表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

これから守ると、伝えたい―――名も無きもの―――



 あのイゼールとかいう奴、かなり病んじゃってたよ。

 ありゃあもう、狂ってたね。

 最後は、大魔導士の抜け殻抱えて浄化の炎出してたよ。いやぁ、熱くて近づけなかった。


 梟の爺様の言ったとおりだったよ。可笑しな魔法作って来世に飛んでっちまった。

 さすがは爺様。森の賢者って呼ばれるだけあるよね。あいつのやりそうなこと、ちゃんと読んでる。


 相手がいないと生きていけないって思考になってるんだっけ? だったら最初っから大事にしてりゃぁいいのに。ほんと、馬鹿だよね~。

 

 結局大魔導士はさ、前世ってかなり悲惨だったじゃん。平民だからって蔑まれながらも、魔力は膨大だから、色んなところに駆り出されて倒れるまで働かされて。自分を認めてもらうことがなかったから、ひたすら魔法を使ってお偉いさんに褒められることでしか、自分の存在意義が見いだせなかったんだってさ。


 オレその当時魔獣だったから、あまり大魔導士の言葉わかんなかったけど。

 それでも、隷属魔法をかけたから俺らが彼女に牙向けないって理解していたせいか、時々俺らのこと撫でながら、こんなことしたくないのにって泣いてたのは可哀そうだった。


 でもさ、魔獣って、ほんと何だったんだろうね?

 確かに俺ら、最果ての森の瘴気から湧き出てきたんだけどさ、隷属魔法は効いちゃったし、ってことは魂はあったってことなんだよね?

 実際こうやって今は可愛らしい小鳥に生まれ変わってるし。おかげであの狂ってる奴に警戒されずに、大魔導士の傍に近寄れたけど。

 だってさ、死体盗んでくるってもう終わってるよな、アイツ。

 いくら腐らないように魔法かけたからって言ってもさ、死んだら土に還そうぜ。あまりにも可哀そうで、毎回花摘んで大魔導士の傍に置いてやってたよ。

 あそこまでぶっ飛んだ奴に来世追いかけられたら、大魔導士やべぇじゃん。

 どうしてあんなヤバい奴愛しちゃったんだか。ほんと大魔導士って、前世もそうだけど碌でもない奴らしか周りにいないんじゃないのかい? 何とか助け出してやらないと。


 魔獣だった時は言葉がよくわかんなかったけど、大魔導士が『私の言うこと聞いて』『暴れないで』って言ってた雰囲気はなんとなくわかってた。何とかしたい、っていう気持ちがすんげぇ込められてたから。

 結局さ、隷属魔法って、相手が従ってもいい気持ちでなきゃ、効かないんだよ。俺ら、大魔導士だから従ったんだぜ。

 ただ、この『暴れないで』が問題だったんだよねー。魔獣って、力こそ正義なわけだし、弱肉強食で負けたら食われるし。


 でもさ、大魔導士の言葉はすんげー温かかったんだよ。だから、隷属魔法をかけられてない魔獣に戦いを挑まれて、やっつけるのを躊躇しちゃって、怪我したり、場合によっては死んだ奴も結構いたんだけど、それでもまぁいいかっていう気になるくらい、死ぬ時まで痛みを感じないくらい、ほんわかできたんだ。

 だからこそ、こうやって生まれ変わっても、大魔導士の生まれ変わりの傍まで来ちゃったりしたんだけど。


 確かに隷属魔法かけられてたから、大魔導士の生まれ変わりに引き寄せられたってのはあるけどさ、それ以上にあの存在がホント温かいんだよね。傍にいてとっても心地いい。あんなにほっこりする生き物って、他に見たことないよな。

 あぁ、隷属魔法解かれちゃったから、来世で彼女を探すのは難しいかなぁ。

 でも、もし来世で同じ種族として出会えたら、俺が彼女の傍に居たいよね。…っていうか同じことを、かつて隷属魔法をかけられた魔獣たちみんなが思ってるみたいだよ?

 

 とりあえず、イゼールとかいう奴には、絶対負ける気はしないんだよね。

 死んだ魔獣の中には、今生まれ変わってなかったから、まだ隷属魔法解かれてないヤツもいたりするし。あいつ等は来世でアドバンテージあるよな。大魔導士の生まれ変わりを直ぐ見つけ出すことができる。

 もし同種族に生まれたら、あいつらだって絶対狙うに決まってる。それこそ、権力持ったやつに生まれ変わったらもう、確実に囲うよね、うん。


 ま、そういうことで、大魔導士は諦めて囲われる来世を歩んでくれよ。俺らの誰が見つけても、絶対大切に、真綿でくるむように大事に扱うからね。

 だって、俺ら魔獣相手にあれだけ温かい気持ちをくれた人だもん。あの優しさは、何度生まれ変わっても決して忘れない。


 だから、あんなイゼールみたいな馬鹿に捕まっちゃだめだよ。大魔導士の献身に気付かなかった屑なんて、どうせ傍に居てあげたら、すぐにまた驕って馬鹿やるに決まっているよ。


 大魔導士はできれば来世は、過去を何も覚えていない方が良いだろうね。何もかも忘れて、俺らの腕の中でゆっくり笑っててほしいから。

 大丈夫。イゼールみたいな狂ったやつは、ちゃーんと俺らで排除するから。

 うん。いざとなれば俺ら魔獣の生まれ変わりでタッグ組んで、しっかり守るからね。

 だから、安心して囲われてね。


 さ、小鳥に生まれ変わった俺は、そろそろ寿命なんだ。なので俺も来世へと飛ぼうと思う。次こそは大魔導士と同じ時代、同じ種族に生まれ変われますように!


 また会おうね、大魔導士。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 素晴らしい物語をありがとうございました!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ