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第24話 それは才能ゆえに

「い、妹さん!?」


 実菜が素っ頓狂な声を上げる。

 そんな実菜を智花がじろりと見る。


「……なにかおかしいですか?」


「だって、全然似てない……あっ、そっか義妹なんだっけ」


「私と兄さんはたしかに血が繋がっていません。ですが、本当の兄妹以上に強い絆があるんです」


 智花はそんなことを自信満々に言う。ブロンドの髪がさらりと揺れる。

 そんな智花に、実菜は気圧されているようだった。智花の圧倒的な実力を見せられたせいもあるだろう。


<橋川の妹まじで強いな……>


<そういや智花っていったら、名前を聞いたことあるぞ。Sランク冒険者で、神霊級の次に強い英雄級か……>


<英雄級ってSランク冒険者でも七人しか認定を受けれないんだよな>


<めったに姿を表さない孤高の聖剣士・智花の生配信を見れるなんてラッキーだな>


 そのとおり。智花はSランク冒険者。パーティーを組むときは前衛の剣士役を務めるが、単騎でもかなりの力を発揮できる。だが、冒険者としては滅多に活動しない。


 それゆえ「孤高の聖剣士」と呼ばれている。


 実菜はあたりを見回す。さっきまであふれるほどいたモンスターは一掃されていた。智花のおかげだ。

  

「あの……ありがとう、智花さん。でも、こんなに強いんだったら……進一が智花さんの学費を稼がなくても大丈夫なんじゃないの?」


 たしかに智花が自分で冒険者として活動すれば、学費ぐらい簡単に稼げるだろう。


「だが、智花がこんなに強くなったのは、ここ一年のことだしな。それに、どれほど強くても、俺は智花に危険な冒険者稼業をしてほしくない」


 たとえ世界最強クラスの実力があっても、冒険者としてダンジョンに潜るかぎり、死の危険は避けられない。

 愛華がその運命から逃れられなかったように。


 愛華に加えて、智花まで失ったら俺はきっと正気ではいられない。愛華が死んでから、智花とはずっと一緒に暮らしている。俺にとってはたった一人の家族なんだ。


 だから、智花がダンジョンで冒険することに俺は反対していた。実際、智花は俺の言いつけを守ってくれている。


 でも、そのことが智花は不満らしい。


「兄さんってば、本当に過保護なんだから。私の実力を見ていれば平気だってわかるでしょう?」


「そりゃまあ、おまえが強いのは知っているさ」


「そうでしょう? 兄さんほどではないかもしれませんが」


「Dランクの俺がおまえより強いわけないだろ?」


「見え透いた謙遜はやめてください」


 智花はばっさりと言う。

 自衛軍の部隊も到着したおかげで、周りは落ち着いてきていた。俺たちの近く以外でも、モンスターはあらかた討伐された。

 襲われた女子生徒たちの大部分も救出されている。もっとも一部は大怪我を負ったり、凌辱を受けたりしているし、さらにはダンジョンの奥へと拉致された少女たちもいる。


 忌々しそうに智花はダンジョンを見上げた。


「あんなものさえなければ、お姉ちゃんは……」


 死んでいなかった。智花にとってダンジョンは理不尽の象徴だ。同時に、ダンジョンで俺は智花の学費・生活費を稼いでいるし、智花自身にとっても活躍できる場所でもある。


 ダンジョンに対して、複雑な思いがあるのは、俺たち兄妹共通だ。


「ともかく、いったん安全な場所に避難しよう」


 俺の言葉に全員がうなずいた。校舎が倒壊する危険もあるし、そうなったら、俺や智花の力でもなんともならない。いや、なんとかする方法はあるが、そんな方法は使いたくない。


 俺たちはぞろぞろと破壊された廊下を歩き、校舎の階段を降りていく。


「それにしても、兄さん……」


「なんだ?」


「裸の女の子たちに囲まれて、嬉しかったですか?」


 たしかに実菜、玲奈、舞依、アリサ、ついでにはるかの五人はモンスターに衣服を奪われてしまったから全裸だ。

 多少は意識しないこともないが……。


「モンスターに襲われているのに、そんなこと言っていられる状況じゃないだろ……」


「でも、兄さんはエッチだから、他の女の子と浮気しないか心配です……」


「浮気って……」


「だって、兄さんは私と結婚するんですよね?」


 ぎょっとした様子で一同はこちらを振り返る。智花は平然としていた。

 実菜が「い、妹が兄と結婚するのは変でしょ……?」とおそるおそる言う。


 だが、智花は肩をすくめた。


「一番兄さんのことを愛している私が、兄さんと結婚するのは何もおかしくないです」


「絶対おかしいでしょ!?」

 

 実菜が叫ぶが、智花はふふっと笑う。


「なんで焦っているんですか、先輩?」


「べ、べつに焦ってなんかいないけど……でも、進一は進一が好きな人と結婚するでしょう?」


「さっきから気になっていましたけど、兄さんのことを『進一』なんて気安く呼ばないでください」

 

「あたしが進一をどう呼ぼうが勝手でしょ!」


「ダメです、進一兄さんの名前を呼ぶのは私だけの特権です」


 智花と実菜が極めてしょうもない言い争いをする。

 そう。この橋川智花という少女は、天才的な才能を持つ冒険者であり、Sランクの聖剣士だが……極度のブラコンなのだ。

 俺と結婚すると言い張って聞かないのもそう。これは智花が義妹になった五年前、10歳のときからそうだ。


 幼い頃は、俺も可愛いものだと思って聞き流してしまっていたが……今は智花も15歳。さすがに俺と結婚するという発言が冗談では済まなくなってきた。法律も変わって13歳から結婚可能になっているし……。


 そんな智花に横から舞依が尋ねる。


「智花ちゃんはどうしてそんなに強いの? あたしたちはやっとCランク冒険者なのに」


 たしかに同じ冒険者をしている舞依たちにとっては気になることだろう。けれど、聞いてもあまり有益な情報はないと思う。


 なぜなら――。


「才能ですね」


「へ?」


「私とお姉ちゃんは、冒険者としての適性が高かったんです。魔力もそれ以外も。だから、ふたりともSランク冒険者になれた。それだけのことです」


 智花は淡々という。

 裏を返せば、それは努力しても舞依や実菜たちでは、智花の境地に達することはできないという意味も持つ。


 舞依は悔しそうに目を伏せた。


「結局、兄さんを支える力を持っているのは、私だけなんです。そして、私が兄さんのそばにいることを……お姉ちゃんも望んでいるはずですから」


 智花はそんなことをつぶやいた。

 たしかに智花は強い。才能も豊かだ。


 だが、俺は智花とは少し考えが違う。

 実菜や舞依たちが上を目指せないこともないし、俺や智花を超えていくことも可能だと思っていた。









―――――――――――

そろそろ第一部もクライマックス……!


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