表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

107/123

第101話 暴虐的なイコノクラスム

『飲酒とは、深刻な狂気である』

―哲学者プランクトン―




――――教会に群がる群衆は、聖人の像や聖書の場面を描いたステンドグラスなど、教会のあらゆる装飾を破壊した。

これらが聖書の禁ずる偶像崇拝にあたるものだとの、改革派思想の元の行動だったのだ。

司祭はなす術も無く、ただ、民衆の暴虐を見届けるだけであった。

これは、単に偶像を破壊するだけでは無く、権力者への反抗でもあるのだ。

特に、教会への不信が大きく膨れ上がっている事の現れでもあった。


「おい!絵画を広場に集めろ!火を放つぞ!」


広場に集められた聖書の場面を描いた宗教画は大きな炎に飲み込まれていった。

哀れな民衆に見えて仕方がない。

貴重な芸術を、人が作り出した美しき財産を、いとも簡単に人は破壊する事ができるこの哀れな光景に、吐き気を催す・・・


改革者ルザーが殺されたとの噂を信じた民衆は、暴走を始めたのだ。

ただ、我々魔王軍からすれば、計画通りではあるが、計画通りでは無かった。


まず、ルザーの身元である。

彼は魔王軍が保護する計画であったが、第三勢力の出現によって、それは阻止されてしまった。

彼の身柄はどうやらサクソンラント選帝侯の元にあると言うのが魔王様の見解だ。

魔王様がまだ、人間だった頃、サクソンラント選帝侯の元で政務を行っていた事があり、選帝侯の考える事だとしている。


ただ、魔王軍がルザーを捕らえずに、予想外のいい結果も生み出していた。

それは、魔王様は教会に対抗する為に、あえて自ら魔王になったという見解が広まった事だ。

これによって、没落騎士達がなんやかんや言い訳をしながら魔王軍配下の騎士ジッヘンハイムの元に集まっている。

ルザー確保に失敗したものの、彼は魔王軍の中で最大戦力と戦闘指揮権を握る事になったのだ。

魔王様は、元々没落騎士達を味方に付けるつもりは無かった。

農民達が権力に立ち向かうように仕向けるつもりであった。

しかし、農民達との連携は難しく、思うよに進まなかった。

そこで、没落騎士達によって増幅した戦力を用い、免罪符問題などに大きく加担する大司教を攻撃し、打ち倒す事によって、大規模な武装蜂起を呼びかける方針を決定した。

この計画によって、大司教を打ち倒した後、今、目の前で起こっている偶像の破壊はより深刻に行われる事になるだろう。


「これは酷い光景ですね」


っと、謎の少年が突然声をかけて来た・・・

その少年は、荷物を背負ったロバを引いて、広場で焼かれる宗教画の炎を私の隣で眺めていた。


「・・・あなたは誰?」


「ボクですか?ボクはマカフシと言います。旅する商人です」


「商人・・・」


彼はその姿から、トケツスタン系の人間なのだろうと予想が付いた。


「今、ボクの姿を見て、カイ教徒かと思いませんでした?」


「いや、そこまでは思ってないです」


「ボク、こう見えても教会の信仰者なんですよ」


「・・・はあ」


「いや~、偶像崇拝を禁止する動きに出た教会派って、カイ教徒と仲良くなれると思うんですけどね~」


「それは、どういう事でしょうか?」


「あなた、魔王軍の人でしょ?こんな暴動をじっくり見て、観察している魔法使いなんて、その手の人じゃなきゃまず、考えられませんね。改革派の争いに参加しないで見ているってのは、魔法使いにとってリスクのある行為でしょ?」


そう言われると、確かにそうなのだ。

魔法使いでいるだけで、教会から目をつけられ、少しでも怪しいと思われれば簡単に悪しき魔女のレッテルを張られる可能性が大いにあるからだ。


しかし、それを知って、彼はどういう意図で私に近づいて来たのだ・・・


「あなたは、何が目的?」


直接聞いた方が早いと思って、聞いてしまった。


「そうだですね。ここでは詳しく話しにくいと思うので、場所を変えましょう」


私は彼に案内され、人気のない丘の上に来た。


「先に言いましたように、ボクは商人です。魔王軍の魔法使いなら、それなりの商売が出来るんじゃないかな~って思って話しかけたんですよ」


「何?変な物売りつけて来るインチキ商売ならお断りですよ」


「へえ、そう突っぱねる態度しちゃうんだ~。つれないな~」


マカフシはロバの積み荷から、1冊の本を取り出した。


「こういうの、興味ないですか?」


「何?魔導書?そういう本なら間に合ってます」


「ほ~、中を見ないで言うんだ~」


マカフシは本を開いて見せて来た。

そのページには、セフィロトの図式が描かれていた。


「実践カバラの本なんだけど、前に同じ本を修道士であり、魔法使いである人に売った事があるんだけど、彼はこの他にもいろんな本を買ってくれるいい顧客だったんだけどな~」


修道士であり、魔法使いである人物・・・


「ねえ、その相手って・・・」


「まあ、知らないかもしれないけど、トリテミウスって名乗っていた人だよ」


トリテミウス・・・

偉大なる魔法使いの名だ。

多くの人文主義者の師である人物。

ケルス、今はケルスを超える者、パラケルスを名乗っている有名な錬金術師の師でもある人物だ。

そして、魔王様を魔王にした錬金術師、アグリッパの師でもある。


「へえ、商人は平気で嘘をつくのですね。彼は何年も前にこの世を去りました。彼が書物を収集していた頃を考えると」


そう言いかけると、マカフシは不気味な笑みを浮かべた・・・


「ボク、若く見えるでしょ?」


その時、背筋がぞっとした感覚を覚えた・・・

彼は魔法使いであり、そして、それ以上に何かを隠している事がわかった。

彼の見た目の姿は偽りの姿である・・・


「あなた・・・いったい何者?」


「ただの商人だよ」


怪しさの塊りであるが、彼の話しは聞いて損はなさそうだ・・・


「あなたは魔導書を売る以上に、何か商売がしいと考えているんじゃないですか?」


「うん。そうだね」


明るくはっきりと答えた・・・


「魔王軍がこれから必要になると思う物を用意できますよ」


「必要と思う物?それは何かしら?」


「銃や大砲だよ」


見た目は少年であると言うのに、恐ろしい商談を持ちかけて来た・・・


「あなたは物分かりがいいし、分別できる人と見たからはっきりと話すよ」


「・・・何かしら?」


「ボクの祖国、トケツスタンは君達魔王軍の活躍に期待しているんだ。そして、ボク達はこの国で起こっている宗教分裂の混乱も把握している。どうかな?魔王軍とトケツスタン、連帯して神聖帝国皇帝カロリンガー5世を打倒・・・いや、ハプスブルク家を滅ぼそう」


トケツスタンと・・・カイ教徒勢力と組む・・・だと?


「残念ですが、魔王様はカイ教徒と組む気は無いです。あくまでも、我らの信じる聖書の教えの改革を実行し、腐敗した教皇勢力の破壊を目標に掲げます。だから、いずれはあなたの祖国とは対立関係になるでしょう」


「きっと、そうなったら、それこそ世界のかけた頂上決戦となるでしょうね。まあ、そうなればの話ですけど」


結局私は彼の商談を断り、その場を去ろうとした。


「あなたは賢いけど、考えすぎなんですよ。アグリッパに合わせてください。トリテミウスの意志を継いだ彼ならボクの話を理解してくれるはずです」


「アグリッパ・・・そこまで知っているとは・・・でも、彼は魔王軍を離れた。奥方が亡くなって、どこにいるかはわからない。それに、魔王の計画に賛同していたわけじゃなかった。彼はただの研究者だったのよ。トリテミウスだって、同じ事だと思う」


「そう?魔王転身術・・・すなわち、旧約の民の禁術。その本来の目的は、終末世界を強制的に発生させる事によって、真の救世主を到来させ、神の国を実現させる為の術。カバラを熱心に研究し、これを理解せずに魔王転身術を使うものかな?」


こいつ・・・

そこまで知っているなんてっ!


「それが本当ならトケツスタンにとっても都合がいいんだよ。君達が西側世界を支配した後、我らトケツスタンが戦争を仕掛ける。すなわちジハードだよ。救世主は、神の軍は我らを味方し、そして、トケツスタンが神の国として世界を統一する事になるんだ」


「それが・・・トケツスタンが西方進出の最大の目的なのですか?」


「スルタンに仕える魔法使いにとってはそうだよ」


彼はこの会話の間にロバの荷物から銃を取り出し、そして、火縄を撃てる状態にセットしていた。


「まあ、ここまで話したあなたには、消えてもらいますけどね」


銃口は私を向いていた。


「撃つ気?」


「ええ。ボクは外しませんよ。あなたを殺して、あなたの記憶を魔法で読み取って、もっと魔王に近い人物に接触するつもりです」


彼は躊躇なく引き金を引いた・・・


「英知の領域、メンデルゾーン発動」


火縄は火口に入る直前で止まっている。

彼はじっと一直線に私に銃を構えたまま止まっている。

この英知の領域で動けるのは私だけ。

簡単に言えば、時を止める魔法。それがこの英知の領域だ。

私は彼のカバンから、火薬と弾丸のセットを取り出し、彼の構える銃口にそれを詰めた。

二重装填状態である。


「魔王軍はトケツスタンとは関わらないわ」


私はある程度距離を取って、そして英知の領域を解除した。


天に響く爆発音と共に、彼の火縄銃は爆発し、そして彼の頭は粉々に砕け散った。


「これでよかったんだ」


そう、自分に言い聞かせ、私はこの場を後にした――――




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ