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勇者も扱えなかった重い聖剣――精神的に――を引き抜いてしまった件。

 世界を救う勇者志望の少年マサムネは、その資格の一つである聖剣を求め旅をしていた。

 聖剣に選ばれれば英雄の力を手に入れられるからだ。

 たどりついた先にあったのは、かつての勇者すら重すぎて扱えなかったという聖剣だった。

 しかし絶大な力を持つその聖剣には誰も知らない秘密があって――


「あれが聖剣……!」


 俺、マサムネは勇者が持っていたとされる伝説の聖剣を求めて崖の上の祭壇にやってきた。

 抜けた者は英雄の力を手に入れられる。

 だから当然厳かな場所にあると思っていた。


「聖剣まんじゅうあるよー!」

「街の子供に大人気! 聖剣レプリカもあるよー!」


 台座の周りでは、様々なお土産業者がシノギを削っていた。

 聖剣になぞらえたお菓子類なんてものまである始末だ。

 俺は険しい崖を上がってきたのに、よく見れば整備された道もあった。

 

 聖剣がある祭壇は、単なる観光地になっていた――。


「キミも挑戦するのかい? どうせ抜けやしないだろうけどさ。【聖剣】も働きたくないんだよ。おじさんだって、できれば働かないでお金欲しいよ」


 聖剣を抜く順番待ちの列、その最後尾にいたおじさんが笑いながら声をかけてくる。

 体型は丸く、勇者を志すような人にはとても見えなかった。


「な、なんでこんなに人が?」


 聖剣とは縁もゆかりもなさそうな連中が楽しそうに聖剣の周りでハシャいでいた。


「そりゃあ【聖剣】だからね。みんな興味あるでしょ。売ったらすごい高そうだしね。一生働かなくても生きてけそうだよ」


 おじさんは二重あごの下に手を当て何か考え込んでいるようだった。ゲスっぽい顔から察するに、売った時の値段だろう。


「で、でも選ばれた人以外使えないんですよね……?」

「そう。なにせあの【聖剣】は、重すぎて勇者様すら扱えなかったらしいから」

「世界を救った勇者様でも!?」


 俺はおじさんの両肩をつかみ、食い気味に聞いた。

 おじさんは顔だけを後ろに目一杯下げて、近づく俺の顔を避ける。


「キ、キミ、意外とグイグイ来るね……お、おじさんちょっとその距離感苦手だなぁ……君はおじさんの彼女か何かかな? 勇者様にも扱えなかったってのは本当なんじゃない? 現にここにあるしね」

「確かに……」


 俺があれを抜いたら、勇者様よりも強くなれる……?


「じゃあ、はい」


 俺を振り払ったおじさんはすっと手を差し出した。


「何かくれるんですか?」


 田舎者を見る蔑んだ目を俺に向けたあと、おじさんは列の横に立っている看板を指さす。


「逆だよ、逆。ほら、この看板に書いてるでしょ? チャレンジ料千ゼニー。おじさんは徴収係なんだ。皆様の払ったお金は貴族の贅沢品――じゃなかった、街の資金になります!」

「え、いま、贅沢品とかって……」

「言ってないよ! 言ってない! それは言いがかり!」


 釈然としない気持ちではあったが、この場所がどこかの貴族領であることを考えると仕方ないかと諦め、あまりない旅の資金から千ゼニーを支払う。


「毎度あり! キミが聖剣を抜けるのを絶妙に祈ってるよ! ほんとはこんなクソ儲かる商売辞めたくないから、抜けないで欲しいとも思ってるよ! 給料いいんだ!」

「おじさん正直ですね……?」

「正直に生きろって昔死んだ母さんが言ってたからね!」


 ――多分意味合いが違う……と俺は思うも、関わるのを辞めようと思った。



 順番待ちの列を見れば浮ついた空気の若い男女やらがいて、さらに後ろには何かに願うようなポーズで震える貧相なおじさんがいた。


「聖剣抜いて借金、借金返さなきゃ……神様勇者様……」


 こっちのおじさんも明らかに来る場所を間違えている。


 何人か俺と同じように装備を整えている屈強な人間が居るが、それらはみな居心地悪そうにしていた。


 ――俺みたいなガチの格好で抜けなかったら笑われるんじゃないか!?



 諦めて無心で列に並んでいると、どこかから大きな羽音がする。

 風も尋常でなく強くなってきた。

 その原因はすぐにわかる。

 崖の下から浮き上がるようにやってきたのは、翼を持つ巨大な魔物だった。

 

「翼竜……!」


 トカゲのような頭を持つドラゴンの亜種だ。

 人の山を見て、翼竜はぼたぼたとヨダレを流す。

 観光地の騒がしさ、食べ物の匂いが翼竜を呼んでしまったのだ。


 ――まずい。


 はっきり言って、今の俺に勝てる相手じゃない。

 聖剣を抜いて帰るつもりだったから武器すら持っていないのだ。

 巨大な音を立てて着地した翼竜は、物色するように逃げずに残った冒険者を見ていた。

 周りにいるの場慣れした空気の冒険者ばかりだ。見た目から言って余裕だろう。

 俺も素手で加勢しようと走り出したが――。


「うわっ……やべぇ! こいつ超硬いぞ! 俺のショートソード一万八千ゼニーが折れちまった!」


 ――弱い!

 

 そしてなんで剣の値段言うの!?

 興味ないんですけど!?


 口々に剣の値段を口走りながら冒険者たちは打ちのめされていく。


「やばいやばい! このままだと全滅だ!」


 ――せめて何か武器があれば……!


「あっ!」


 ここに来た本来の目的、俺は何しにここにきた?


 勇者にしか抜けないとされる聖剣。

 ここの聖剣は、その勇者にすら扱えなかった重さの剣だという。

 それでももう、希望は聖剣にのみ託された。


「俺は戦いたい! だから応えてくれ、【聖剣】! 俺に力を!」


 台座から剣を引き抜くために踏ん張り、柄に手を触れた。

 

 汝の願い、聞き入れよう――。


 俺の頭の中に不思議な声が響き、その瞬間、時間は止まる。


「この声、まさか……【聖剣】か……?」


『――左様。我は聖剣ロスクード。汝の顔――じゃなかった、声に呼応し、汝をこの精神世界に召喚した』


「顔とか言わなかった……?」


『――聞き間違いだ。言いがかりはやめろ。これだから精神世界素人は……。とにかく、我を引き抜くに当たり、いくつかの質問をする。まずは名を名乗れ』


 今日は二回も言いがかりだと言われてしまった。


「マサムネだ」


『承知した。第一の質問、――我を【重い】とは言わないだろうな』

 

「言わないよ。むしろ重いほうが好きだ」


 剣は重く長いほうがいい。

 少々大きくは思うが、この聖剣のようなクレイモア形状は悪くないと初見から思っていた。


『そ、そうか……第二の質問――汝の郵便物を勝手に開けたり、束縛が激しくて交友関係に制限を付ける女をどう思う?』


「なんの質問!? 聖剣関係なくない!?」


『答えろ』


「う、うーん……アリだ」


 女性経験がないため、俺は大事にされることに少し憧れがあった。


『ほ、ほう……第三の質問――男性経験がなくて、起きたとき、寝る前、出かける前などにキスをせがんだり、何をするにも一緒じゃなきゃ嫌だと騒ぎ、さらにはしょっちゅう結婚の話をする女を【重い】などと思うか?』


「マジでなんの質問なんだ……聞こえだけなら嫌ではないと思う」


 ちらりと横を見て、翼竜と戦った状態で停止している冒険者たちを視界に入れる。


 ――俺は何を話しているんだ……?


『契をかわす! 我は汝の剣となり、最高の伴侶となろう!』


「伴侶!?」


 すっと時間が動き、冒険者たちの悲鳴がまた響いた。


『あんな翼竜、私の敵じゃない。――抜いてみて。今なら抜けるはずだよ』


「マジで頼むぞ! 聖剣ロスクード!」


 台座から勢いよく引き抜くと、少々の重みが腕にかかる。

 だが振れないほどではない。


 ――行ける。勇者はこんなのも扱えなかったのか?


『あそこの人たちちょっと邪魔かな。巻き込んじゃうよ』


「なんかさっきと話し方違う……声も可愛いし。――お前ら! ちょっとそこどいてくれ!」


 聖剣の力は誰も知らない。わかるのは、その力が絶大であることだ。


『マサムネは振るだけでいいからね。私が精一杯尽くすから。――振るって違うよっ!? 恋愛のじゃないよっ!? 振らないでっ!?』


「一体何が!? とりあえず上段に構えるからな!?」


 よくわからない。よくわからないが、今はロスクードに従おう。


 俺は跳び上がり、全力で翼竜に上段から振り下ろした。

 いつもと同じようにした、はずだった。


 ドッゴォォォンッ!


 と、剣を振っただけでは鳴らないであろう音が周囲に響いた。

 振った軌跡に沿って、巨大な光の柱が伸びる。


 翼竜がいた場所からまっすぐ、山を抉り取るように地平線までが消滅していった。

 当然翼竜も巻き込まれ、その姿を地上から消した。

 

「こ、これが聖剣……!?」


 ――剣のレベルじゃなくない?

 

 黙って大惨事を眺めることしかできない。

 翼竜を放置したほうが被害は少なかったのではとすら思う。


 振り下ろした手が軽くなるのを感じ自分の手を見ると、そこにあるべき聖剣はなくなっていた。

 どこに、と焦り、周りを見てみると知らない少女が横にいた。

 

 金色の髪に、青と白のダボっとした服装の少女だ。


 ――すごい可愛い子だな。こんな子いたっけ。


 様々な状況に困惑していると、少女が抱きついてきて胸のあたりに顔をうずめた。

 

「マサムネー! ほめてほめて!」

「き、キミは誰なんだ!?」

「あ、そっか。こっちの姿でははじめましてだもんね?」


 胸から顔を上げて、少女はきょとんとした顔で言った。

 

「え、じゃあ……」

「そ、聖剣ロスクード。ロスクードは名字だから、シャノンって名前の方で呼んでねっ! 私も頑張るから、大事にしてよ? ――私のこと捨てたら、マサムネ殺しちゃうかもだよ」


 シャノンと名乗る少女は少し離れ、自分の唇に人差し指を当てながら、微笑んで言う。

 しかし、目は全く笑っていなかった。


 さっきの力が俺に向く!?

 勇者でも扱えないくらい『重い』って、こっちの意味!?

 精神的な方向かよ!?

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