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Side 清閑寺玲奈:真面目な少女の本気の恋


 わたしは、真面目で気弱で、何の取り柄もない少女だ。

 清閑寺家は名古屋の名家で、かなりの規模の自動車部品メーカーを経営している。つまりお金持ちだった。


 わたし――清閑寺玲奈はそんな家の当主の次女として生まれた。

 普通の人よりもずっと恵まれた生まれだとは思う。


 でも――。

 優秀な姉や妹と比べられ、わたしはいつも劣等感を持っていた。忙しい両親は姉や妹ばかりを可愛がったし。


 わたしは要領が悪くて、人から好かれなくて、孤独だった。周りから嫌われないように真面目なふりをするようになったけれど、それで得したことなんて一度もない。


 小学校でも、地味で気が弱いわたしはいじめの対象になった。

 そんなわたしを救ってくれたのが、御城実菜。わたしの幼馴染で、親友だった。


 実菜はダンジョンのせいで両親を失っていて、親戚の家では冷たく扱われていたらしい。

 そんな実菜の境遇が、両親に愛されていないわたしと重なったのか、わたしたちはすぐに仲良くなった。


 実菜はとても明るくて前向きで、何でもできて可愛くって……。そんな彼女はわたしの憧れで、彼女が友達でいてくれて、どれほどわたしは救われただろう。


 でも。


 中学生になってしばらくして、わたしは実菜に対するもやもやとした感情を抑えられなくなった。

 コンプレックス。嫉妬。そんな気持ちを実菜に対してわたしは持ってしまった。わたしはいつも実菜に助けられるばかりで、実菜に対して何も


 それが次第に強くなって――。

 何も出来ないわたしを、変えたいと思った。家族を見返すために、実菜に負けないために。


 高校に入ってすぐ、実菜がダンジョンでの冒険をやろうと言い出した。

 いまやダンジョンでの冒険は学校での教育にも取り入れられているし、高校生がダンジョンの冒険をしてもおかしくはない。


 実菜や舞依たちはお金に困っているようだったし、それが命を賭けて冒険する最大の理由だったとは思う。


 でも、冒険者として活躍して、有名冒険者みたいに認められる存在になりたい。そんな思いもあったはずだ。


 わたしもその話に乗った。わたしは裕福な家に生まれているけれど、仲の悪い家族から離れて一人暮らしをしたかった。


 そのための生活費をダンジョンでの冒険で手に入れるつもりだった。そして、冒険者になれば、何かが変わるかもしれないと思っていた。


 わたしも実菜と並んで戦えるような、役に立つ存在になれるかも。


 そんな夢はあっさりと打ち砕かれた。わたしたちの冒険者活動はなかなか上手く行かなかった。

 Cランクの認定を受けたのはいいけれど、実戦ではさっぱり。


 実菜が焦って下層へ行こうとしたのもそれが理由だった。わたしは……いつもどおり実菜に反対できなかった。


 そして、わたしたちはプテラゴブリンに襲われ、あっさりと敗北した。そのままだったら、わたしたちはゴブリンに陵辱されて死んでいたか、奴隷として連れ去られていたと思う。


 そんなとき、助けてくれたのが橋川先生だった。

 先生は一瞬でプテラゴブリンを倒してしまった。


 しかもエンシャント・ドラゴンまでソロで倒すなんて……!

 わたしがなりたかった、憧れの冒険者。それは橋川先生みたいな存在だった。

 

 先生は本当に強くて、すごくかっこよくて。

 もっとこの人と一緒にいたいと思ってしまった。わたしはそんな想いを口にしようとした。


 でも、実菜が先に「師匠になってほしい」と先生に言ってしまった。実菜は顔を赤くしていて、先生に好意を持ったのはわたしの目にも明らかだった。


 ――ずるい。

 やっぱり、実菜はわたしのほしいものを持って行ってしまう。


 そのときは先生は実菜の提案を断った。だから、わたしは後で実菜たちと話し合って、先生の説得をしようと思った。


 先生を師匠にするのは、実菜が独断で言い出したことだし。みんな内心では賛成だったとは思うけど、さすがに相談するべきことだ。。


 けれど、実菜は一人で勝手に橋川さんの会社まで押しかけ、会社の人とも学校とも話をつけて先生を連れてきてしまった。


 本当に実菜はずるい。そうやって抜け駆けして、何でも勝手にやって。いつのまにか先生と仲良くなって。


 一言もわたしに相談してくれなかった。実菜はわたしのことを見下しているんだ。

 そう思ってしまった。


 だから、先生の前で実菜と喧嘩してしまったのだ。そして、泣いて恥ずかしい姿を見せてしまった。


 でも、先生はそんなわたしに優しくて……。


「おまえは強いさ」


 先生はそう言ってくれた。こんな惨めで、弱いわたしを強いと言ってくれた。

 慰めて、肯定してくれた。


 先生の言葉にわたしは救われた。

 嫉妬は悪いことじゃない、と先生は言った。そんな考え、わたしは思いもしなかったから。


 先生自身も嫉妬することもあって、でもそれを受け入れてるんだって。

 やっぱり、先生は大人なんだなと思う。ただ、強いだけの人じゃない。弱い部分もあって、でも、それを受け止めている。


 わたしも……そんな大人になりたい。実菜のことをまっすぐに友達として認められる強さがほしい。

 そう願ってしまった。


 先生ともっと仲良くなりたい。実菜にばかり先を越されるわたしは、もう今日でおしまい。


「わたしのことは名前で呼んでほしいんです」


 勇気を出してお願いしてみたら、先生は少し照れながらわたしのことを「玲奈」と呼んでくれた。


 やった……! 実菜よりも舞依よりもアリサよりも、わたしが一番最初に名前で呼んでもらった。

 この先も、先生の一番をわたしは欲しい。


 戻って実菜と仲直りした後、わたしは小声でささやいた。


「ねえ、実菜。覚悟しておいてくださいね」


「え? なんのこと?」 


「実菜が先生のことを好きだって、わたし知ってますから」


 そう言うと、実菜はみるみる顔を赤くした。本当にわかりやすい。実菜はそういうところが良いところだと思う。


「わ、悪い!? ちょっと歳は離れているかもしれないけど、あたしだって橋川さんに振り向いてもらえるチャンスはあるはず」


「悪いなんて言いませんよ。だって、わたしも同じ気持ちですから」


「え?」


 わたしの言葉に実菜はあっけにとられていた。

 今でも、実菜のことは羨ましい。妬ましい。


 でも、わたしにはもっと大事なことができた。

 進一先生の心を手に入れたい。


 実菜は大切な友達だけど、それだけは渡せない。


「つまり、わたしは……進一(・・)先生のことが大好きですから」


 わたしは自分の頬が熱くなるのを感じた。実菜はしばらく呆然として、それからくすっと笑う。


「じゃあ、あたしたちライバルだね」


「そう……ですね」


「玲奈には負けないから」


「わたしも実菜に負けるつもりはありません!」


 わたしはそう言い切れた。実菜と初めて争うことになる。でも、それは決して悪いことじゃない。


 わたしはわたしの願いのために、行動することにした。きっとそれを先生も褒めてくれると思う。


 ライバルは実菜だけじゃない。先生はモテるみたいだし、会社には美人の上司や後輩もいるみたいだし、義妹の子も先生を慕っているかもしれない。


 それに舞依みたいなあざとくアプローチする子もいる。

 でも、わたしは負けるつもりはない。


 先生の恋人になるのは、絶対に……わたしなんだから

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