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「お前、女だったのか!?」「……!?」

幼い日の思い出が、彼らにとっての全てだった。


異能を巡る戦争で両親を失ったアキラは、悪党として活動していた幼い頃に出会い、更生のきっかけをくれた友人・クリスとの間に交わした約束を胸に、他国の大学に特待生としての入学を認められるほどの秀才として成長し、日々研究に打ち込んでいた。

あるとき、彼の元に手紙が届く。その手紙には、かつて絆を結んだクリスの名前が記されていた。


“祖国の戦勝パレードで会おう”と告げられたアキラは、一時休暇を取って祖国へと里帰りする。

底知れぬ喜びを抱えて待ち合わせの場所で待つアキラの前に現れたのは──かつて出会った時の面影を残しつつも、確かに女として成長していたクリスだった。


それに驚き、狼狽したアキラは、クリスを指差し叫んでしまう。

「お前、女だったのか!?」と。

 戦勝パレード。

 小さな戦争を一つ終え、わずかな安寧を楽しむための祝祭。

 “終戦の英雄”と呼ばれ、けれど誰にもその名も姿も知られていない誰かに報いるための祭り。

 それはきっとこの勝利に貢献したすべてのものを示すのだろう。その名誉と喜びで、道端を歩く人ひとつとっても熱気が溢れているようだ。

 気分を高揚させる音楽と併せて、普段はなんでもない街並みを、特別なものへと変えていた。


 そんな賑やかな街の一画。

 普段よりも多くの人が集まる公園の中で。


「どうして……!?」


 アキラ・アルギニスは、


「どうしてぼくの力が、効いていないの……!?」


 日々の安寧と似つかわぬ──拳銃を向けられていた。


 心臓が止まったような気がした。

 凍える血を吐き出して、肉のすみずみが潰れるような冷たい殺意。

 己に向けられた無数の標準は、確かに脳を撃ち抜いている。


 異常だった。

 公園で、街中で、人がいて、それが熱気に溢れていて──そんな中で冷たい鉄塊を持ち出せば、すぐに騒ぎになるというのに。

 ボールで遊ぶ親子も、親しげな男女も、待ちぼうけの少年も、明らかに見えているのにも関わらず、なにも──否、今大事なのはそんなことではない。


 自分を呼び出した少年は。

 少年だったはずの人は──やはり、その様相からして少女にしか見えないあの人は、


 今、アキラに銃口を向けていた。

 端整な顔は泣きそうで。

 驚愕を紡いだその口を、内心の吐き気を堪えるように歪ませて、クリスは銃を構えていた。


「──な」


 なんだそれは。

 どうしてそんな顔をしている。

 激する寸前の脳裏に、走馬灯のように明確な疑問が走り──


「ごめん、ごめんよ、アキラ。こんなの、ぼくだって望んでないんだ。でも、ぼくをまともに見れた君を、みんなはっ──」


 嗚咽のような声がする。吐き捨てられた血反吐にも似たその声は、アキラの脳を稲妻にも似て焼き尽くす。

 ぐりん、と目だけが動き、拳銃を向ける黒服どもを刺し殺さんばかりの目線で貫く──「がっ」


「クリ、ス」


 殴られた。背から首を──意識を繋ぐ一点を。

 素人の技ではない。人体構造への理解と、正確に意識だけを飛ばす技量が必要だ。

 アキラもやったことがあるからわかる。


『せめて』懺悔するように銃を抱き、クリスはアキラと目を合わせる。『ぼくが、守るから』


 血を吐くような悲壮に、アキラはかすかな笑みをこぼした。

 そんなこえを読んでしまったら、憎むも何もないじゃないかと。


 そうして彼は、意識を失った。


 /


 生まれを憎まなかったと言えば嘘になる。

 だが、『アキラ・アルギニス』は半生を後悔で塗り潰そうとは思わなかった。


『アキラ』だった頃の彼は、すべてを憎悪で塗り潰そうとしていたけれど。

 戦災孤児として生まれ、悪党に堕ち、一時は街の全域にまで蜘蛛糸を伸ばしていたクズを変えさせてくれたのが、クリスだったからだ。


『たしかにきみは、悪いことをしている。

 でも、だれも殺してない。

 きみは、ぼくたちの平和が羨ましいから、壊さないんだ』


『ぼくのことも、助けてくれた。善意からじゃない、かもしれない。でも、ぼくはこの街の人間ではないから、ぼくは、知っていることだけできみのことを考えたい。

 考えて、ぼくは、きみに“ありがとう”と言いたいんだ』


 領主の前に引きずり出されて、しかし諦観に満ちていたアキラが、その言葉にどれだけ救われたか。

 眼前の相手が、どれだけの愛と善意を与えられて生きてきたのか──甘すぎて、甘すぎて、呑み込めないくらい肥え太った心でも、生きることができるのか。


 そう考えるだけで、“この世界も捨てたもんじゃないな”と。

 愛と善意を知らないアキラは、心の底から、笑えたのだ。


 そうして頑張って長くを他国の学舎で過ごし、多くの辛酸とそれなりの成果を味わったところに、クリスの手紙が届いた。

 絶叫した。狂乱した。それくらいの喜びがあった。


 研究成果をトランクに詰め、意気揚々と船に乗り、国を渡って土を踏み、訪れた首都ぶたいの公園で、アキラはクリスと再会し──


『お前、女だったのか!?』


 ──その言葉が突いて出て、捕らえられて、今に至る。


 クリスは少女だった。

 それは事実の問題ではなく、印象として、服装として、クリスは誰がどう見ても少女だった。


 肩まで伸びたブロンドは、まるで金糸雀カナリアのよう。

 闇を見通す双瞳は、翡翠よりもなお碧く。

 女性に傾きながらも一滴の少年を併せ持つ美貌と、

 からだを包むタイトな洋装スカート


 久しぶりに姿を見せた幼馴染がマニッシュな美少女となっていた、という衝撃体験は、あまりに忘れがたく。


 そして、そんな誰が見ても当然のように思える事実を知ったアキラは拘束され──不快な揺れが特徴的な車に乗せられ、何処ぞへと運ばれている。


 まるで意味がわからない。

 殺されるのなら理解できるが、無傷で運ばれていることが理解できない。


 そしてそれ以上に、同じ場所に銃を持ったクリスがいるのも、もっと理解できないし不快だった。

 あの砂糖菓子みたいなクリスが、損なわれてしまったようで。

 そうした誰かと、そうさせた己への悪感情で、どうにかなってしまいそうだ。


「クリス」「ここにいるよ」


「クリス、俺が何をしたんだ」「……それは」


 向かい合うクリスが言い淀む。一寸先すら覆い隠す暗闇で、それでも際立つ彼女の美貌に翳りが差した。

 彼女はひどく弱っている。その翳を、拭えるものなら拭いたいと──そう思わせるほどに。

 手足を椅子に拘束されているアキラには、どだい無理な話であるが。びくともしない頑丈な拘束に舌打ちした。


「教えてくれ。お前をそうさせた、そうせざるを得ない何かを俺はしたんだろう。所詮仮定だがもしそうなら俺はとんでもないクズだ。いや、正確にはもともとクズか。じゃあ変わりきれなかったってことになるな。まあ似合いだがそれじゃあ俺の気は収まらん。俺がお前に言ったことはお前が女だって驚いたことぐらいだ。だがあんなのは見ればわかる。それを言ったくらいであんな銃口を向けられるとは思えない。言った後に出てきた黒服たちも異常だ、あれはなんだ。急に出てきた。湧いて出るように唐突に、俺が気付かないうちにあの人数が一瞬で。そんなことあり得ない──そう断言したいが、女だってことに驚いてこうなってることへの意味不明さから考えるにもしかしてそれに関連する」


「待って、待って。一気にきたら答えられない」


 アキラの口を止めたクリスは、その翳を困ったように曇らせる。それは先ほどよりも余程明るく、しかたないなぁという風な微笑みにも似ていた。


「アキラ、質問するようで自己完結する悪い癖は直ってないんだね。アキラは頭が良いから、話してる間に答えを導き出しちゃうんだろうけどさ」


 それはある意味で正しかった。口に出すことで情報が整い、言わんとする答えが見えてしまう。

 これは子供の頃からの癖だった。誰も己を見ていないから、誰に問うでもなく、己で考えるしかない。

 口をつぐんだアキラに、クリスは優しい目を向ける。


「でも、それはうちに秘めておいて。ぼくはそれを答える権限を持たないから。答えてあげたいのは、やまやまなんだけど」


 ちらり、と目だけが運転席の方を見る。わずかな隙間を除いて隔離されたこの部屋からは、黒服の頭髪ぐらいしか見えるものがない。


「外からは完全防音だけど、ここからは聞こえちゃう……こわいお兄さんたちがいるから、ごめんね」


 本当に困ったように言う。毒気が抜かれる無邪気な言葉に、アキラは裡の淀んだものが澄んでいくような気さえする。

 だがそれで、整えた思考がなくなるわけではない。人に答えを与えられないなんて慣れたことだ。様々なアプローチで仮定を突き詰めていけばいい。

 アキラはゆっくりと脳髄の海に浸ろうとして──瞬間、


「きゃっ」「うおわっ」


 護送車が大きく揺れた。運転席を見れば、何やら慌ただしい……怒号が飛び交う慌てぶりである。


『あー、れでぃーすあーんどじぇんとるめーん』


 そんなときである。

 外から、そんな呑気な声が響いてきたのは。


『んん? いや俺が用があるのはれでぃーすの方だからじぇんとるめんの方はいらねえかいやまあどうでもいいんだけどね重要なのはお前だよお前、れでぃーす! “終戦の英雄”! 名も知られぬ異物アンティーク! そうお前だお前、聞こえてんだろわかってんだぞこっちはてめえがどこにいようが声を届けられるんだよ俺の喉なめんじゃねえぞいや舐めるのはおまてめえの顔か! おまてめえは顔だけはいいけどな性格はクソだが! ゴミだが! それとも耳も悪いのかそれなら俺の喉で骨伝導させてやんよおら出てこい!!』


「何言って……待て」


 おかしい。何故この声はここに届く。完全防音だぞ。

 どういうことだ、とクリスに目を向けると、クリスは冷えた目で一点を睨めつけている。


 その視線にアキラの背筋が粟立ち、咄嗟に口が開いて──


『まあいいや、出てこないならこっちから行くぜっ、』


「だめだっ、アキラ耳を──」


『行くぜ行くぞっ、鼓膜破れて死ーんじまっ、』


 ──続きを、アキラが聞き取ることはない。

 何故ならそれは波だから。人を呑み込む波だから。

 脳を貫く──衝撃波オト


 一拍、世界から音が消えて。

 次に意識が消える直前──クリスの唇が、『精神防護、干渉、展開』と動いたように、アキラは見えた。

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