第二十五話 コンテナちゃんナイスプレイ
「さぁ答えろアールデュー! 私はお前の声が聴きたい!」
今、とてもよくわからない状況です。
対皇国レジスタンスの本拠地に武器を売りに来たら、隊長と間違えられて。
そこでなぜかリーダー格の女性に言い寄られる様な感じになってます。
でも僕、ダンゼルさんの言いつけで何もしゃべれないんですよ。
冗談抜きでしゃべれないんだよね。
発声プログラムがマスター権限でロックされちゃってるので。
ダンゼルさんが「許可する!」って言わないと解除できないんだ。
そのせいで今にも銃撃されそう。
ほんと、誰か助けて?
「なぜだアールデュー!? なぜ答えて――」
『心配すんな 気楽に行こうぜ』
「――ッ!?」
しかしその時だった。
突如として広場に、まさかのアールデュー隊長の声が響き渡ったんだ。
それも背中の箱が開きながらに。
『悩む必要が無くなった 切り替えていけ』
「ア、アールデュー……」
『また君か 今度はどんなアドバイスが欲しい?』
「そ、それは……」
待って待って、いったいどうなってるんだ!?
これは僕が発したものじゃない!
でも勝手に話が進んじゃってるよ!?
――あ、でもこの音声ってもしかして!
「いや、私はアドバイスなど欲していない。ただお前が心配だっただけで」
『そうだな。わかるよ、俺も 不安だったもの』
「えっ……」
『なかなか熱い所があるじゃねぇか だったら今の自分を信じろ』
「……そうか、そうだな。私が信じてあげなければ、今のお前に味方などいないだろうからな」
そうだこれ、僕のメモリーにある隊長の声だ。
それを継ぎ接ぎして無理やり隊長の言葉に仕立て上げてるんだ。
で、コンソールから直接音声を飛ばしていると!
コンテナちゃん、君は――なんてナイスプレイなんだァ!
『いい返事だ 随分と落ち着いてるじゃあないか』
「ああ。そしてすまない、お前を疑ってしまって。もしかしてと思い、内心興奮が冷めやらなかったのだ。許して欲しい」
『だそうだ よぅし、楽しいお話はここまでだ!』
「了解だ。お前達、もう銃を降ろして構わない。ダンゼル殿も離してやれ」
せっかくなので軽いジェスチャーを加えてそれっぽくしてみる。
隊長の動きは間近で見ていたから今でも真似出来るぞ。
そのおかげでとうとう兵達が銃を降ろし、ダンゼルさんも解放された。
どうやらダンゼルさんは終始焦りっぱなしだったみたい。
今は僕の足元に走り寄ってから「ふう~!」と汗を拭っている。
やっぱり気が気じゃなかったんだな。
怖いよね、裏取引って。
「すまない、迷惑をかけた。我々は別に君達へ危害を加えるつもりはなかったんだ。だから詫びで少し報酬を上乗せさせてもらうよ」
「へ、へぇ……どうも」
「そこでなんだが――」
「いやいや! もう勘弁してくれよぉ!」
そして怖いのはこれからだ。
お金を受け渡ししてハイおしまいとならない所が!
「もしアールデューが良ければ、私達の所に来ないか? お前ほどの男を迎えられるなら、私達はとても助かる」
やっぱりね! こう来ると思ったよ!
正直、なんで隊長がテロリストとこうも面識がある風なのかはわからない。
けどきっと何かしら複雑な事情があるのだろう。
もしかしたら皇帝陛下暗殺の件も、本当に関係があるのかもしれないな。
でなかったらここまで慕われはしないはず。
普通に考えたら天敵同士だもの。
ただ、僕はそのアールデュー隊長じゃない。
事情も知らないし、隊長の真似だってできない。
だったら彼女の話を受け入れる訳にはいかないんだ。
それが彼女のためでもあり、隊長のためでもあると思うから。
『まだ早いッ!!』
「なッ!?」
『これも一種の生存戦略だ どうすりゃ生き残れるのかってな』
「そ、そうか、お前も大変なのだな。わかった、今回は諦めよう。だが次回はもっと詳しい理由を聞かせてもらうぞ」
『いい、充分だ』
「フッ、まったく……そういう自分で抱え込む所がお前らしいよ」
なのでコンテナちゃんがこうして返してくれた所で話は終わり。
あとはジェスチャーだけで別れを交わし、急いで本拠地から脱出した。
でも、できればもう再会したくないなぁ。
ここまで心底焦ったのは初めての事だもの。
色々疑問も残ったし、今日は散々だった。
もうはやく拠点に戻ってゆっくりしたいよ……。
そんな想いを抱きつつ、今はようやく帰路へ。
快適なはずの空の旅も、今だけは揃ってどんよりだ。
「レコォ、お前どうして最後に許可出したのにしゃべらなかったんだ!」
「えぇ!? だって首を横に振ってたじゃないですかぁ!?」
「ありゃ『かまわねぇ、事情を正直に話せ』っていう意味だったんだよォ!」
「そ、そんなぁ~!」
『何が起こるかわからん 切り拓くぞッ! また を』
「君も僕の記憶で遊ぶのやめて~!」
ただしコンテナちゃん以外は。
どうやら新しい遊びを覚えたみたいで、さっきからこの調子だ。
隊長のイメージが下がっちゃうからほんと辞めて欲しいんだけど!?
けどこのおかげなのか、気付けば雰囲気は和らいでいた。
もしかしたらそうするつもりでふざけていたのかもしれないね。
まったく、この子はどこまでも不思議だよなぁ。
こんな感じで、僕らは日の差す空を悠々と飛んで帰る。
お金をがっぽりと稼いだから、きっとしばらくはゆっくりできるだろうと信じて。
だけどこの時、僕はまだ気付いていなかったんだ。
僕を求める意志は、あの女性達だけじゃなかったって事に。




