愛してる、と伝えたい―――イゼール―――
目の前でシルヴィアの瞼がゆっくり下がっていって、繋いでいたその手の温もりが消えていくのを、ただ茫然と感じていた。シルヴィアが僕のもとから居なくなるなんて、考えたことがなかった。泣き虫で怖がりな僕は、何かあればシルヴィアの元へ駆けていった。そうすれば、それこそ母のように姉のように自分を守ってくれるとわかっていたんだ。
……そう、僕は常に守ってもらっていた。自分よりも幼いシルヴィアに。
そして、母のように、姉のようにと思い、女性として見ることすらしたことがなかった。盾にするために求婚までしたのに。
愛していた、と言われた言葉に僕も、と言えなかった自分が恨めしい。本当にシルヴィアをそういう目で見たことがなかったことに、あの時気付かされた。一体どれほどの想いでシルヴィアは僕を守ってくれていたのだろう。
心が軋むと告げた君の、その気持ちを思いやったことが一度もなかった。婚約者として夜会用にドレスのプレゼントはしたことがあったけれど、デートの一つもしたことがなかった。
僕がシルヴィアをエスコートするために男爵家まで行ったことはあったけれど、シルヴィアが僕のところへ来たことはなかった。忙しいだろうからと、常に僕を気遣ってくれていた。そう、僕はシルヴィアにお願い事すらされたことがなかったのだと、あの最期の願いを聞いて気付かされた。
シルヴィアは僕に何も望まなかった。ただ、僕を守ることだけしかしていなかった。それはどれほど深い愛だったのだろう。僕はどれだけその愛の上に胡坐をかいていたのだろう。
とめどなく落ちる涙をしゃくりあげるように嗚咽している音を訝しんだのか、少し開けていた扉の外にいた侍女が中を覗き、声をかけてきた。
「イゼール様? シルヴィア様がどうかされたのですか?」
泣きながら、寝台から出ているシルヴィアの左手を両手で包み込んで摩り続けている僕は、なんと無様な様子だったろう。
「……シルヴィアが亡くなった。手が……、手が冷たくなっていくんだ」
その後どうやって家まで帰ってきたかはよく覚えていない。叫び出す侍女と、現れた男爵家の人々に、何の説明もできなかったであろう僕。
ただ手を握ってほしいと言われたのだと、だから手を握っているのだと喚き続け、泣きながらその手を放そうとしなかったのだと、葬式の日に現れた僕にシルヴィアの兄が教えてくれた。
僕がシルヴィア以外の女性と夜会で親密になっていたことに対しても、シルヴィアが自分の家族に『イゼール様は私たち男爵家以外の者には恐怖感を持っていらっしゃるでしょう? でも、今後のことを考えると交友関係を広げないわけにはいきません。そのため、その克服のために肉食令嬢は無理でも、イゼール様のお母様に似た儚げな女性とならば苦手克服の練習ができるのではないか』と、シルヴィアの了承のもと行われていると、僕を守るために嘘の説明までしてあったという。
そのため、僕の不貞もどきな行動も男爵家は責めることなく、婚約者として葬儀の場でも僕を遇してくれた。僕にはそんな資格などないというのに!
それでも僕は、自分の罪を男爵家の皆に話すつもりはなかった。卑怯なのはよくわかっている。だけど、シルヴィアとの最期の別れを行うこの場所を、今追い出されるわけにはいかないんだ。
棺の中で眠るシルヴィアは、静謐で近寄りがたい美しさを見せていた。こんなに綺麗だったなんて、どうして今までシルヴィアの顔をずっと見つめてこなかったんだろう。シルヴィアの顔をもっとよく見たいのに、とめどなく流れる涙が視界を遮る。
逝かないで。許して。ごめん。だからもう一度目を開けて。
謝る資格なんてないし、今更許されるわけもない。そんなこと、誰に言われなくても良くわかっている。だけど、なんて言葉をかけていいかわからないんだ。何を伝えたらいいのかわからないまま、シルヴィアの棺の蓋が閉じられるのを見ていた。
シルヴィアは、自身の体調の悪さを本当に誰にも悟らせないようにしていたようで、急な病でこの世を去ったと葬儀の場で参列者に伝えられた。
誰もがシルヴィアの親兄弟だけでなく、僕にも哀悼の意を捧げてくれる。本来僕はこの場所に立つ資格なんてないのに。僕がシルヴィアの心臓を軋ませたのに。僕が隷属魔法をかけなければ、今でも元気に笑っていたはずなのに。誰も僕の罪を知らない。誰も僕を責めない。誰も僕を罰しない。それが身を切られるように辛い。
葬儀に参列する人の中に、シルヴィアの友人だろう、旦那さんらしい人と一緒に歩いている妊婦さんがいた。
本来ならシルヴィアも結婚していて、それこそ子供がいてもおかしくない年齢だったのだ、と気付いたら更なる罪悪感に苛まされた。こちらから望んで求婚していたのに、シルヴィアとの結婚についてまったく考えていなかった。シルヴィアの適齢期を、ただ自分の盾として飾っておいた過去の自分自身に反吐が出そうになる。
それなのに、僕は、まだシルヴィアの隷属魔法を解いていない。最期のお願いだとわかっているのに。シルヴィアが、自分にお願いなんてしてくれたのは初めてだと気付いたのに。
それでもどうしても解けなかった。だって解いてしまったら、来世でシルヴィアに出会えないかもしれない。
シルヴィアは言っていた。動物に好かれていたのは、前世隷属魔法をかけていた魔獣の生まれ変わりたちが来ていたって。つまり、隷属魔法をかけられていると、かけた主の傍へ行こうと思うんじゃないのかな。
ならば隷属魔法を解かなければ、来世でシルヴィアが僕のもとへ来てくれる可能性があるということじゃないか。屑なのはわかっている。シルヴィアを殺しておいて、さらに来世でも縛ろうとするなんて。
棺はもう土で覆われてしまった。平らに均した土の上に乗せられた墓石の文字が涙で歪んで見える。
シルヴィア・ロンシャッテ 享年20歳 ここに眠る
男爵家一族の墓地ではあるが、祖父母はシルヴィアが生まれる前に亡くなっていたと聞いている。血縁とはいえ過去に会ったこともない人の墓に囲まれて、これから先シルヴィアがここで過ごすのはあまりに寂しくはないか。
シルヴィアの兄に肩を叩かれ、自分がお墓の前から全く動こうとしていなかったことに気付いた。周りにはもう、参列者はいない。既に夕暮れ時だ。
このままシルヴィアは僕たちと離れてここにいるのか。置いていかなくてはいけないのか。
身動きが取れずにいる僕を、シルヴィアの兄は抱えるように肩を組んで、男爵家の馬車に乗せた。シルヴィアの遺品を、いくつか持ち帰ってほしいそうだ。嫌でなければ、と申し訳なさそうに告げる彼に、食い気味に頷く。シルヴィアを感じる縁がほしい。それこそ、シルヴィアの部屋ごとすべてほしいくらいだ。
◇ ◇ ◇ ◇
ごめんね。そんな言葉じゃ、君への冒涜が許されるわけはないと思うけれど、どうしても君を一人にしておけない。
僕は確かに、真実の愛に焦がれていた。父である侯爵と、平民であった母のような。だってそれを真実の愛と言わなくては、正妻である第一夫人が正しいことになってしまうじゃないか。僕を蔑み、母を愚弄し続けた第一夫人が。
だからこそ、真実の愛を探していた。僕にもきっと真実の愛があるはずだと。君は僕の母みたいなものだから、僕が真実の愛を見つけたらきっと一緒に喜んでくれるはずだと、傲慢にも思い込んでいた。
なにより、君に隷属魔法をかけたのだって、君を信じていなかったからじゃない。信じていたから、君なら何をしても許されると思っていたから。大魔導士の再来とか言われていい気になっていた僕は、大魔導士クラスのでかい魔法を使ってみたかったんだ。
君は僕に防御魔法をかけてくれていたと言ったね。きっとそのせいだったのだと思う。過去に大魔導士が結界を張っていたはずの禁術関連文献を保管していた部屋の扉、なぜか僕は開けることができたんだ。おそらく君がかけてくれた魔法が、その扉に影響したのだと思う。
他の誰にも開けることができない部屋を開けた僕。そしてたくさんの禁術。僕は自分が選ばれた人間だと、不遜にも思い込んでしまった。
手に取った文献に、丁度書かれていたのが隷属魔法だった。禁術とされた隷属魔法が、何をどうするものかもよくわかっていないまま、ただ何かに、誰かに禁術を使用してみたくなって、君ならきっと何も変わらない気がした。実際、見た目には君は何も変わって見えなかった。
……どれほどの痛みを君は耐えていたのだろう。
今君がいないことに気付いた僕は、心が引き裂かれそうに苦しいよ。でもきっと、君の痛みはこんなんじゃなかった。今更僕がこんなことを言うのは自業自得なのだとわかっているけれど。
君は僕のすべてだった。僕を慈しみ、守ってくれる砦だった。僕は当たり前のようにそれを享受し続けた。今になってわかる。僕は君を信じていた。信じている。今でも。息をするのが当たり前で、意識なんかしていなかったように。君が僕に与えてくれたすべてのものを、疑いもなく受け入れていた。そう、たとえ君が僕に毒入りの料理を与えたとしても、そしてそれに毒が入っていると告げても、僕は君が与えるならば躊躇いもなくそれを口にすることができるだろう程に。
それは愛だ。愛していたんだ。なぜもっと早く気付かなかったんだろう。なぜ君を傷つけ、失ってから気付いてしまったんだろう。君がいなくては、呼吸するのですらこんなに苦しいと知ってしまった。
愛していた。愛している。
愛とは燃え上がるものだと思っていた。真実の愛っていう、特別な、一目見て気付くような何かがあると思っていた。違う、そうじゃない。こんな、穏やかな、でも存在そのもので僕を癒してくれる愛がすぐそばにあった。今更気付いても、本当に遅いのに。君に、もう愛していると告げられないのに。
だからごめんね。君を土に還してあげられない。お墓は掘り返した。君はいつでも僕の隣。あんな寂しい所に、君を一人でなんて置いておけない。
君が与えてくれた大魔導士の叡智に、時を止めるものがあったね。君の死体が腐らないよう時は止めてあるから大丈夫。でも、できれば君を生き返らせてあげたいんだ。もらった叡智をもとに、僕は研究を進めるよ。もし君が生き返ったら、その時は直ぐに隷属魔法を解除するからね。君の心を痛めることなんて決してしない。
でも、僕が生きている間に君を生き返らせる方法が見つからなかったら、その時は僕の死と共に君も一緒に逝こう。大丈夫。誰にも君の姿を見せることはしないよ。
僕がかつて君にかけた、僕を信じて、僕以外を見ないでという隷属魔法。自分に隷属魔法をかけることはできないけれど、同じことを僕はするんだ。君を信じて、君だけを見続ける。だからずっと傍にいて。
あの葬儀の日から3日経った。君が隣にいてくれることが嬉しい。だけど、その目が覚めないことが辛い。君を抱きしめてその冷たさを感じる度に、僕の心が軋むよ。表情の変わることのない君が痛々しい。君はもっと優しく微笑む子だったのに。
もともと僕が学園に行くようになってからは、頻繁に会っていたわけではなかったね。学園を卒業してからは僕は魔塔で毎日研究に忙しかったし。最近は夜会がある時くらいしか会っていなかったかもしれない。
あぁ、デートすらしていなかったか。でも、僕の心の中には常に君がいたんだよ。男爵家で君とお茶会をするのが、何も憂うることがなくてとても好きだった。気に入ったケーキを見て小さく微笑む君を見るのも、楽しいことの一つだったよ。
君は最期まで微笑んだままだったね。君が苦痛に歪む顔なんて、そういえば見たことないな。僕が辛い目に遭ったときは一緒に憤ってくれることもあったけど、自分自身の苦痛で顔を歪めることなんてなかったね。本当はとっても辛かっただろうに。
どうして? どうして君は僕を責めなかったの?
君はその権利があったのに。僕を罰することができたのに。君の命を縮めたのに。
君は今、僕の腕の中にいるのに。どうして何も言ってくれないの。
どんな罵倒でもいい。お願いだから目を開けて、僕に声をかけて。
あの葬儀から10日。君は今日も静かに眠っている。
本当に眠っているようにしか見えないよ。その心臓は鼓動を止めているというのに。
僕の手でその頬を温めても、僕の熱は君へとは伝わらないんだ。それがとても悲しい。
君の微笑みが見たい。君の声が聞きたい。夢でもいいから、僕に会いに来てほしい。
今更『許して』なんて言葉は一生吐くことはできないけれど、それでも許しを請いたい気持ちはある。ほんと下種だというのはわかってる。許されないことをして、君の命を奪って、謝られても君は困るよね。でも、苦しいんだ。どうやって自分を罰すればいいんだろう。誰か僕を罰してほしい。でも、魔塔に僕の罪を報告するわけにはいかないんだ。魔力を封じられて永久追放になったら、今後君のための魔法の研究ができないから。それに、追放されたら僕は直ぐに野垂れ死んでしまうと思うんだ。さっさと死んだらそれはきっと罰にならない。僕は君よりもっと辛い目に遭わないと、目覚めた君に会うときに合わせる顔がないよ。
あれから1ヶ月経ったよ。
時々小鳥が君の元へ遊びに来るようになったね。
既にいくつか魔法を新しく生み出したりしていたから、僕は魔塔の上階に広い研究室をもらうようになっていたけど、ここは君を隠しておくのにとてもいい場所だよね。研究室は機密保持のため他者入室不可の結界が張られているから、その奥の寝室に君を寝かせておいても、誰にも見つかることはないからね。だけど小鳥は侵入不可の対象外なのか、自由に窓から行き来してるし。
ベッドに寝ている君を気に入ったのか、傍にきて髪の毛を啄んだりしている。可愛らしい。
昔から君は動物に好かれていたものね。隷属魔法をかけた魔獣の生まれ変わりに好かれていたというけれど、普通の動物たちにも純粋に好かれていたんだろうね。君は本当に心が優しいから、その優しさは生き物たちに伝わるんだよ。たとえ永遠の眠りについているのだとしても。
そう、やっと自分に与える罰が決まったよ。シルヴィアに他者を見るなという隷属魔法をかけていた僕が、他者と会おうとするのは烏滸がましいよね。
だから、勿論夜会なんか出ない。君がいないところにわざわざ行く必要はないよね。魔塔の研究のために、どうしても外に出る必要があるときは、部屋に戻ってから体に傷を与えることにしたよ。心を軋ませることができないから、せめてそれくらいはしないと。
罰はね、体に魔法陣の入れ墨を施すことにしたんだ。自分で自分にやるから、足や腕、お腹くらいしか書けないけれど、この魔法陣のおかげでかなり魔力が上がってきているんだ。一石二鳥だよね? 針を自分に刺して彫っていくのは痛いけれど、君の痛みに少しでも近づけているのかもと思うと嬉しくなってくるよ。君も少しは喜んでくれるかい?
1年が経ったね。毎日君を抱きしめて眠っているけれど、君の体は冷たいまま。
血の通った君になるには、あとどれくらいの時間が必要なんだろう。
夜会なんて行かなくなったけど、それでも魔塔の外に呼び出される用事は減らないね。その分体のあちこちにに彫り物が増えて僕の魔力も増加してきているから、嬉しいことだけれど。一心不乱に彫っていると、ふと横にいる君が微笑んでいるように見えるし。僕の痛みが君の笑顔に変わってくれるなら、それは喜ばしいことだ。
それに、あともう少しで魔法が完成しそうなんだ。本当は君を生き返らせる魔法ができたら一番良かったんだけど、残念ながら理に反する魔法は、個人の魔力量じゃ足りないみたいだね。とはいえ君が教えてくれた時を止める魔法は、改良を加えて魔力量を抑えられるようになったから、研究を続ければ何かしら方法はあるのかもしれないけれど。
とりあえず今研究中の、君の魂を追うために僕の魂に枷をつける方法は何とかなりそうなんだ。今君の魂は神の御許なのかここには見当たらないけれど、隷属魔法で縛ってあったからその鎖のようなものが僕と繋がっているんだ。それをもとに、枷に切り替えることができそうだよ。そうすれば、転生の時に君の魂の近くに僕は行けるはず。
うん。僕は多分狂っているのかもしれないよ。でも、それは君が悪いんだよ。僕を置いて逝ってしまったから。もっと早くに、隷属魔法に気付いていることを教えてくれていたら……そうしたら僕は直ぐに僕は魔法を解いたのに。そうしてきっと二人で、幸せに暮らすことができたのに。
わかってる。僕が一番悪い。だけど、君の愛が乾いていたのも悪いんだよ。
君は一人で自己完結してしまっていた。僕に愛していたと告げてくれたけど、君は僕の愛を求めてくれてはいたのかな?
確かに君は僕を愛してくれていた。それこそ無償の愛を。だってそうでもなければ、僕を助けるために前世を思い出したりしないだろう? 初めて会った時は、お互い普通の子供だったはずだもの。それが、僕の境遇を憐れんで何とかしようと頑張って、頑張った結果が前世の記憶を取り出すことだったなんて。僕が君に会ってしまったせいで、君の今世の生活を壊してしまったんだよね。
だけどね、やっぱり君の愛は乾いていたと思うんだ。愛してくれていたけれど、僕の愛を求めるでもなく、今世は今世と、サクッと割り切っていたもの。
君は、もう何もかも捨てて、それこそ僕のことなんて完全に忘れて来世に飛び立とうとしたなんて、そんなのずるい。僕をここに一人残して、君はまっさらになって新しい人生を歩もうとしているなんて。お願い、置いていかないで。
だから僕は魔法を編むしかないんだ。羽ばたこうとする君を僕の隣に留めておくために。ごめんね。こんな屑に愛されて。
僕が君を愛していると気付かなければ、君は来世で僕とは関係なく幸せに暮らせたんだろうけれど。僕は君を愛していることに気付いてしまったんだ。
だからごめん。来世も君の隣は僕がもらうからね。
早いものであれから3年もたったね。
愛していると告げると、君の頬が色付いて見えるよ。やっぱり僕の声が届いているんだよね。
僕の体は、隙間なく魔法陣が描かれているよ。マントで覆っているけれど、左手の甲も彫ってしまったから人前で魔法を使いづらくて仕方がないよね。気になるのか、皆僕に聞いてくるのだもの。君以外誰とも話したくはないというのに。皆僕の顔色が悪いとか、見えている手が骨と皮になっているとか、失礼なことも平気で話しかけてくるし。死人みたいとまで言う奴もいたよ。君と一緒なら嬉しいことじゃないか、ねぇ?
とうとう魔法が完成したよ。本当はもっと早くにできたんだけど、失敗があったら大変だからね。何度も実験を繰り返したらこんなに時間がかかっちゃった。やっぱり生き返りの魔法は無理だったよ。だけど、僕の魔力の大半を使うことで君の魂へ道標をつけることができた。ごめんね。隷属魔法、解除できなかったよ。この魔法って、魂がこの世にないとできないみたいだね。君の魂は今、神の御許にいるんだね。転生していないとわかってうれしいよ。僕も今すぐ死ぬから、一緒に来世で会おうね。
君の体を一人置いて行ったりしないよ。一緒に逝こうね。君を抱きしめながら、浄化の炎ですべてを焼き尽くして痕跡を消すからね。この魔法が誰かに解析なんてされたらいやだもの。これは僕と君だけのための魔法。誰にも教えてあげない。それじゃあ、来世で出会うまで、ゆっくり炎に包まれて眠ろう。
おやすみ、シルヴィア。
誤字報告いただきました。ありがとうございます。修正いたしました。