第二十八話 突貫一択
『警告、ロック』『警告、ロックオン――』
「知った事か! 突っ込めぇーーーッッ!!!」
グノーンに乗り、まさしく騎馬を駆る騎士がごとく突撃する。
正面にいるレティネ機へと向けて一直線に。
本来、狙撃兵に対して愚直に真っ直ぐ突っ込むのは自殺行為だ。
けど僕に小賢しい策なんて弄している余裕は無いし、すぐ閃く知恵も無い。
だったら今ある力を信じて、一気にここを突破して張り倒すしかない。
あの人が突破力に弱いのは獣魔戦で証明済みなんだから!
それに加え、さっきの一撃からほとんど間が経っていない。
そのおかげで正面の機体からの追撃はまず来ない。
長距離砲の弱点はリロード時間で、次の一発まで相当に時間がかかるから。
だから正面の機体へこちらからファイアバレットを放って牽制。
場に釘付けにした所で一気に突き抜けていく。
しかしそんな時、突如として左側の景色が瞬いた。
別機体の重光波砲が僕へと向けて放たれたのだ。
まともに当たれば最新鋭機であろうと一瞬で蒸滅させる一撃が。
――だが。
「そんなッ攻撃はァァァーーーッ!!!」
その重光波は僕達へ当たった途端、拡散して無為となった。
グノーンの持つ魔導防壁システムが発動したんだ。
というのも、グノーンは元々防御力と疾走力に優れている。
更にはこの魔導防壁を備えていて、周囲からの攻撃に滅法強い。
ダンゼルさんが何かあった時に逃げやすいようにと積んだ機能らしい。
おまけにゴーレムだから全体的に魔法防御力が高い。
魔法で造られた生物なので元から耐性が付いているんだ。
その二つの特性があるからこそ、重光波砲だろうと弾く事ができる。
ダンゼルさんからこの事をあらかじめ教えてもらっておいて正解だった!
『こんな小細工をッ!? アールゥ! 貴方はどうしてぇいつもォォォ!!』
「貴女がそうやって人の話を聞かないからでしょうが! それだからッアールデュー隊長に嫌われているんだッてェェェーーーッ!!」
『うああッ!!?』
どうしてレティネ隊長がこんなわからず屋なのかはわからない。
最初からなのか、それとも何かがあって変わってしまったのか。
でもいずれにせよ、もう狂人の話になんて付き合ってられないから!
だから僕はグノーンの腰部を叩き、更に速度を上げさせる。
このままいけば、正面機の第二射までには到達できるだろう。
だけど、どうやらレティネ隊長もタダでは転ばなかったらしい。
「ううッ!?」
なんと今度は右から光線が。
それも僕達ではなく、その足元へと向けて。
効かないならと目標を変えて来たんだ。
グノーンの足を止める事を第一優先として。
その効果は絶大だった。
たちまち大地が吹き飛び、僕達の体が浮き上がる。
更には魔導防壁が限界を迎え、グノーンの足が爆風で吹き飛んでしまった。
そして僕は勢いのままに投げ出されていて。
「……けどさッ!!」
『なんですってッ!?』
――いいや、違うね。
僕はもう、こうなる事を知っている。
レティネ隊長は決して無駄な事はしないはずなのだと。
一発目で見極め、二発目で最大効果を狙う。
そうして積み重ねて撃ち続け、成果を出し続けたからこそのライゼスなのだと。
だったらそれさえ先読みすればいい!
ゆえに今、僕は体勢を崩す事なく跳ね飛んでいたのさ。
中央機へと向け、軌道を一切変える事無く。
『でも、もう遅いわッ!!』
「ううッ!?」
ただこの時、既に中央機は再び銃口を構えていた。
まるで僕が飛び出してくる事を予測していたかのように。
これがナイツオブライゼス、三大英雄の先手読みかッ!!
「もういいッ!! 私のモノにならないお前はッ!! 消し飛んでしまえぇーーーッ!!」
「うああッ!?」
その中でとうとう強い輝きが迸る。
僕の視界を真っ白に覆い尽くすほどに大きな閃光と共に。
――けどね、切り札はまだあるんだッ!!
これは一か八かの賭けだ。
なぜなら、これはまだ実証さえされていない特殊防御手段なんだから。
「右腕APGブラスティングッ!! 魔力全ッ開だぁぁぁーーーーーーッ!!!」
それがこのAPGブラスティング。
軽装仕様の腕部装甲に施された、魔力共鳴可能な対魔防コーティングである。
グノーンの魔導防壁と同じようなバリアを張れる代物と思っていい。
ただその限界性能はスペック上でさえわからない。
実装されたばかりで、対ヴァルフェル効果は未実証なんだ。
けど、僕にとってはこれ以上無い命綱だ!
ゆえに二人が相まみえた時、その間にて強い光が弾け飛ぶ。
高出力エネルギーと防壁拳がぶつかり合った事によって。
「ちぃぃ!?」
「僕は……僕は貴女を超えますよッ!! アールデュー隊長の為にもッ!!」
砲撃のエネルギーはすさまじい。
物理的に僕を押し返そうとするほどに。
そのせいで飛び出した勢いが今にも殺されそうだ。
だけどね! アールデュー隊長は! この程度じゃあ諦めないッ!!
だからこそ、今度は両脚の腿部バーニアが火を噴いた。
緊急姿勢制御用の小型なものだが、その瞬間出力は伊達じゃない。
そうして強引に押し込み、遂に光線を弾き飛ばす。
僕の右腕全体を赤熱蒸解させて犠牲にしつつも。
ただし、勢いを維持したままに。
「うああッ!!?」
「右腕パァージッ!!」
そんな右腕を即座に切り離し、更にその射出の勢いさえも利用して。
瞬時にしてレティネ機の背面へぐるりと回り込む。
そしてその勢いのままに、僕は彼女の背中へと硬質ブレードを突き刺したのだった。