表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/27

最強魔王様の死に戻り生活

 魔王は邪神封印の鍵を管理し、世界を守る役目を担う。今代の魔王である俺は、桁外れの魔力を宿しており、世界最強の存在として生まれ落ちた。少しでも本気を出すと邪神が復活して世界が滅んでしまうオマケ付きで。どうやら俺の魔力と邪神の相性が良いらしい。

 おかげで俺の評価は歴代最弱の魔王だ。下剋上を狙ってくる魔族、邪神の狂信者達、そして勇者。あらゆる危機を、俺は自身に宿った「死に戻り」の固有魔法を使って乗り越える。

 呪われた魔力などに囚われない。最弱でもいい。俺は頭脳派魔王なのである。


 死に戻れるのをいいことに邪神討伐最速記録を競ったり(なお戦闘の余波で世界は滅ぶ)、たまにストレス発散で邪神と一緒に世界を滅ぼしたりするけど俺は頭脳派魔王である。

 面倒くさくなって、暴力と脅迫と拷問で得た情報を次のループに持ち越してしれっと解決したりするけど俺は頭脳派魔王なのである。

 異論は認めない。


 魔王城の最上階。巨大な部屋の正面にある壇上に、荘厳な玉座はある。華やかではないが、シックな彩りで整えられている一室。ここを訪れた者は、誰もが威圧感を覚えずにいられない。

 その玉座の上に、俺は座っている。

 

 俺は魔王である。言うまでもなく魔族の中での最高権力者だ。

 そして魔王とは世界を滅亡させると伝わる邪神……その「封印の管理者」でもある。


 勇者共は、俺が邪神復活を企んでいると思っているが、実際は逆だ。世界を邪神から守ってやっているのだ。

 「邪神封印の鍵」は魔王城で厳重に保管されている。誰も封印を解除できないように。

 あれは復活などさせてはならない存在だ。そんな脅威から人間共もついでに守ってやっているのだから、むしろ感謝してほしいものである。


「魔王様。失礼いたします」


 重厚な扉がノックされ、一人の魔族が入室してきた。

 秘書のルーシャだ。

 ノックの返事を待たずに入室するとは、お堅い彼女にしては珍しい。


「ルーシャよ。何用だ」

「魔王様。至急報告の必要のある事がありまして」

「ふむ、申してみよ」


 秘書は背筋をスラッと伸ばしながら、手元の資料を見る。


「邪神封印の鍵が盗まれました」

「…………?」


 俺は玉座の肘掛けにある小さな引き出しを開け、綿棒を取り出した。

 それで耳を掃除する。人目のあるところでこのような行為はすべきでないと思うが、難聴で秘書の報告が聞こえないとなれば仕事に支障をきたす。


「……耳掃除は終わりましたか」

「ちょっと待て。まだ右が」

「……」

「……よし終わった」


 真っ白な綿棒を、玉座の下のゴミ箱に投げ入れた。玉座に座り直す。


「さてルーシャ。改めて報告せよ」

「邪神封印の鍵が盗まれました」


 ……おかしいな。耳は詰まっていないはずだが。


「ルーシャ。もう一度申してみよ。何の、何が、どうなったのだ」

「邪神封印の、鍵が、盗まれました」

「……マジで?」

「マジです」

「大事件じゃん」

「大事件ですね」


 大事件も大事件。世界滅亡待ったなしである。


「現場に急行するぞ! 着いてこいルーシャ!」

「かしこまりました」


 俺達は邪神封印の鍵を護っている「鍵の間」に向かった。



 守護の陣は破られ、魔力片が霧散している。警備を務めていたはずの兵士達は、薬か何かで眠らされているようだった。

 そして本来鍵があるはずの台には、何も残っていない。


「……見事に盗まれているな」

「はい。ですからこのように」


 ルーシャは資料を俺に見せた。

 なるほど確かに、邪神封印の鍵の盗難届だ。


「……? 待て。なぜ盗難届が用意されている?」

「……? 盗難被害ですので」

「いやまあ……」


 そうなんだけどさ。そういうレベルの事件じゃなくないか。


「なぜそう落ち着いていられるのだ、ルーシャ。世界滅亡の危機なのだぞ」

「魔王様。焦りは失敗を生みます。いつでもあらゆる状況を想定し、冷静沈着でいることが重要なのです」

「な、なるほど」


 ルーシャはまだ200歳にも満たないはずだが、年に不相応な落ち着きを見せた。


「大体ですね魔王様。鍵だけでは邪神を復活させるなどできません。封印の地に行き、さらに復活の儀式を行わなければならないのですから」

「う、うむ」

「そして我々魔族ですら、封印されている場所と儀式の内容を解明できていないのです。間違ってもすぐに復活などしないでしょう」

「……確かに」


 言われてみればそうだ。一般的に認識されている以上に、邪神復活というのは難しい。必要なものは──


・邪神封印の鍵

・邪神が封印されている場所

・邪神復活の儀式


 の三つである。これらを用いて正しい方法で復活させなくてはならない。鍵以外の情報は現在は消失しており、鍵を手に入れただけでは復活はできないのだ。


「邪神が復活させられる前に、軍を整え捜索に当たれば、盗人の捕捉は可能でしょう」

「なるほど。では今は落ち着いて、直属の軍に集合をかけるべきだな」

「そうなります」


 このような場面で冷静沈着な彼女は頼りになる。

 俺とルーシャは「鍵の間」を出て、軍に集合をかけるため訓練場に赴くことにした。

 本来ならば軍上層部を通して招集をかけるべきだが、どうせ奴らは今日も訓練に明け暮れている。訓練場で直接呼びかけたほうが早いだろう。


 そういうわけで、訓練場が一望できるテラスにやってきた。



 空が(くら)い。


 山脈の向こうに見える、巨大な影。

 四方八方に広がる触腕。

 百足のような長い胴体に、無数に生える鳥の脚。

 頭はなく、斑点のように眼が体に埋まっている。


 縦横無尽に振り回される触腕は、地面に激突する度にクレーターを作る。

 無数の脚は山脈を踏み均し、帯上の更地を生み出す。

 幾つもの眼は極光魔法に似た光線で、周囲を無作為に焼き尽くす。


 巨体の至るところから黒い霧のような瘴気が溢れ、命を侵し地は不毛と化す。

 体表は黒い粘液に濡れていて、その粘液が垂れ、地に落ちると生命のような形を取り邪神の尖兵として世に放たれる。



 ……邪神復活しとるやんけ。


「どっどどどっどどどどうしましょう魔王様!!!?」

「お、おいルーシャ!?」


 服を掴むなルーシャ。

 揺らすなルーシャ。

 襟が伸びる。


「じじじ邪神がっ!? 邪神がぁ!!」

「お前ホント想定外の事態に弱いな!」


 事態が想定の範囲内だと冷静沈着だが、一歩その外に出るとパニックに陥るのがルーシャだ。

 こうなるともう使えない。ポンコツ秘書である。


「なぜそんなに落ち着いてるのですか魔王様ぁ!!」

「お前がパニクってるからだが」


 自分より取り乱している奴がいると逆に落ち着く法則。


「魔王陛下!」


 と、軍隊の一人がテラスに上がってきて俺を呼んだ。第一中隊長の龍人(ドラゴニュート)だ。


「邪神が復活しました! 被害は甚大であります!」

「うむ。見れば分かる」

「大隊長は特例と判断し、第二中隊を討伐に、第三中隊を防衛に送り出しました!」

「流石に判断が早いな」


 魔王直轄の大隊の指揮権は俺にある。俺の指示なしでは部隊を大きく動かす事はできない。だが、緊急を要する場合のみ大隊長権限で事後承諾の形で、第一中隊以外の部隊を動かす事ができるのだ。

 だが……。


「しかし、第二中隊は壊滅! 第三中隊も半壊しております!」

「そうか……」


 大隊長に責は無いだろう。あれは多少戦力を集めたからといってどうこうできるものではない。例え魔王軍全勢力をもってしても、討伐どころか防衛すらかなわないはずだ。あれはそういう存在だ。


 あ、邪神の目が光った。

 邪神ビーム発射。

 残念、ライン王国(人間の国)は壊滅した。


「……第一中隊も第三中隊の援護に向え。俺の防衛をしたところで変わらん」

「了解であります! 陛下は……」

「俺は少しやるべきことがある。俺の事は気にしなくて構わん。さあ行け!」

「は!」


 第一隊長はすぐさま駆け出し、テラスから離れて行った。

 廊下の先に彼の姿が消えるのを確認してから、俺は懐にしまってあったナイフを取り出す。


「ま、魔王様……? やるべきこととは……」


 震え声のルーシャが聞いてくる。


「まさか、た、戦いに行くのですか……?」

「なぜそうなる」


 ナイフを見てそう考えたのか、あるいは第一中隊に討伐を任せなかったからそう思ったのか。


「お前もよく知っているだろう。俺は弱い」

「そんな、ことは……」

「いや。客観的な事実だ」


 俺は魔王としてはありえないほど弱い。というか魔族の中でも最弱に位置する程だ。戦いの基本である魔法は初級魔法しか使えない。身体能力に関しても、魔力による肉体強化がほとんどできない。

 戦闘なぞ出来ない最弱魔王。それが俺の一般的な評価であった。


「戦うつもりなどない。俺はすべきことをするだけだ」


 俺はナイフの刃を自身に向け、心臓に突き刺す──


「──魔王様ッ!?」


 自分の心臓に突き刺す直前で、俺のナイフはルーシャに止められた。

 ルーシャは大粒の涙をこぼしながら俺に縋り付いてくる。

 いや止めないで。


「ルーシャ!」

「自死するおつもりですか……!? 自ら邪神復活の責任を負って……! 魔王様の『すべきこと』とは、死ぬことなのですか!?」

「いや違──」


 その時、邪神の目がまた光った。

 邪神ビームが今度は魔王城の付近を通過する。その衝撃波だけで、魔王城はあっさりと崩壊していく。


 テラスが崩壊することはなかったが、尖塔は破壊されたようだ。

 砂塵が舞い上がり、瓦礫が雨のように降ってくる。俺はルーシャの両肩に手を置いて彼女の目をまっすぐ見る。


「俺は死ぬつもりなど毛頭ない。固有魔法を使うだけだ」

「固有……魔法……」

「ああ。だから落ち着け。大丈夫だ」


 固有魔法。

 人間や魔族が、稀に持って生まれると言われる特殊な魔法だ。その存在そのものの核に刻みつけられたような魔法であり、切り札になるほど強力な場合が多く、自らの固有魔法を隠す者も多い。

 俺もその一人だった。


「ナイフを自分に刺すことが、俺の固有魔法のトリガーなのだ。安心しろ。俺は邪神から世界を救ってみせる」

「魔王……様……」


 涙で顔がぐちゃぐちゃになっているルーシャに、俺は一つ頷く。その時。


「あっ」


 邪神ビームが発射され、俺達はあっけなくジュッと焼かれて消滅。

 俺の死をトリガーに、固有魔法『時間遡行(ワールド・トーチャー)』が発動した。


──時は今日の朝に巻き戻る。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  ▼▼▼ 第14回書き出し祭り 第4会場の投票はこちらから ▼▼▼ 
投票は1月8日まで!
表紙絵
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ