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第三十二話 彼女にはもう不幸になって欲しくない

「生命波動は魂の動力源さ。だから人は自然と知識を求めて生きていく。己の魂を高める為の本能としてね。そんな膨大な知識を星から授かったのがアテリアさ。だからあの子達は最初から色んな事を知っているんだ」


 アテリアとは星の知識を持ったまま転生する魂の呼称だった。

 決して進化した人間という訳でもなく。


 その証明は、お婆さんがコンテナちゃんへと指差しながらしてくれたよ。


「あの肌と髪、そして瞳。あれは生命波動に溢れている証拠さね。アテリアは決して体質や血筋や掛け合わせの事なんかじゃない。魂に選ばれた時からがアテリアなんだ」

「それって一体どういう事なんです?」

「生まれる前は普通の子どもでしかない。けれど母親の胎から出てきて生命の息吹を上げた時、魂が初めて肉体に影響を与えるんだ。あの特徴は全て、生まれた後に変わったもんなのさ」

「な、なんだって……!?」


 つまりアテリアは事実上の後天的才能なんだ。

 ただ宿った魂が普通かそうじゃないかの差というだけの。

 そこに肉体の進化云々は関係無いんだって。


「だからあの子も相当に賢いって訳さ。それに加えて転生前の記憶も多少残っているからね。だから文字なども読めるし、あの小型コンソールみたいな玩具も扱える。きっと転生前にもあれを相当利用していたんだろう」

「あの子が機械に強いのはそういう理由だったのか……」


 僕を助けてくれた知識もそう。

 きっとあの絵本を読める常識もそう。


 そして小型コンソールのカメラで絵本の内容を激写しまくるその知恵だって。

 

 ……やってる事が全て正しいとは言わないけどね。

 それでもそう閃ける賢さは全てアテリアだからこそなのだろう。


「ただ、あの子に限ってはちょいと事情が複雑そうだけども」

「え……?」

「いくらアテリアと言えど、転生すれば精神は退行しちまう。それでも前世の記憶が強ければ理性で押し返したりして、生まれた時から大人らしい振る舞いができたりもするんだ。けどあの子は今、とても幼いだろう?」

「えぇ、そうですね」

「あれはね、前世も相当若くして死んでいるって事なのさ。おそらくだが、そうやって若年転生を繰り返した事で退行に抗える理性をほとんど残しちゃいないんだ。精神面に関しては魂より肉体的成長の方が重要だからね」


 こうしてアテリアの真実がわかったのはいいのだけど。

 同時に、衝撃的事実にまで波及するとは思わなかった。


 どうやらあのコンテナちゃんの状態はアテリアの中でも相当に特異らしい。

 それも悪い意味で。


「もしかしたら某所で敢えて若いうちに殺し、器をすぐ用意させて魂を逃がさないようにしているかもしれないね。酷い話だが、ありうるよ」

「そんなッ!? で、でも転生先がどこかなんてわからないんじゃ……」

「いや、そうでもないんだ。実はアテリアが両親だと、その子も高確率でアテリアになる。特別な魂との親和性が高いからね。だからその特性を利用し、一部国家では秘密裏にアテリアを増やす計画さえ行っている所もあるのさ」

「そんな……はっ、それってもしかして皇国!?」

「ご名答。秘匿しちゃいるが、他の国も知っているだろうね。けどどこも突っ込めやしないさ。なんたってどこの国だって独自にアテリアを研究しているんだから」


 相当に闇の深い話だと思う。

 選ばれた子を得る為に、利用する為に、効率よく転生させているなんて。


 それじゃあまるで家畜も同然じゃないか……!


「僕、皇国の名も知らない科学者さんにあの子を託されたんです。爆弾の素にされそうになっていたのを見過ごせなかったみたいで。そこで平穏に過ごさせて欲しいって伝言を乗せて、爆弾に似せた箱で脱出させたそうなんです」

「そう……そんな経緯があったのかい。いい人に巡り会えて、あの子はきっと幸運なんだろうねぇ」


 けどその境遇に一石を投じた人もいる。

 ダンゼルさんみたいに事情を知りつつかくまってくれた人だって。


 だからコンテナちゃんにも安心して暮らせる場所がきっとあるはず。


「そうですね。僕もあの子が幸せになれるよう何とかしたい、そう思っています」

「いい心がけだね。けど今の世、そんなアンタ達を騙して利用しようとする頭のおかしい連中がごまんといるからね、気を付けるんだよ?」

「はい! ご教示ありがとうございます!」

「いいねぇ素直な奴じゃないか。そんなアンタに巡り合えたのがあの子の一番の幸運なのかもしれないねぇ」


 そんな世界の闇を知った。

 彼女を取り巻く貪欲な悪意を知った。


 けど、そんな世界の中だからこそ僕はますますコンテナちゃんを守りたいと思う。


 だって彼女にはもう嫌な目に遭って欲しくないから。

 不幸に遭う姿を目にして心を痛めるのは、ヴァルフェルになった今でも辛いから。


「さ、こうして色々教えてやったんだ。今度はお前さんから聞かせてもらおうか」

「――えっ?」

「悪いが拒否は許さないよ。私は善人じゃないからね、等価交換くらいはしてもらわにゃ割が合わないのさ」

「お、お手柔らかにお願いします……」


 なんて息巻いていたのだけど。

 今度はお婆さんの鋭い眼差しがいきなりこちらへ。


 うーん……コンテナちゃんを守る以前に、僕自身を守り切れる自信がありませぇん!


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