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第97話 薔薇の園の帝国議会

『もし、戴冠がある事を知っていたなら、飲み会に出席しただろう』

―ワカール大帝―




...................

午後、ルザーは宮廷に来るようにと知らせを受けた。


「兄さん・・・これからが本番ですよ・・・」


ルザーは静かにうなずいた。

すぐに案内人がやって来た。


「大変だ。外の通りは君を応援する人達であふれている。このまま通りを通って宮廷に向かう事は不可能に近いぞ」


っと、案内人が汗を垂らして言う。

弁護士のジョナスは地図を広げ、少し考えてから言った。


「では、道で無い所を通るしか他はないな」


「道で無い所?」


「そうだ。道は自分で切り開くものだ」


そう言ってジョナスは廊下の窓を開け、隣接する建物の屋根に飛び移ったのだ。


「そんなに距離は無い。君でも届くぞ」


ルザーも渋々と、びびりながらジョナスの進んだように隣の屋根に飛び移った。

後から弟と学生達もついて来た。


「全員、なるべく身を低くして進むぞ」


屋根から屋根へ伝って宮廷目指して進むルザー一行。

これがパルクールの始まりである。嘘である。


屋根を伝って進んだ後、テラスに入り込んで、そこの階段から庭へ降り、路地を進む。

こうして無事に宮廷にたどり着いたのだ。


ルザー一行は議会が開かれている大会議室に案内され、大きなドアを開いて入った。

その大会議室には扇状に配列された席に、諸侯達やその付き人、政界で役職を持つ貴族などが座っていた。

そして、その中心の大きな席にアゴの長いひときわ豪華な装いをした男がいた。

神聖帝国皇帝カロリンガー5世である。


ルザーは正直びびっていた。

2、3滴ちびったかもしれない。

でも、意を決して、進んだ。

ふと、周りの議席を見ると、知り合いの人文主義者である政治家がいたので挨拶をしたのだが、彼は資料に目を通していて気が付かなかった。

ルザーは大きな声であいさつをしなおしてみた。


「静粛に!」


怒られた・・・


ルザーは演台に案内され、そこに立たされた。

まるで360°、すべての人が敵のように思えた。


「今より述べる書の著作をしたのがあなたである事を確認します」


っと、役人によって、ルザーのこれまでの著作物の題名が述べられる。


「以上の22冊の著者である事を認めるか?」


「それについて、私から説明がありまして」


小槌が打ち鳴らされ、ルザーはちょっとビクッとした。


「今の質問に返答しなさい!22冊の著者はあなたですね?」


ルザーは議会にて、論争を行う事を期待していた。

しかし、一方的な審議で進められて行く・・・


「はい。私が書いたものです」


再び小槌が、まるで威嚇をするかのように打ち鳴らされた。


「あなたはこれら著作物の内容を直ちに取り消しますか?」


「いいえ」


議会はざわついた。

ここで取り消さない事を選ぶ事、それは帝国の、皇帝の意志に背く行為である事は確かであった。

だが、内心、どんなに恐ろしく感じていても、彼は自分の信じる事を曲げる事はしなかったのだ。


その後、著書の中の特に問題とされた項目、回勅にもあったような批判をルザーは受け、その度に文言の撤回を求められるも、彼は何一つ撤回しなかった。


「これらの著書を否定する事は、聖書に書かれていない事を認めろと言う事ですよ!?・・・そんな事は出来ません。故に、私はここに立っているのです!神よ、救い下さい」


議会は長引き、その日の内に結論は出なかった。

ルター達は下がらされ、そして、宿に戻った。


「怖かった・・・これがまだ、続くんだと思うと、痩せるよ・・・」


「兄さん・・・痩せた方がいいとは思うけど・・・体調、崩さないようにしてくださいね」


「兄さんは、愛してくれる奥さんに手料理作ってもらいたいよ。そしたら残さず食べて、めいいっぱい太ってみせるんだ」


「兄さん・・・聖職者の言う事じゃないですよ・・・それに、健康的じゃ無い生活を望まないで下さい・・・心配ですよ・・・」


弁護士のジョナスは悩まされていた。


「あそこまで一方的な追求、弁論の隙を与えてくれやしない・・・まるで魔女狩りだ」


「ジョナスよ。魔女狩りでは無い。異端尋問だ」


この日も、ルザーの元へ多くの貴族達が訪れた。

議会で、びびって硬直していた姿は、彼等には何にも動じず微動だにしない態度に見えたのかもしれない。

ルザーは心身共に疲れ、限界を超えていたのだが、体力や気力よりも底に存在する信念によって、彼は休む事無く、訪問する貴族達の話しに対応したのだ。

...................


――――愚者姫の気が消えた・・・

彼女はこのウォーム市内に潜伏していたはずなのに、うっすらと感じた彼女の邪悪な気配が完全に消えてしまったのだ・・・

帝国議会を警備する兵士に、相当の手練れがいる事は確かだ。

だが、愚者姫は愚かであるが、簡単にやられるような半端な魔女では無い・・・

私は市外で潜伏するジッヘンハイム様の元へ向かって、この事を報告しようとした。


「おお、テジーナか。お前は無事だったようだな」


「お前は・・・愚者姫に何かあったのですか!?」


「愚者姫は討ち滅ぼされたよ。彼が報告してくれた」


ジッヘンハイム様が指さす先に、黒い鎧に身を覆った騎士、鉄腕ダッツの姿があった。


「残念だが、彼女は討ち死にした。復讐すべき相手を見つけ、オレは彼女が因縁の相手と一騎打ちになるように、敵の手練れを引き付けた。だが、結果は彼女が負けた。多勢に無勢となった為、オレはその場から引き上げて来た」


「そ・・・そんな・・・・」


彼女は生意気で、考えてる事もやる事もおかしい事ばかりだけど、魔王軍の為に尽くしてきた魔法使いだ。

こんな、あっさりと彼女の死を受け入れるなんて、私には信じられなかった。


「結果はどうであれ、やりたいやつとやったんだろ?じゃあ、よかったんじゃねえか?」


ジッヘンハイムはまるで他人事のようだ・・・


私も彼女の事は好きでは無かった・・・

だけど、最後まで全力で愚か者である事を貫き通して生きた愚か者が死んで、悲しむのが私だけなんて・・・

もし、私が今後、魔王軍の起こす戦いの中で、この命が尽きたとして、悲しんでくれる人はいるのだろうか・・・

そんな事を思わずにはいられなかった。

そして、ふと、マジョリンの顔が脳裏をよぎった・・・

彼女に会いたい。

ただ、それだけが今の願いだった――――



「お客さん。毎日来てくれて、うれしいよ」


「あたしもうれしいんだわさ!所で今日の実験料理、これはなんだい?」


「これは、パンプキンっていう新大陸の野菜を煮込んだスープさ」


「いいねぇ~・・・最高だわさ!」


美味い酒、美味い料理、今日も幸せなんだわさ!




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