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04 真打登場

 「一応聞いておきますね」


 代償で失った腕を修復したシュルファがそう訊いた。


 「答えよう」

 「貴方は私達の敵ですか? もし敵であるならば、何故立ち塞がるのですか?」

 「ふむ」


 オルガーツが少し間を置いて口を開く。


 「お前達を見逃せば、クライスタに行ってあの方を殺すだろう?」

 「はい。でなければ差別は終わりませんので」

 「なら理由は十分だろう。(あるじ)を守れぬ配下を配下とは呼ばん」


 さも当然と言った様子でオルガーツが言ってのける。


 「魔族は(みな)忠誠心が厚いですね。では―――」


 その言葉を合図と受け取り勇者が駆け出す。


 「――――死ね」

 「せあっ!!!」


 勇者が鞘のままの剣を振り上げ、オルガーツの右腕を切り落とす―――が、寸前で受け止められた。


 「っ……!!」

 「舐められたものだ」


 オルガーツが右手にぐっと力を込めると鞘が砕け、折れた剣身が露になる。


 「さあ早く剣を直せ勇者よ。それともお前の剣は腰抜けか?」


 冷めた声色でオルガーツが挑発する。


 「来いっ!!()()()()()()()ッッ!!」


 ()を呼ばれたその剣は立ち上った想力とともに強く共鳴する。やがて光が収まると同時に剣は元の状態に回帰し、勇者の手に収まった。


 「()い剣だ。しかし、()()だな」


 勇者はアルトフォストを構えオルガーツに向け加速し、全速を持って叩きつけるが、寸出のところで回避される。


 「生憎私は剣が得意ではないのでな、こちらの土俵で戦わせて貰う」


 『(かげり) (かすか)――――』


 「させるか!!!」


 オルガーツの詠唱を妨げるように、横薙ぎに斬撃を操り出し喉を裂く―――はずだった。


 『――――(みずち)


 「……な……!?」


 アルトフォストの剣閃はオルガーツの首を切り裂くことなく静止していた。その固さに勇者の剣が負けたのだ。


 『《真暗の蜃気(まくらのしんき)》』


 オルガーツを中心にして闇の霧が広がっていき、空間全体を覆い隠す。


 「勇者様!!」「シュルファ!!」


 二人の間に陰鬱とした闇が入り込み分断していく。


 闇が空間を支配し、二人が完全に分かたれて数秒の後、勇者の前に先程より禍々しい姿をしたオルガーツが立っていた。


 「……シュルファは?」

 「彼女は私の分体が相手をしている」


 おぞましい死の気配が勇者の五感に纏わりついて鈍らせていく。


 「そうか」


 有無を言わさず勇者は素早く接近し、オルガーツの胴を両断する。


 「っ……!?」


 しかし切れていない。いや正確には切れてはいるが切り離せない。


 「何をした……?」

 「まあ言うなればこれは"闇"だ。深い闇は旅人を惑わせる」


 現在、オルガーツの体の大部分が霧のように不安定な、実体の無い闇となっている。


 「どうした? かかってくるがいい」


 オルガーツの言葉に聞く耳を持たず、勇者は思考を巡らせ打開策を探す。


 「なれば、こちらから行かせて貰うぞ」


 周囲を漂っていた闇が無数の鋭いナイフのように変質し、勇者に襲い掛かる。


 「捌ききれない……!」


 一直線に迫り来る刃の九割ほどを搔き消すが、残りの一割が腹や脚を貫く。


 「………ぐっ………」

 「想像を絶する痛みだろう? 傷という傷から闇が入り込むのは。剣を置き、自ら牢に入るのなら解放してやる」


 必死に痛みを噛み殺す勇者を見下ろしながらオルガーツが提案する。


 「従うと、思うか……?」


 剣を支えにし、既にボロボロの勇者が辛うじて立ち上がる。


 「思わない。勇者の逸話は私もよく知っている」

 「なら分かるはずだ。メルアを救うまで俺は止まらない」


 はっきりと睨み付けながら勇者は言った。強い覚悟を瞳に滲ませながら。


 瞬きほどの間にオルガーツに肉薄し、アルトフォストを振りかぶり、目を見開く。


 「何度やっても――――」


 『――――絶牙鱗翔(ぜつがりんしょう)――――』


 「!?」


 冷静だったオルガーツの表情が一瞬で驚愕と焦りに染まる。


 『―――《鹿折(ろくせつ)》ッッッ!!!』


 その構えから放たれた剣閃が弧を描き、オルガーツの切れないはずの両腕を切断した。  


 「がぁっ………とうの昔に絶えたと思っていたが………忌まわしき技だ……」


 絶牙鱗翔。それは数千年前の争いで産み出され、密かに受け継がれてきた至上の剣技である。


 「いや、待て待て……そんなことは問題ではない。何故私の闇が千切れ飛んだ……?」

 「アルトフォストは全てを照らす光の剣。お前の闇ごときには負けないっ!!」


 勇者の剣は更に速さを増していき、オルガーツの体をズタズタに引き裂き、霧散させていく。

 「ぐああぁぁぁっっ!!!」

 「はあっ……はあっ……」


 力を使い果たしたと言うように勇者は膝をつき荒い呼吸を繰り返す。


 「はやくシュルファを――――」


 意識を、分断されたシュルファとの合流に向けた勇者の耳にパチ、パチと軽い拍手の音が響く。


 「!?」

 「いやはや、まさかここまでとはね。正直侮っていたよ」

 「……」

 「言っただろ? 『彼女の相手は私の分体がしている』と。お前の相手がそうでないと思ったか?」


 目の前にいるのは本体なのか分体なのか、そしてシュルファはどうなったのかという迷いが、勇者の思考を遅らせる。


 「お前は想術が得意ではないのだろう? なら私の敵ではない。この空間の闇は払えんからな」


 勇者がぐっと歯を噛みしめ攻撃の機会を窺う。


 「むしろ警戒すべきはあの女だ。奴はかなりの手練れだ……」

 

 そのとき、キーンと空間を揺らすような音が闇の中に響き渡る。


 『聞こえますか? 勇者様。闇を媒介に通信しています』


 オルガーツの反応から察するに声は勇者の頭にのみ響いている。勇者は気取られぬよう固く表情を保ったまま耳を傾けた。


 『簡潔に伝えます。私の合図に合わせて技を闇に向かって放ってください』


 勇者は心の中でこくりと頷き、シュルファをどうしようかと悠長に考えているオルガーツに意識を戻す。


 「分体を複数送り込むか……」


 いつオルガーツが行動するか分からない中、痛いほどの沈黙が流れる。

 

 『―――今です!!』


 閃光のような目にもとまらぬ速さで走り出すやいなや、オルガーツが闇を盾にして身を守ろうとする。しかし、勇者の狙いは背後の闇の壁だ。


 「なっ……!!!」


 闇のナイフが勇者の右肩に突き刺さるがその痛みをものともせず、闇に接近する。

 

 「《裂蛟(さきみずち)》ッッ!!」


 絶牙鱗翔(ぜつがりんしょう)―――裂蛟。それは蜃気楼を打ち払う打開の一手であった。その技とアルトフォストの光を掛け合わせ闇を打ち消していく―――だが


 「……だがその程度では闇は破れんぞっ!!!」


 オルガーツが必死の抵抗として右手から大量の闇を噴出させ、勇者ごと空間を飲み込む――――かに思えた。


 『――――《韋駄天雷獣(いだてんらいじゅう)》』


 (いかづち)を伴った神獣が顕現し、獰猛な牙で闇を食い破り、けたたましい光で搔き消していく。


 「ガアアァァァ!!」

 「はあああぁぁぁ!!!」


 勇者と神獣の叫びが重なり、二つの力が闇を吹き飛ばし、視界が一気に晴れるとそこは元の玉座の前であった。


 「シュルファ!!」


 闇の中から出てきたシュルファの中に雷獣が吸い込まれて消えていく。


 「私が頭を貫かれて気絶していただけだと思いました?」

 「遠隔で術を解析したか……」


 がくりと膝を付いたオルガーツがそう言うと、勇者が剣を構え警戒体制に入る。


 「大丈夫です、こいつはもう戦えません」


 すっと勇者を制してオルガーツに歩み寄っていく。


 「何か……言い残すことはあるか?」

 「……クライスタ王国の王に成り代わったあの方―――ヴィーネ様は私の教え子だった」

 「あの性悪女(しょうわるおんな)はヴィーネというのか」


 こくりと静かに頷き、ゆっくりと、過去を思い出すように語りだした。


 「私の教えが悪かったんだ。差別など……許されて良いはずがない」

 「……今更命乞いか?」

 「いいや、死に行く者の戯れ言(ざれごと)だ……どこで道を間違えたのだろうな。ヴィーネが子供のときは純粋で良い子だったはずなのに」


 オルガーツの声色が(あるじ)を尊ぶような物から、教え子を慈しむような物に変わっていく。


 「叶うのならヴィーネは君達の手で殺してやってくれ。それがあの子の先生としての最期の願いだ」

 「心配するな、それだけは約束しよう」


 勇者の言葉に安心したように柔らかい表情を覗かせる。


 「……ローヴェ君は……まだ倒れているだろうな。彼女は私に従ってくれていただけだ。見逃してやってくれ」

 「元よりそのつもりです」

 「……良い従者と教え子だったんだな」


 オルガーツがはっと驚いたように顔を上げ、すぐに温かい笑みをたたえる。きっとそれは可愛い教え子に向けられたような。


 「ああ……最高の。感謝するよ。これを受け取ってくれ」


 オルガーツが懐から一枚の紙を取り出し勇者の手にそっと託す。


 「そこに書いてある場所に私の古い友人がいる。人間で知恵もある。きっとお前達に力を貸してくれるだろう」

 「何故こんなことを……」


 勇者が紙切れをしまいこみながら問いかける。


 「良いじゃないか、死に際くらい」


 勇者とオルガーツは思わずふっと吹き出してしまう。


 「はあ……さあ、終わらせてくれ」 


 勇者がゆっくりと剣を振り上げ、優しく、しかし力強く首をはねる。


 「……オルガーツ、安らかに眠れ」


 魔族に伝わる祈りを捧げる。敵であっても良き先生であった彼の魂に。


 「さてメルアを助けに行きましょう」

 

 周りを見渡すと相変わらず玉座のある部屋で、金庫室との位置関係が分からない。


 「早く探そう」


 霧散していく闇の残りかすを横目に金庫室へ全速で向かった。


 「……これじゃないか?」


 玉座の間を出て、少し進んだ突き当たりに金庫室はあった。


 「開けましょう」


 重い扉の取っ手を勇者がつかみ力を込めてギギィと音を立てながら開いていく。


 中は薄暗く、奥まで見通すことができないが、上部に取り付けられた鉄格子の窓から差し込む僅かな光で様子を確認する。


 「………嘘……だろ……」

 「……()()()()()()()()……」


 散らばった金貨やきらびやかな宝石達の中心に、数滴の血痕とほどかれた縄のみが残されていた。

消えたメルアは何処へ。そしてクライスタ王国のヴィーネとは


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