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第102話 大司教領

『私は酒と結婚している』

―女王エセザマス1世―




山を越え、はるばるうんとこさっとトレビレンシス教区にやって来たんだわさ。

その中心地であるトレビレンシス市は、小さな山を越えた先にあるんだわさ。

山の上から空高く突き出た大聖堂のとんがり屋根が見えのよ。


「あたし達が見た大聖堂はこれで何件目だろうねぇ~・・・」


「いっぱい見てきましたね」


前は大聖堂を遠くから見ただけではしゃいでいたハレルやメメシアも、どこか見慣れてしまった感があるのか、以前のようなはっちゃけた感じは無かったのよ。


山の上から眺めたトレビレンシス市は、城壁に囲まれた大きな都市だったんだわさ。


その大きな都市にあたし達は入ったのよ。

あたし達はそこで歓迎されたんだわさ。


「魔王軍がビンデル市を陥落させました!勇者様達が頼りの綱です!」


歓迎というより、救いを求められていたのねぇ~・・・

どうやら状況はとてもヤバイようなんだわさ。

先に馬車で市に戻っていたトレビレンシス大司教さんと話しに、大聖堂の裏にある大司教の屋敷を訪ねたんだわさ。


大司教は焦っていたんだわさ。


「勇者様と皆様、ジッヘンハイムが率いる魔王軍の進軍が予想以上に早く、もはや今招集で間に合う兵力でこの都市を守り抜くしかない状況です!」


周辺の街などからも急いで集めた兵士の数は約1,000人で、迫りくるジッヘンハイム率いる魔王軍は10,000人以上の兵力が集まっているとの報告があったそうだ。

10分の1の兵力で、どう戦うのかねぇ~・・・


兎に角、守りを固める事、それしかできなかったんだわさ。

でも、兵士達は、プロテイウスがため息つく程に頼りにならなさそうなんだわさ。

騎士は騎士でも、普段は農業に勤しみ、剣を握ったのが久しぶりと言う状況なのよ。

それと、騎士が従えて来た兵士も、高齢な農民が槍を持っただけの、あたしでも拳で倒せそうな人達なんだわさ・・・

街や周辺の住民からなる兵士は、武器が手配されて、装備は良いいものの、訓練がいまいちのようで、大きな陣形を組めないそうなんだわさ。

大至急集めた傭兵も、田舎のチンピラ集団で、イキがってはいるものの、実際の戦闘になったら役に立つかどうかなのよねぇ・・・

こんな雑多な兵が、相手の人数に勝っていたとしても、直接当たって勝てるようには思えないのよ。

だからこその籠城戦の如く、都市に立て籠り、防衛戦に持ち込むしかないようなのよさ。

急いでバリケードを作って、敵の進行に備える人達・・・

都市は大騒ぎなんだわさ。


あたし達は大司教から手配された宿舎に泊まる事になったんだわさ。

まあ、夜になってね、恒例の飲み歩きを始めるのよさ。


夜警で見廻る人達が多く、臨戦態勢の街って感じなんだわさ。

でも、あたしは諦めないのよ!

建物の影から影へ移動して、夜警に見つからないようにしながら街を探索するのよ。

でも、あちこちの酒場は皆、閉まっているみたいなんだわさ・・・

しかし、1件だけ、中から人の気配がするお店があったのよ!

あたしはドアをそっと開けたんだわさ・・・


「客かい?早く入りな」


あたしはそそくさと中に入ったんだわさ。


店の中は油皿のランプのぼんやりとした灯りがぽつぽつとあって、何人かの客が静かに酒を飲んでいたんだわさ。

あたしはそのうちの1つの席に腰をかけたのよ。


「今はこんなご時世だから、会話は無しで、静かに飲む・・・いいかね?」


「もちのろんだわさ」


「それで、何がいいかね?」


「そうだねぇ・・・何かおすすめはあるかねぇ?」


「おすすめかい。そうだね。西の国から白ワインが入ってる。それがおすすめだな」


「じゃあ、それを」


しばらくして、スズのゴブレットにそそがれた白ワインが来たんだわさ。

その白ワインは発砲していて、いい香りを漂わせていたのよ。


さて、1口・・・


これは・・・口の中でとてもアロマな香りが広がって、それとパンの香りも鼻を抜けるように流れて来るんだわさ!

甘みは控えめで、とても爽やかな飲みごたえ。

そう、普通の白ワインとは似ても似つかぬ白ワインなんだわさ・・・

なんと説明しようか・・・

シャンとしてパンとする感じ・・・何を言っているのか・・・

兎に角いいワインなんだわさ!


「みやびな味だわさ・・・」


おっと、心の声が漏れてしまったんだわさ。

そんでもんで、向かいのおっさんと目があったんだわさ。

でも、おっさんは静かにグッドサインを出したのよ。

何が何かとか、しゃべらなくても、何かが通じたのがわかったんだわさ。

こんな黙って飲まなきゃいけない時だってのに、みんな下手に卑屈にならずに耐えてるのねぇ~・・・

周りを見ると、静かに飲んではいるが、誰もあきらめたような顔はしていないのよ。

会話は無くても、何か心を通わしている人もいれば、何かを思いながら1人で飲む人もいて、でも、誰も、マイナスな感情は感じなかったんだわさ。


守らなきゃだねぇ~・・・


あたしは飲み終えて、宿に戻ったんだわさ。

これまで、あたし達は何人の人の命を、生活を、日常を守ったり救ったりしてきたんだろうねぇ~・・・

大々的に表彰されたりしないけど、こうして平和を守る正義の味方になれるってのも、悪く無いのかもねぇ~・・・




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