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プロローグ 勇者の終わり

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 外から流れ込んだ空気が反響する巨大洞窟の中で、深手を負った勇者と魔王が視線を交えていた。


 『―――――』


 魔王がこの世のものとは思えないうめき声を発するが、世界でただ勇者だけはその意味を理解している。


 「この世界(俺たち)はお前の思い通りにはならない!!」


 醜い化け物のようでいてどこか幼い子供のようにも見える魔王が、その狂暴な爪を横薙ぎに振るう。

 

 「っ……!!」


 勇者はその剣で爪を弾き返し、仰け反った魔王に一瞬で迫り、渾身の力で無数の技を絶え間なく叩き込む。


 「お前が与えた絶望を全部っ!! 押し返すっっ!!!」


 勇者の頭に浮かぶのは両親の笑顔と師範の背中、親友の死、そして故郷に残してきた妹の涙だった。


 彼はその背中にあまりに大きすぎる物を背負っていた。人々の期待や願い、真っ暗な絶望、そしてまばゆい希望を。


 「はああああぁぁぁぁぁっっ!!!!」


 練り上げられた()()、教え込まれた技術、研ぎ澄まされた剣、そして人々の想いの重さを剣に乗せ、振り下ろす。


 『―――――――!!!!』

 

 魔王の肉体を上下に両断し、心臓を切り破り、地面へと叩きつける。


 鼓膜を突き破るような魔王の悲痛な断末魔が洞窟の壁を崩壊させ、日の光が差し込んできた。


 粉塵が晴れ、そこに残ったのは荒く呼吸をする勇者と、力を使い果たした魔王の亡骸(なきがら)だけだった。


 「………眠れ」


 魔王の死骸から想力がゆっくりと立ち上って、断末魔や反響音の止んだ沈黙が流れる。


 魔王の血が付着した剣を振り払い、鞘へと込めたとき、どこかで聞き覚えのある音が響き、静寂を打ち破る。


 「何だ!?」


 次の瞬間、音とともに勇者の体内から巨大な魔法陣が出現し周囲を覆い隠していく。


 「ぐっ……!!!」


 力をかき集め必死に魔法陣を沈めようとするも魔法陣は広がり続ける。ほとんどの力は使い果たしてしまっているからだ。


 「間に合わな―――――」


 魔王の(むくろ)と勇者を、焼き尽くすような白い光が包み込み、急速に広がると、その姿は跡形もなく消えていた。


 そしてその魔法陣は、確かに、見紛うことなく、守ってきたはずの()()()()()だった。

これが始まり

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