験があるしさ~」
「耐えるしかねえだろうな。相手は約1万の兵力。それはぶつかり合えばかなりの戦力だが、1万人の衣食住を保ち続けるのは困難があるはずだぜ。相手は短期決戦を望んでいるはずだ。だから耐えて、相手の補給が滞って、包囲が維持できなくなる事を待つしかねえだろうな」
するとハレルが
「ボク達が前線に出て、ありったけの力で攻撃して、包囲を崩すのはどうかな?」
プロテイウスは首を横に振ったのよ。
「見た感じ、相手も銃やクロスボウやらを持っている兵士は何人もいる。何人か削れたとしても、俺達だって無傷では戻れないだろう。下手すれば、命を落とす事になるぜ」
ハレルは黙ってしまったのよ。
「ハレル。わたくしも奇跡術を全力で発揮できれば、1万の兵なんてあっという間に塵と化して差し上げましょう。けれども奇跡術は自ら起こせるものではありません。神の意があってこそ、発揮できるものなのです」
さりげなく、本調子なら1万の兵力をも撃退出来ると言い切れるメメシアは恐ろしい女なんだわさ・・・
「しかし、多くの騎士が魔王側についたと聞きましたが、彼等は突撃して来る事は無いのですか?」
「騎士達はこちら側が包囲に対して兵を出した時に出て来る。それ以外はほぼ戦力外だ。だから、1万の兵力に囲まれているが、包囲戦で有効に使える相手の兵力は極端に下がるかと思うんだぜ」
確かに、魔王軍は遠巻きに、大砲を撃ったり、弓矢を射ったりしてくるだけで、防衛ラインを突破して来る事が無いのよ。
「あいつらの攻め方は騎士の攻め方になっているぜ。なるべく無傷で占領し、この都市を自分達のものにしようという考えがある。占領できなくとも、こちら側が降伏してくるのを待っているようだぜ」
「しかし、彼等は攻め込んでくるでしょう。プロテイウスが言うように、彼等が長期戦が出来ない以上、リスクを負ってでも攻め入るでしょう」
「メメシアはどうしてそう思うのかねぇ~・・・?」
「この戦いで、魔王軍が軍事的敗退をした場合、魔王軍の目論見である、自分達の力を知らしめて、教会勢力に対する攻撃の先頭を進む事が困難になるからです」
確かに、メメシアの考えはありえるんだわさ・・・
「ハレル。騎士という生き物をわたくしが野蛮な生き物だと言った意味、よくわかったのではないでしょうか?」
ハレルは黙ってうなずいたんだわさ。
すると、数騎の騎馬兵が防衛ラインの外側を走り回っているのが見えたのだわさ。
「プロテイウス。あの騎士は何をやっているんだわさ」
「挑発だな。どうせ、正々堂々と勝負に出ろと、街に籠って無いで、出て来て戦えと言っているんだろう。難癖つけて、なんだかんだ自分達が有利な戦いに持ってこようと考えているんだ。そんな連中に弱虫だの臆病者だの言われる筋合いはねえんだぜ」
――――包囲戦はすぐに相手が降伏すると考えられていた。
だが、相手は兵力の差が大きくあると言うのに、防衛ラインを築き、懸命に防衛戦を繰り広げている・・・
魔王軍内は意見が別れている。
攻め入るか、包囲戦を続けるかである。
「包囲を続け、相手が降伏するのを待つべきです」
そう主張するのはハルハート様。
「包囲戦がこれ以上長引けば、騎士共が離反しかねない。それに補給物資も、近隣の町や村などから略奪をしているものの、1万の兵力を保ち続けるには略奪し尽くしても足りなくなってしまう」
そう主張するのは鉄腕ダッツ。
ジッヘンハイムの配下で一番権力のある2人の意見が対立してしまったのだ。
当のジッヘンハイムはどの意見を採用するかで悩んでいる始末・・・
「友よ。私の意見を聞いてほしい。なぜならば、我らにはこの後、増援であるフリーデスラ方伯が兵を率いて来る予定だ。彼の軍が合流した所を見れば、大司教もあきらめて降伏するであろう」
しかし、鉄腕ダッツは自分の意見を曲げなかった。
「トレビレンシス大司教を捕え、都市を略奪し、大聖堂の偶像を破壊しつくすべきだ。それこそ、我々が福音派の守護者である事と、教皇勢力の敵である事を世に知らしめる術だ。それにフリーデスラ方伯が軍を引き連れてくるのならなおさらよい。騎士共に鼓舞する事ができる。騎士共は自身の理想の戦いをする事ばかりを考えている。だが、方伯ともあろう方に、その活躍をアピールする機会があるとすれば、やつらは没落騎士共だ。水を得た魚のように活躍するであろうな」
ハルハート様も鉄腕ダッツも、間違いではないと思った。
ただ、今後の戦いに備えるなら、なるべく戦力の消耗は避けたいと私は思う。
ハルハート様の案がいいのだろう・・・
「よし、ダッツ。お前の意見を採用しよう」
しかし、ジッヘンハイムは戦闘を選んだ。
「騎士達にも戦闘に参加してもらう。それで、誰に主導権があるのか、はっきりと明確にしておく必要があるな」
1万の兵力を率いる・・・
それをやってのけるジッヘンハイムは、自分の意見を通す力があった。
いい人間とは思えないが、そういう力は認めるべきなのだ――――




