5.スライム討伐
スライムの居る場所から通路を戻って倒し方を考える。どうやって倒す? 素手? いやいやいや、無理でしょ。……武器があればいけるかな?
武器……どこかに、ないかな。そこでふと、下水路のゴミが入った袋に気が付いた。この中に、武器になりそうなものがあれば……。
そう思ってゴミ袋の中身を確認してみると、石、野菜くず、刃の欠けた短剣などのガラクタしかなかった。野菜くずなんて、どうやって使えばいいんだよ……。
……短剣。鋭いもの? もしかして、いけるかも。
スライムはゲル状だった。つまり、膜みたいなのがあるんじゃないかな? その膜を切ればスライムの体は崩壊すると……思う。やってみる価値はあるかも。欠けた刃を少しでも鋭くするために石で刃の先を削る。
よし、準備はできた。スライムの居るところに戻ろう!
居た。なんかプルプルしてる。うそぉ! 増えた!? スライムの体が分裂して二体に増えた。もたもたしてる場合じゃない! また増えるかも!
まずは一匹、倒す! 欠けた短剣を片手で持ち、プルプルと震えているスライムに走って近づく。そのまま勢いに任せて短剣を振り下ろすと、スライムの体はどろどろになりコアが露出する。そこに後ろからスライムが飛び掛かってくる。
ジュッ、という嫌な音。短剣を持つ腕に引っ付いたスライムを掴んで投げる。衝撃を吸収するかのように着地して、プルプルと震えてまた分裂する、今度は三体も。嘘でしょっ? スライムってこんなに分裂するもの!?
スライムが引っ付いた腕を見ると火傷跡のように真っ赤に染まっていた。痛い……。
くそっ! スライムなんて創作物における雑魚じゃないか! リナアルアさんも低級の魔物って言ってたし! こんな傷、軽いもんだ!
また分裂する前に早く倒そう! 短剣を逆手持ちに切り替え背を低くして走る。襲ってきた一匹のスライムを避けて、奥にいる一匹を斬り下ろす。そのまま振り返り飛んできたスライム二匹を横一文字に切り裂く。
分裂する隙を与えないよう最後に残ったスライムを斬り伏せた。
……倒せた? はああぁぁぁ……疲れた。無意識に緊張してたのか、僕は尻餅をついて座り込んだ。
それにしても、なんであんなに分裂したんだろう? あれが普通なのかな? ギルドに戻ったらリナアルアさんに聞いてみよう。
少し休憩をした後、露出したスライムコアを拾って集める。
階段を上り、収納からフェンスの鍵を出して開ける。忘れないようすぐに鍵を閉めて……。管理人さんに、鍵、返さないと……?
「あ、おい!」
あれ……なんか、景色がぐるぐるしてき……た。
目が覚めるとベッドの上に居た。
「ここは……いたっ」
周りを見るために体を起こそうとしたら、右腕に痛みが走った。包帯が巻かれてる? なんで……。
「ヒノさん、起きたんですね」
「リナアルアさん? あの、ここって」
「冒険者ギルドの休憩室ですよ。一体、下水道で何があったんですか?」
何が? あぁ、そっか……僕、倒れたんだ。
「あの……リナアルアさん、スライムってよく分裂するんですか?」
「スライムが……分裂? そんなこと、聞いたことありませんが……」
「僕、掃除をしてたんです。どこまでやればいいか分からなくて、キリが良いところで戻ろうとしたんですけど……スライムが現れて。倒そうとしたら急に分裂して」
「それで、こんな怪我を?」
「ええ、まぁ。そういえば、あのゴミ袋はどこですか?」
「現在、冒険者ギルドで預かっています。……あの大量の魔石は何なんですか?」
「魔石?」
「ご存知ないのですか?」
「あ。その、田舎者なので」
「……説明しますね。魔石とは魔力の結晶のことで、主に魔物や魔獣の体内にあります。スライムコアも魔石の一種なんですよ」
「なるほど……」
「スライムコアも複数ありましたが、あの量の魔石は異常です。一体、どこから」
「魔石のこととは関係ないかもですけど、ゴミ袋に入れたのは下水道に浮いていた石や野菜くず、他には壊れたアクセサリーとかもありましたけど……基本ゴミやガラクタを回収してましたよ」
「ヒノさん、それです」
「え?」
「冷静に考えてみてください。石がどうして水に浮くんですか」
「……確かに」
「そもそも、なぜ魔石が下水路に……」
「わかんないですけど……。それはそれとして、下水道の依頼ってどうなったんですか?」
「そう、ですね……報酬は勿論払われます。それから、管理人さんからの追加報酬も」
「追加報酬ですか?」
「ええ、何か申し訳なさそうにしていましたよ。今度、話を聞きに行ってみればどうでしょうか」
「そうなんですね」
「とりあえず、治癒魔法士が来るまで休んでてください」
「治癒魔法士?」
「代金は報酬の方から天引きしますからね。あ、それと……あの大量の魔石や複数のスライムコアはどうしますか? 買い取っても?」
「あぁ、買取ですか。僕が持ってても使い道無いですし、いいですよ」
「ありがとうございます。では、治癒魔法士が来るまで安静にしててくださいね」
「わかりました、ありがとうございます」