第103話 騎士共の挽歌
『賢者は何かを知る為に飲む。愚者はただ酔う為に飲む』
―哲学者プランクトン―
――――騎士達は猛々しい。
没落して、魔王側に鞍替えした連中だと言うのに、進軍を妨げる歩兵の隊列を蹴散らして行く。
鎧姿の騎乗の騎士は勇ましさとは裏腹に、馬より下には逃げまどう歩兵達。
槍を突き立てられ、馬蹄に身を踏みつけられて、もはや人間である原型を残さぬ者もいた。
「まさに、天国と地獄だな」
そう声をかけて来たのは魔王軍の騎士、鉄腕ダッツ。
「そうですね。確かに騎乗で勇敢に戦う騎士の姿と、その下で無残に殺され、逃げまどう兵士達・・・天国と地獄を一緒に見ているようです」
「戦争に接戦など無きに等しい。あるのは完全なる勝利か、徹底的な敗北かだ」
歩兵達は敗走して行く。
それを追って、騎士達はまるで、娯楽の狩りでもするかのように歩兵達を殺して行く・・・
「深追いはするなと言いつけてあるのだが、騎士共は人の言う事を聞かぬ。困ったものだ」
この光景を見ていてわかった事がある。
彼等は名誉ある戦いを欲している訳ではない。
しのぎを削る激しい戦いを欲している訳でもない。
ただ、弱き者を一方的に蹂躙する事を求めているのだ。
「騎士に失望したか?」
「そうですね・・・彼等は野蛮な生き物だったんですね」
「没落した連中はそうだ。俺達に合流する連中はそうだ。そうでなければ、こんな所で弱き者を叩き潰して誇らしげにしているような事はせぬ」
「今はいいのですが、この後、激しい戦いになって、彼等は役に立つのでしょうか?」
「そんな連中でも、今見たように、力は持っている。要するに、使い様だ。戦略、戦術において、彼等がよく働いてくれるようにするしかないだろう」
☆☆
ジッヘンハイムは騎士達を集め、演説を始めた。
「これより我らが攻めるはトレビレンシス教区である!教会勢力と本格的な戦いとなる!トレビレンシス大司教もまた、教会権力を利用し、富や権力を貪る卑しい者であり、聖なる教えを悪用する者だ!大司教を廃し、人々に正しい教えを広めよう!聖書は教会の物ではない!人々の物だ!我らは神の鞭となりて、腐敗した教会勢力を徹底的に叩くのだ!」
騎士達から歓声が上がる。
士気は十分のようだ。
それを遠くで眺めているハルハート12世がぼそりと言った。
「神の鞭なんて大きな事を言う・・・しかし、彼らしい。彼は第二のジシュカになろうとしているようだ」
ジシュカ。それは約100年前、改革派の異端者達を率いて戦った傭兵隊長の事だ。
教会から隻眼の魔王と恐れられ、教皇から魔王認定を受け、それを撃退する為に十字軍が編成された程だ。
だが、ジシュカは十字軍を破り、改革派の異端者達は彼が病で没するまで奮闘した。
このジシュカのような人物に、ジッヘンハイムはなりえるのであろうか・・・
いや、なってもらわねば困るのだ。
「テジーナよ。心配かね?」
「ハルハート様。私は心配しかありません。ここ数百年、悪魔と契約し、魔王となった者でここまでの規模になった者はいませんでした。ただ、教皇より魔王と認定された者では例外はありますが・・・」
「そうだね。彼にはジシュカ以上の者になってもらわねばなるまい。それを支える我らも頑張らねばならないって事だな」
「今回、攻め落とす予定のトレビレンシス大司教の拠点は、駐留する戦力は少なくとも、大司教である以上、諸侯からの援軍が予想されます」
「それに関しては、我々に味方をする諸侯もいる」
「我々にですか?」
「そうだとも。フリーデスラ方は我らに味方する。特使も送って話し合い済みである。大司教領を攻める際に、援軍を率いて来るだろう」
「フリーデスラ方伯が・・・彼はジッヘンハイム様が散々脅して金を巻き上げた相手ではないですか」
「そうだとも。我らの力をよく知っている人物だ。我らに味方すれば、彼にトレビレンシス教区の土地を分け与える事も約束している。彼は宗教改革の波の中、その波に乗って、勢力を広げたいと企んでいる。だから、我々と同盟関係になれたのだ」
「そうだったのですね・・・」
「彼が本格的に動けば、我らに味方する諸侯も増えるだろう。すれば、ズィーベン騎士団同盟が来ようとも、皇帝が自ら軍を率いて来ようとも、負ける事は無い」
「規模が多きいですね」
「そうだとも。教会世界の勢力図を変える為の戦いだ。この世は悪魔の王が支配する。それを真実のものにするのだ。しかし、魔王が善良な教会のあり方を求める立場に立つなんて、皮肉な話しではあるがな」
どうやら、ハルハート様の言うような計画が、ジッヘンハイムにもあるようだ。
計画無しに無謀な戦いに挑むのでは無いのだ。
されど、私は不安が拭えないのだ。
今は上手く行ったとして、その先は・・・
教皇が十字軍を結成させたら?
西の国の動向は?
全てが上手く行った先に待ち構えるトケツスタンとの戦いは、あの魔法使いが言っていたような聖戦となるのだろうか?
「計画的であることは良い事だが、前に進む為にある程度バカになる必要もあるんだ。心配事は起きた時に対処すればよい」
「ハルハート様は、案外楽観的なんですね・・・」
「そうだ。楽観的な心構えもある程度必要だ。心配が積もり積もって、自滅せぬようにな」
それでも私は、この心配と向き合って進みたいと思う。
もう、踏み出してしまった以上、背く事は出来ないのだから――――




