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ぼろ屋を買ったら妖精さんが住んでいました

冒険者のアランはぼろ屋を買った。金貨一枚という激安価格でお買い得だと思ったが、その家には家妖精が憑いていて。気に入られなければ追い出されるという。アランは家を綺麗にするようにクエストを受けるが……。

 冒険者稼業を始めて、はや四年。

 僕、アランは少しずつお金を貯めて、長屋ではなく一軒家を買った。

 自分で言うのもなんだけど、あまり優秀な冒険者ではない。

 体格にも魔力にも優れたところのない、ごくごく普通の一般人だ。


 そんな冒険者に買えるような家だから、状態はボロボロだった。

 ただ庭付きで交通の便の良い一等地にある。


 不動産屋から紹介を受けたときには、その条件に驚いたものだけど、実際に見てみれば半分は納得した。

 屋根や壁に穴が開き、蔦が周りを囲っている。

 後々自分の手で補修しないといけないだろう。


「では、こちらになります。金貨一枚、たしかにお預かりいたしました」

「物件を探していただいてありがとうございました」

「契約書については後日あらためて送らせていただきます」


 お値段僅か金貨一枚。

 いくらぼろ屋とはいえ、土地代にも満たないだろう金額だろうに、よく売ってくれたものだ。

 紹介してくれた不動産屋にはありがたくて頭が下がった。


 一人になった途端、ウキウキとして体が弾んだ。

 生まれて初めて得た自分の城だ。

 ボロボロだって気にするものか。


 壊れたところがあるなら直せば良いだけの話だ。

 これから補修を重ねながら長い付き合いになるだろう。

 帰る家があると思えば、冒険者稼業にもますますやる気が出る。


「よろしく頼むよ」


 なんて声をかけて、軋んだ玄関扉を開けた。



 中は薄暗かった。

 ただ、破れた壁や屋根から外の光が差しこんできて、暗いとはいえそれなりに見通すことができる。

 とりあえず初めてということで、家の中を歩いて回る。

 玄関にキッチン、居間、寝室の平屋建てだ。

 離れにはトイレと小さな物置まである。


 庭は小さな放置された畑があって、昔は綺麗な花壇もあったのだろう。

 腐った木棚の痕跡が残っていた。


 僕一人だけが使うには広すぎるほど。

 だけど、これまで借りていた長屋が窮屈なぐらい狭かったから、とてもありがたかった。


 ただ、長らく人の手が入っていなかったからだろう、窓枠などには分厚い埃が積もっていた。

 管理人さんが掃除をしていたわけではないようだ。


「まずは掃除かな。空気を入れ替えないと……」


 掃除を終えて荷物を運び入れて、実際に住めるようになるのは何日後だろうか。

 やれやれ、と肩を一人で竦めていると、ふと視界に小さな動くものが目に入った。


「ん?」

「…………」


 なにも音がしなかったけれど、間違いなく何かがいた。

 目をよく凝らすと、手ぐらいのサイズの半透明に透けた人っぽいなにかがいる。


「家妖精だ。めずらしい……。僕はアラン。よろしくね」

「よろしくするかどうかは、これからのアンタの態度次第よ」


 家妖精は家に棲み、家主に幸福を齎したり、家事を代行してくれたりする存在だと言われている……らしい。

 気に入らない住人は追い出すこともあるらしい。

 らしいらしい、と繰り返すのは、実際に会ったことはなかったし、詳しく知っているわけではないからだ。


 もしかしたら、格安で売ってもらえたのは、代々の購入者が嫌われていたからかもしれない。


 家妖精の声はふてぶてしかった。

 目を凝らしてみてみれば、とても顔立ちの整った小さな顔が、不満そうにしている。


「いい、アタシが気に入らないやつはこの家には住ませないからね」

「お手柔らかに頼むよ。貧乏な僕がようやく買えた家なんだ」

「ふん、アンタの事情は知らないけど……そうね、私の用事をやってくれたら、住んでも良いわ」


 家妖精はけっして邪悪な存在ではない。

 気まぐれ者の多い妖精の中では、まだ人と親しみやすい相手だ。

 さてさて、一体どんな用事を言いつけられるやら。

 あまり手厳しいものでなければ良いけれど。


「まずはこの家を綺麗に掃除しなさい」

「それはもともとやろうと思ってから、大丈夫だよ」

「あらそう。殊勝なことじゃない。さっそく取り掛かったら?」

「その前に、名前ぐらい教えてよ」

「アタシはクリンよ。『偉大なる妖精フリン』に連なるクリン」

「クリン、よろしく」


 家妖精の態度はつれない。

 やれやれ。

 とりあえず掃除を急いで、仲良くなれればいいんだけど。

 僕は急いで準備に取り掛かった。



 もともと掃除は必要だろうと考えていたので、掃除道具を持ち込んでいた。

 箒にバケツに、叩きに雑巾。

 最低限の掃除は可能だ。

 まずは叩きで壁や棚、戸枠などに積もった埃をはたき落とす。


「うわっ、すごい埃だな。……クシュン! 家妖精がいるのに、掃除はしなかったのかい?」

「し、仕方ないでしょ。私だって本当はもっと管理したかったのに……力を失っちゃったのよ」

「大丈夫なのかい?」

「あんまり。でもこの家は、私の気に入らない嫌な奴には絶対に渡さないから」


 悔しそうに顔を歪ませるクリンの姿を見たら、それ以上は追求できなかった。

 なにやら事情があるらしい。

 姿がはっきり見えないのも、関係しているのだろう。


「まあ、アンタが掃除を頑張れば、アタシも多少は手伝えるようになるわよ」

「それは楽しみだ」


 言いながら、僕は叩きでどんどんと埃を落とした。

 舞い上がるものも多いけれど、空気を入れ替えていけば少しずつ綺麗になっていく。


 箒で床に落ちた埃をかき集めて、ちりとりで外に捨てる。

 どんどんと部屋の淀みは綺麗に消えていった。


「思ったよりも丁寧に掃除するのね」

「冒険者の新入りの時は雑用ばかりやらされたからさ。掃除のやり方もそのとき覚えたよ」

「ふぅん。冒険者って野蛮な仕事ばっかりじゃないのね」

「あはは……。まあ否定はできないけど」


 命のやり取りだってよくする仕事だ。

 僕だってモンスターを何度も倒している。

 ただ、野蛮なだけでもやっていけない仕事だと思う。


 すべての部屋を箒で掃除するまで終えると、とても時間がかかった。

 気がついたときには日が沈みかかっていた。


「今日はこれで終わるよ。また明日来るから、よろしくね」

「あら、今日は帰るのね」

「うん。まだ部屋を借りてるしね」

「そう。まあ頑張りなさいな」


 クリンは最初に見たときよりも少し元気そうで、そして機嫌が良さそうだった。

 僕が掃除をすることで、クリンも元気になったんだろうか。



 掃除を続ける。

 物がないから掃除はしやすかった。

 雑巾で家の中を拭き、蔦を引き抜く。

 クリンは少しずつ力を取り戻したらしく、途中から手伝ってくれるようになった。


「ほら、もっと力を入れて引っ張りなさいよ!」

「やってるよ……んぎぎぎぎ!」

「もう、しょうがないわね!」


 太い蔦が壁に張り付いていて、なかなか取れない。

 汗を大量に吹き出しながら、僕は必死に力を込めた。

 クリンが僕のズボンを引っ張って、手助けしてくれるけど、正直ズボンが伸びるだけだと思う。

 ボカッ、と音がして、壁が壊れた。


「うわああ!」

「きゃあっ!?」


 支えを失って後ろに倒れ込む。

 クリンがお尻に下敷きになってしまった。


「もうっ、レディをお尻に敷くなんて!」

「ご、ごめんよ」

「それに家の修繕まで必要じゃない」

「まあ、それは今更一つ増えてもね……」


 プンプンと怒るクリンに誤った。


 壁に穴が空いたからといって、今更な話だ。

 すでに屋根も壁も床も穴が開いてる。

 修繕はどう考えても必要だった。


 とはいえ、外壁もこれで綺麗になった。

 家の中も掃除できたし、とりあえず無事なところに家具を持ち込んで寝ることは可能だろう。

 最初は家妖精なんか出てきてどうなることかと思ったけど、追い出されずに済みそうだ。


「アンタ、なかなかやるじゃない! おかげでちょっとだけだけど、力を取り戻したわ!」

「そんな効果があったんだ」

「ええ。まだまだ全盛期には程遠いけど、アンタが協力してくれたら、アタシも家妖精として、快適な暮らしができるように力を貸すわよ」

「それは頼もしいね。よろしくねクリン」

「ええ。この家が良くなるように、もっともっと働いてもらうわよ!」

「お手柔らかに頼むよ」


 僕は苦笑を浮かべたけれど、この家妖精が元気になるというのならば、もう少し頑張るのも良いかもしれない。

 なによりも、買ったばかりの我が家を綺麗にしていくのは、僕の望みとも合致しているのだ。

 やれることはやろうと思った。

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