第100話 そして、これから最後の旅の始まり
『人は酒に慰めと有用性と庇護を求める』
―神学者ビーコン―
フィーリプ殿下と話す予定だったんだけど、急遽、変更になったのよ。
ルザーが何者かによって捕らわれたとの知らせがあったのよね~・・・
でも、代わりに、あたし達と話がしたい人がいるとの事で、あたし達はウォーム市の大聖堂の中にある大きな部屋に招かれたんだわさ。
どんな人が来るのか、そわそわしながら待っていたのよ。
すると、鼻が高い優し気な顔の紳士が入って来たんだわさ。
メメシアは座っていた席を立って、すぐにその紳士に挨拶に向かったのだわさ。
「メメシア~。その方はどちら様かねぇ~?」
「マジョリン。失礼ですよ。こちらは」
すると紳士はメメシアを止めた。
「いえ、わたくしから挨拶させてください。招いた者として、失礼が無いようにです」
メメシアはお辞儀して下がるのよ・・・
「勇者様、そしてお仲間の皆様。この度はお越しいただきありがとうございます。私はパンニエル・フォン・デュチーズ・ツー・ケルヤーツと言います。トレビレンシスの司教を務めさせていただいています者です」
トレビレンシスの司教・・・
「ふ~ん・・・司教さんなのねぇ~・・・」
するとメメシアがあたしのほっぺをつねったのよ。
「いたたっ!頬袋伸びるっ!」
「マジョリン!それでもピンと来ないピンボケなんですか!?トレビレンシスの司教様ですよ!?」
「え~・・・トレビレンシスの司教様って・・・あたしゃ聖職者に詳しく無いからトレビレンシス大司教しかわからないんだわさ」
「その大司教様ですよ!」
「・・・ほえ?」
トレビレンシスって言う大きな街があって、その町の教会の司教かと思ったら・・・トレビレンシス教区の総元締めである大司教様そのものだったのねぇ!?
「あ、あはは・・・時を戻そう」
「時は戻りません!」
ハレルもやっとわかったみたいな顔をしたんだわさ。
「トレビレンシス大司教様・・・確か、選帝侯の1人で、神聖帝国3大大司教の1人の!?」
「そうですよ。よく覚えていました。ハレルに10点」
「え?え?・・・わ、わーい」
兎に角、とっても偉い大司教様とご対面になってしまったんだわさ。
「勇者様と皆様のご活躍、色々と噂を耳にしています。ハレル様はまだお若いのに、神の雷の力をふんだんに発揮できると伺っております。プロテイウス様はその力強さから魔物に勝ると伺っております。メメシアさんは信心深さから大いなる力を発揮していると伺っております」
ハレルは照れて、プロテイウスは気にしていない素振りをみせつつもどこかうれしそうで、メメシアはそんなそんなと言いつつ喜ばしい感があふれているんだわさ。
「・・・あたしは?」
「えっと、ま・・・マヨリンさん」
「マジョリンなんだわさ・・・」
「失礼しました。マジョリンさん・・・マジョリンさんは・・・」
わくわく
「・・・・お酒が強いらしい」
「ら、らしい!?あたしだけ情報が不確か!?」
メメシアに頭をポカンと叩かれたんだわさ・・・
「め、メメシア!なんでさ?なんで叩くんだわさ?!」
「お酒が好き、そんな噂が広まっているのを恥じなさい!」
恥じゃ無いんだわさ・・・
誇りなんだわさ・・・
禁酒主義なんてただの飾りなんだわさ。
偉い人にはそれがわからんのだわさ。
「まあ、あたしは正体不明のミステリアスな女って事で」
そんなもんで、話しは本題に入るのよ。
「実は勇者様と皆様にご協力を願いたいのです。それも、他の諸侯に仕える事が無いあなた達だからこそ、ご協力を願いたいのです」
「それは、なんでしょうか?」
「実は、前々からですが、トレビレンシス教区は魔王軍の脅威にさらされています。単純に傭兵を雇って、防衛線力を整えたり、都市部の防衛力強化を図りたいのですが、トレビレンシス教区は神聖帝国と西の王国の国境が近い街です。下手にそのような事を行えば、必ずあちこちからいちゃもんが飛び交う事でしょう」
一歩間違えれば最前線になりかねない土地なのねぇ~・・・
「元から西の王国に対しては、川も挟んでおりますので攻められ難くなっているのですが、魔王軍はまるで背後から攻めて来るようなものです。それに対抗するのは難しい・・・」
「それは困った話ですね・・・」
「そこで、既存の兵力に、対魔王軍の訓練をして欲しいのです。どうか、お願いします。教区の民がこれ以上、悲惨な目に会わぬように・・・」
あたし達は断る気も無く、素直にその依頼を受けたのだわさ。
こうして、明日からトレビレンシス教区へ向かう事が決まったんだわさ。
☆☆
その日の夕方、この街最後の夕食のを取りに出たんだわさ。
あたしゃふと、ある事を思い出して、みんなを広場で待たせていつもお酒を飲みに通っていた店に顔を出したんだわさ。
「いらっしゃーい!今日は早いね!」
「あ、あのさ、今から仲間、連れて来るからさ、その・・・あたし、初めて来たって事にしててほしいのよ」
「おや、どうしたのです?」
「まあ、わけあって、今まで秘密で飲んでいたんだわさ」
「あ、なるほど!わかりましたー!」
店員と打ち合わせを済ませて、広場に待たせてみんなの元に戻るのよ。
「この前、たまったま美味しそうな店見つけててさ、今、席空いてたから、行こうなのよ!」
みんなを引き連れ、いつものお店に入ったんだわさ。
「すみませ~ん。4人だわさ」
「は~い、いらっしゃいませ~!お、初見さんですね!?どうぞ奥の席へ~!」
するとメメシアが・・・
「さっき、マジョリンが席が空いてるか確認に来たと言うのに、まるで初めて話したかのようですね」
「あ、そ、それは、店員さんの記憶力が弱いんだわさ」
「あはは、記憶力弱いです」
「え?注文通るの?このお店、大丈夫?」
「まあまあメメシア、細かい事は気にしないんだわさ!」
あたしはメメシアを押して、席に座らせたんだわさ。
「えっと、店員さん。おすすめは何かねぇ?」
「あ、はい~。そうですね。今日も」
「も?!」
「あ、ああ~・・・今日は、新世界の野菜を使った料理がありますよ!」
「新世界?!」
「あ、ああ~・・・原住民からしたら旧世界~・・・」
「いや、そこは訂正しなくていいんだわさ!」
「店員さん。その新世界の料理とは?!」
「ああ、それがですね。神聖帝国の農産物実験所で栽培されています新世界原産の野菜を入荷して、色々実験料理を作っているんですよ」
「新世界の野菜を・・・是非、食べてみたいです!」
「では、今日は特別新世界の野菜料理の盛り合わせを用意しますね~。後、ビールも4つですよね?」
「いや、ビールは無しで・・・」
「あ、ご、ごめんなさいね~!今日はビール無しで~!」
「・・・今日は?」
店員さんは逃げるように厨房に走ったのよ。
あたしは頭を抱えたんだわさ・・・
「・・・マジョリン。ここ、初めてじゃ無いのですね?」
「・・・はい・・・だわさ・・・」
気まずい空気!
でも、店員さんが急いで料理を持ってきてくれたんだわさ!
それは、ポテトとベーコンとチーズをオーブンで焼いたものや、トマトソースのパスタ、新大陸の穀物を炒って膨らませたポップコーンなる食べ物、パンプキンのスープなどが出て来たんだわさ!
それぞれ調理前の姿も見せてくれて、ポップコーンの原材料の新大陸の謎の穀物なんかも、特別に茹でたものを出してくれて、メメシアは感激しながらむしゃむしゃしていたんだわさ。
まあ、ともかく、メメシアが喜んでくれたからよかったんだわさ。
そして、宿に戻る時・・・
「マジョリン。前にわたくしが新大陸へ行くと話した事、覚えていてくれたのですね?」
「あ、ま、まあねぇ・・・」
「あなたは・・・不器用なのに・・・・ありがとうございます」
なんか、色々見透かされてたみたいで、小っ恥ずかしいんだわさ・・・
「新大陸を一足先に味わえた事、きっと今日の食事、わたくしは一生忘れないとおもいます」
「そんなに感謝されると、ぐうの音も出ないんだわさ~・・・」
きっと、この旅が終わったら、あたし達はそれぞれ違う道を進むんだろうねぇ~・・・
メメシアは新大陸へ行くのは本人の中では決まっているみたいだし・・・
禁酒主義者と離れるのは気が楽になるんだけど、共に冒険した親しい仲間と別れる日の事を考えると、まだ、魔王を退治しないでいたいような気持にもなってしまうんだわさ・・・
でも、多分、この旅の終わりも近い事を感じるんだわさ。
悔いが無いように、この日々を懸命に過ごすんだわさ。




