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第十二章「天国へ至る道」

 ところで以前、崇拝子ちゃんが寄ったコンビニで、見事に強盗犯のこめかみに凍ったままのチキン肉を投げつけた店員を覚えておいででしょうか。

 この店員、名を山田と言い、アルバイトリーダーとして勤務している人物でした。

 常にマニュアルを基準として行動し、他の店員の指導役でもある彼ですが、実は本部の人達からは嫌われているのです。

 ある日の事です。彼が床清掃を頑張っている時でした。床をモップで濡らす事が必然となる為、この業務は基本的に来客の少ない時間を見つけて行います。その時も正に店内に人は殆どおらず、レジ内の業務は新人の店員に任せていました。

 もうすぐで清掃が終わるかというその時、静かだった店内に急に怒声があがり、少しして新人が彼を呼びました。どうやらお客様がクレームをつけてきたらしく、責任者を出せと言っているらしいのです。

 その時は店長も不在でしたので、必然的にアルバイトリーダーである彼が責任者として対応に当たりました。

 クレームの内容は次の通りでした。

「俺はタバコが欲しいのにその店員が年齢確認ができないと売れないと言いやがった。俺が未成年に見えるって言うのか。なんて失礼な奴なんだ。今回は許してやるからさっさとタバコを売りやがれ」

 どうやらこのお客様は「未成年喫煙禁止法」をご存じない方のようでした。

 まあ、未成年に見えるくらい若い方であれば、まだまだ知らない事も多いでしょう。

 未成年にタバコや酒を販売した場合「販売した側が罪に問われ」「50万円以下の罰金」や「販売免許の取り消し」等、とても重い罰則が設けられております。恐ろしい事に、購入した未成年には法的な罰則は無く、それを知っている小賢しい子供が何度もタバコを購入しようとコンビニを訪れて迷惑をかけるという事が頻発するのです。

 知らないのならば仕方がないと、山田はお客様に法律を説明した上で、年齢確認後に販売する事の徹底を全ての店員に指導している事を伝え、レジスペースの壁面に貼ってある年齢確認後の販売は行政からも指示されている事を示すポスターを見せ「運転免許など、年齢の判断できる物の提示が必要です」と毅然とした態度で言いました。店内放送や掲示物で周知義務も果たしているので、外見で成年か判断できない場合に身分証等の提示を要求する事は、失礼にあたる事でもないと言外に表しました。

 それでもお客様は納得されなかったようで「年齢確認できる物なんかいつも持ち歩いてる訳ないだろ!」と言って店を出て「そのまま車を運転して去っていき」ました。どうやらこのお客様は「道路交通法についてもよく知らない可能性」があるようでした。

 新人の店員はクレームを発生させた事に責任を感じているようで、山田に謝罪してきましたが、山田は「謝る事は無い。よくやった」と言いました。

「研修の時にも言ったと思うが、マニュアル通りに行動してそれで不備や不満が出てくるのなら、それはマニュアルを作った側の責任だ。逆に、マニュアルから外れた行動を取って、それで問題が発生しても誰も助けても守ってもくれない。上手く行った場合に時給が上がるという事もない。下らないリスクを抱えて仕事をされる方が迷惑だとさえ言える。君は今、タバコの販売免許停止になるかも知れないという危機に対して適切な行動を取ったのだ。胸を張りなさい」

 そう言って山田は床の清掃作業に戻りました。

 それからしばらくして店の電話が鳴り、スーパーバイザーから山田に話があるらしいと新人店員に呼ばれ、今度は新商品の売り場作りをしていた山田は作業を中断して応対しました。

 スーパーバイザーとはSVとも呼ばれ、チェーン店と本部を行き来して様々な連絡をしたり、規約通りに営業しているか監視したりが主な仕事の人です。殆どのSVは販売促進資材として手作りのPOP(ぽっぷ)を持ってきます。皆様もコンビニで目にした事は無いでしょうか。手書きで「揚げチキンがお得」などと書かれた垂れ幕や、ラミネート加工されたきりばり等です。そもそも正規に納品されたPOPがあるのに手作りの物を持ってくるのは、これによって店の売り上げに貢献しているのですというポーズで、場合によってはSVのPOPのせいで売り場が圧迫される事もあるので「店舗にとっては大体の場合で迷惑」なのですが、その気持ちがSVに伝わる事は無いのか、いつも笑顔で仕事をしています。

 そのSVからの電話という事で、山田は最初から憂鬱な気持ちで受話器を取りました。

 SVからの電話の内容は、例のタバコ販売時のクレームの件でした。

 どうやらあのお客様は、山田の説明に一切納得していないらしく本部に電話してきたそうなのです。そして驚くべき要求がSVから伝えられました。

「…それで、ですね。お客様はあの時の店員が頭を下げて謝罪するなら今回は許すと言っていまして、今から予定を組みますのでー」

 と、SVが言った時でした。

「馬鹿な事いってんじゃねえぞ」

 と、山田は店員の誰も聞いた事がないような恐ろしい声音で返答しました。

「おいお前ら。お前らはマニュアルになんて書いた? あ? 『外見で成年だと判断できない場合は年齢を確認できる物を提示して頂き。確認した上で販売しましょう』だ。そうだな? SVがマニュアル知らんとか言わせんぞ。で、今回その通りにしたんだよな。な? 『ありがとうございます』じゃないのか。なあ? お前らはマニュアルに従っていただきありがとうございますと言うべき立場じゃないのか。あ? なあ。どうなんだこらあ!!」

 その怒りは電話越しでも減衰する事無く伝わり、SVは生まれて初めて殺気という言葉の意味を体験で理解しました。もしこれが電話ではなく、直接話していたら本当に殺されていたかもしれないと思わせる程の怒りでした。

 山田の言葉は続きます

「もしこんな下らねえ事で一回でも店員に頭下げさせてみろ。『今後誰も年齢確認なんかしなくなる』ぞ。頭悪い馬鹿に恫喝される事も我慢してマニュアルに従った上で、それでもクレームがきたら謝罪しなきゃならねえなんて事になったら誰もマニュアルに従う意味を感じられなくなるからな。それは本部としちゃ一番困る事態なんじゃねえのか? なあ?」

「そ、そうは言っても、コンビニはお客様商売ですから…」

 なおも言い募るSV。

 山田は正義感を言葉に乗せて対抗します。

「未成年者にタバコを販売した場合の罰則は店員と店に課せられる。自分は安全圏にいながら労働者に50万の罰金やらなんやらのリスクを強いて、法律もよく知らんし理解もしない馬鹿のクレームに付き合うのがお客様商売か。お前の立場めちゃくちゃ楽勝だな。もし販売免許が停止になれば、今後はそのお客様ももう店に来る理由が消えると思うが、そうなると他のお客様も失う事に繋がるな。そのへん踏まえて、あの馬鹿に頭下げるのが合理的で正しいっていう根拠を教えてもらえるか?」

 山田はどんな時でも、実際に店で働く人間の味方を貫きました。

 こんなだから本部の人間に嫌われるのです。しかしどれだけ嫌われてもそれで彼が解雇されるという事はありません。雇用しているのはあくまで店であり、就業規則に従っている彼を解雇する正当な理由もないからです。

 結局この件は、SVが謝罪するという形で落着します。

 しかし、その後もそのお客様による店への嫌がらせは継続しました。

 時にはあからさまに未成年だと分かる手下を引き連れて店を訪れ、買い物カゴ一杯に酒を入れてレジに向かい、年齢確認されるとそのままカゴを置いて店を出ていく等の痛がらせや、他所(よそ)で購入したタバコを店の駐車場で吸い、警察に質問されると、この店で買ったのだと証言する嫌がらせをしました。山田はその度に監視カメラと売り上げのデータをもとに無罪の証明をするなど、様々な苦労をする事になります。当の未成年者たちには罰則はありません。「すみません。気のせいでした」と言って終わるのですから気楽なものです。この不良共は、極めて気楽に嫌がらせをして楽しむような品性下劣なやからなのです。山田はどんどん精神的に追い詰められていきました。

 そしてその不良共は揃って髪を金に染めていました。

 山田はもともと髪を染めるという行為に否定的な人間だったのですが、この体験を通して金髪の人間を強く嫌悪するようになりました。特に未成年はダメです。未成年で金髪の人間を見かけると強い殺意が湧き、それを抑えるので無用に気力を使う疲れた日々を過ごしていました。

 そして今日。神の声を聞いたのです。

(力が欲しいか)

 山田は即答しました。

 山田はついに正しく正義を実行する力を得たのだと歓喜しました。なにせ神からもたらされた力なのですから疑いようもありません。

「これで世界中の金髪の未成年者を成敗してやるのだああ!」

 ついに山田の頭はおかしくなってしまっていました。

 よだれを垂らし、濁った眼で最初の標的として認識し襲い掛かったのは、他と比べても一際美しい金髪を持った少女でした。

 こうして、神に認められた新たな神官戦士、山田と、元神官戦士のミーちゃんの戦いの因果が繋がったのです。


 神がやたらめったら神力を人に授けた為、その一帯はさながら戦場のようになっていました。

 世の中には不平不満を内面に溜め込んでいる人が大勢います。

 もしそれらを「力づくで解決できるだけの能力」を手に入れたなら、安易な人はやはり力づくで他人を攻撃し、それに対する反撃で闘争は拡大し、時間経過とともに収束は難しくなっていくでしょう。これが残虐超神の狙いでした。正義の心を持つ悪魔王様はこれを見過ごす事が出来ずに、人々を救済するために多くの悪魔力を消耗する筈、そうして疲れた所を叩く戦略なのです。お互いに被害が大きいので神魔での戦闘行為はなるべく避けたいのですが、相手を確実に殺せるだけ弱らせた後ならば問題ないと思っているのです。

 願いの全体把握を切り捨て、一部分だけを誇張して抜き出し、それに対しての解決能力だけを人に与えればどのように人は暴走するか、神はそのデータをトナカイ教団信者やミーちゃんから得ていたのです。これは総仕上げですらなく、まだ実験段階の手法でしたが、裏切る可能性のある九天使を始末するついでとしてならやる価値のある実験だと判断したようです。

 別次元の刺客から逃げ、キューピッド改めミセスクインと合流すべく走る三人、コメット、ダンサー、ブリクセンは、心を痛めながら街を走ります。速やかな戦力の合流の為とは言え、自分達に関わりある者のせいで人々が傷つきあうのを見過ごし続けて、平静でいられる筈がありません。

 意外にも、最も心を痛めているのはブリクセンでした。

 売れない芸能人をいかがわしい映像出演に誘導するのが主な仕事である彼ですが、勿論、芸能事務所に所属した瞬間からそのような事をしていた訳ではありません。

 彼は真剣にアイドルの卵を育成し、ゆくゆくは日本を代表するようなアーティストを輩出していこうと熱意を持って取り組んでいました。しかし、テレビというのは局の都合、スポンサーの都合、政府の都合を無視できません。

 特に政府の都合は甚大です。

 何故なら地上波放送の権利は国に握られているからです。

 報道の自由が保障されていますので、報道を行う事そのものは制限されませんが、国はいつだってテレビ局の放送免許を取り消しに出来るのです。

 一部のスタッフが真実を報道すべきだとして、局の許諾を得ないまま戦争についての貴重な証言映像を放送しただけで局から解雇されるなどというのは珍しい事件ではありません。職を失う事態となる覚悟を持ってなお正義を実行できる彼らを心より尊敬します。

 あるバラエティ番組に、ブリクセンが担当するアイドルが出演した際「外国の戦争支援が戦時国際法違反だって知らない日本人多すぎる。日本国憲法では戦争はしないって言ってるんですよ。つまり世界のあらゆる戦争に対して中立でないといけないんです。安保法とか本当に危険だって知ってほしい」と発言したのがきっかけで、所属する事務所の人間全員が仕事を干されるという事態が起きました。

 そのアイドルは「インテリもイケるイメージで売っていきたい」という意向を持っており、実際に彼女はとても知性的な人だったので、ブリクセンも賛同し、個性を伸ばしていく方針でした。収録はつつがなく終わり、責任者の方も「これくらいは言ってもいいだろう」という判断で放送もされました。でもダメだったみたいです。放送されてしばらくして「とても上層の人からクレーム」が入ったとかで、関係者全員が何かしらの負担を強いられました。

 やがて世間がその番組の事を忘れるくらい時が経ち、そのアイドルと似たような発言を流す放送が増えるようになっても、ブリクセンの事務所だけはどこの局でも仕事をもらえず、いよいよ経営破綻かという段階で、方針転換を起こし、糊口(ここう)をしのぐようになります。

 公共放送は出来なくとも、オリジナルのビデオ作品であれば彼女たちは制限なく仕事を出来ました。

 しかし職業差別という訳ではありませんが、アイドルを目指した人間、アイドルを育成しようとした人間にとって、性行為や裸体をコンテンツとして提供する仕事を喜ばしいと思えるかと言われればやはり望ましくないと言う他なく、沢山の人が業界を去る事になりました。

 やがて事務所そのものが経営を継続できなくなりましたが、ブリクセンや一部のスタッフは能力を見込まれて転所し、今も仕事を続けています。

 ブリクセンにとって芸能事務所とは、生涯をかけて全うすると誓った仕事の場であると同時に、沢山の人の心を折って立っている理不尽の塊。伏魔殿なのです。その弱り切った心で救いを見出したのがトナカイ教団でした。だから彼は教団の為に力を尽くして戦うという覚悟を持っていました。

 しかし今の街の惨状を目の当たりにし、彼は教団の目的に、残虐超神に、その神に共鳴する聖獣トナカイに、強い怒りを覚えました。

 このような事をする為に教団は活動していたのか。このような行為に自分は加担していたのか。と、悔しさがこみ上げてきます。

 その様子をみてコメットが声をかけます。

「早まるなよ。俺たちで一人か二人助けた所で事態は好転しない。今はキュー…ミセスクインに合流し、悪魔王と共闘するのが最善策だ」

 ブリクセンにもそれは分かっていました。コメットもダンサーも、その根底に正義を抱えている戦士です。自分と同じような気持ちだろうに、これで足並みを乱す事は出来ないと思っていました。

 その通り。この二人も強い怒りを抑えて走っています。

 そこかしこで人が暴れており、それを警官が警棒で殴りつけるなどして制圧しているのが見えます。ダンサーは警察が嫌いです。嫌いですが、今回のケースでは暴れている人たちが明確に違法行為を行っているのだから止める道理がありません。まさかダンサーの今後の人生において、警察を肯定する未来が訪れようとは思っていなかったので非常にストレスがかかります。他の二人に合わせてバイクをゆっくり走らせていますが、思いっきり爆走してスカッとしたい気分でした。

 コメットだけが三人の中で唯一、生身で走っていて疲れている筈でしたが、その疲れを忘れるくらいの怒りを抱えています。ドーパミン等の脳内物質が大量に分泌されて疲れを感じにくくなっているのです。

 そこかしこで怒号が聞こえます。

「私の夫は無実なのに痴漢の罪を着せられて仕事を失った!」

「パワハラで仕事を辞めざるを得なかったのに誰も助けてくれなかった!」

「何度求人してもろくでもない奴しか来ねえ!」

「息子が勉強もせずに人類滅ぼすとか言ってる。子育てキツイ!」

 等々。

 どうにも神は本当に願いを叶える人間の選別をしていないように見えました。単純に鬱憤の強さだけで判断して力を授けているようです。

 安易に人が力を持つとこんなにも狂うのかと恐怖しました。

 やはりトレーニングという形で自分自身と向き合う過程は必須だな。筋肉は嘘をつかない。自分がどの程度の人間なのかを教えてくれる。それを踏まえてどのようになりたくて、どうすればなれるのかを試行錯誤の果てに結論できるのが特にいい。彼らにも、いずれはトレーニングの素晴らしさを教えなければなるまい。と、二人とは少しだけ毛色の違う感想をコメットは持ちました。

 その時です。それぞれに気持ちを押し殺して進む三人の前方に、見覚えのある人物の姿が現れました。ミーちゃんです。

 何やら戦っている様子で、攻められては引き、攻めては押し返され、少しずつ三人に近づいてきます。相手は剣を持っており、ミーちゃんは徒手(としゅ)格闘術で応戦していました。トナカイ九天使とは違い、ミーちゃんだけは神魔戦争に関わらせない事が前提となっていましたので、悪魔契約に切り替わっていなかったのです。神は既にミーちゃんを見失っておりましたが、その神の祝福を受けた人間には普通に視認されてしまい、それでこんなにも早く戦う羽目になるのですから凄い運ですね。色々な意味で。

 勿論神の戦士も、神から命令されてミーちゃんを攻撃している訳ではありません。偶然にも金髪の人間に恨みを抱いている人間が、偶然にもミーちゃんを標的にしただけです。

 ミーちゃんは神の力を十全に振るう為にコメットからトレーニングの指導を受け、トナカイ教団式の格闘術「トナカイ聖拳」を身に着けていましたが、剣道三倍段と言われます通り、柄物を持った相手と素手で戦うには三倍の実力が必要です。僅かに実力が足りないらしく、ミーちゃんは追い込まれていました。

 ミーちゃんも三人に気づいて声をかけました。

「あら、ごきげんよう。あなた達。こんな所で偶然ね」

「いや、こんな状況でよくもまあ『歴戦の実力者が戦場で再開した』みたいなノリで挨拶できるな。感心するぜ」

「戦場なのは事実よ」

「実力者なのもな」

「こんな状況だ。戦力の合流は嬉しいね。悪魔王には困った事だろうけど」

「ところでこれはどういう経緯でこうなっているの?」

「推論だが、信仰を失いかけた俺達を神が始末しようとしている。これが状況その一だ。二つ目は、新たに悪魔王を殺す戦力を拡充する為に、一と並行して神官戦士の大量生産を行ったのだろう。別次元の俺達を召喚した事と、人々にいい加減に神力を授けているのは直接繋がってはいない。あくまで別々の作戦を同時に行ったのだろうな」

「なるほど。迷惑な話。ね!」

 ね。と言うのと同時に呼気を伴った正拳突きが山田の胸に当たり、大きく距離を取れます。

 山田は反撃する様子を見せつつも、新たに現れた敵らしい三人に対してとまどっているようでした。

 四人は小声で相談します。

「ミーちゃん。オレのバイクに乗れ。このまま他のメンバーと合流して、反撃の下地を作る。戦力は多いほうが良い」

「うーん、でも何か逃げるのってかっこよくないなあ」

「悪魔王とも合流するから崇拝子と共に戦えるぞ」

「何をしているの。早くいきましょう!」

()っや!?」

 ミーちゃんはお姉ちゃんが大好きなのです。

 悪魔王様としてはミーちゃんを巻き込みたくない筈ですが、このまま一人にするより余程安全と言えます。きっとお許しになるでしょう。

 かくして一行は全力で加速し、あっという間に山田から遠ざかります。

 しかしブリクセンだけが少し発進を遅らせてその場に残りました。

 彼は神官戦士山田に向かい言葉を放ちます。それは山田への語り掛けであると同時に、神へ語り掛ける行為でした。

「…きっと君にも沢山の不満があったのだろうね。神にすがる程に。きっと誰にも助けてもらえなかった。分かるよ。僕もそうだった。神にすがってでも成したい何かがきっとあったのだろう。僕もだよ。『あの娘たち』が危険に晒されないように。不平不満だらけでも、それでも懸命に業界で戦っていこうという『あの娘たち』の、せめて身の安全くらいは守ってやれるように、この力を望んだ。でもこの力を得て戦って、その挙句が今だ。…うまく言えないけど。きっと戦う以外の発想が必要だったんじゃないかな。今ではそう思う。…神よ。願わくば、これ以上誰も傷つくことなく戦いを終わらせて下さい。これが、僕が神に望む最後の事です」

 正気を失った山田にはブリクセンの言っている事の半分も意味が分らないようでした。

 ブリクセンは勢いよく飛びあがりダンサーたちを追いかけます。

 ブリクセンの噴射音を追いかけて、山田も走り出しました。

 空中に描かれたその噴射の後は、飛行機雲のように長くとどまりはしませんでしたが、なんとなく、山田を新しいどこかへ連れて行ってくれるような、道のような物に見えました。


 一方その頃。

 崇拝子ちゃんと悪魔王様を襲った人達ですが、これが雑魚かと思いきや、意外としぶとくねばる者がいて、更に後から加わる者もいて、お二方の進行を妨げていました。その数は17。見た目はただの一般人のようですが、この人数で九天使並みの戦功を上げている事を考えると驚異的と言えました。これにより崇拝子ちゃんと悪魔王様は思うようにミセスクインと合流できなかったのです。

 彼ら17人のまとめ役のような印象をもった男が、一段高い所から悪魔王様に言いました。

「ふははは。どうした悪魔王。悪魔の王ともあろう者が、ただの人間を相手に随分と手こずるじゃないか。あれか? 死なないように気遣って戦っていると、そういう言い訳でも始めるか? ふははは!」

「むう。これはまた絵に描いたように分かりやすく増長しておるな」

「あちき、あいつ嫌いですにゃ」

「名乗らせて頂こう。我ら、神の福音を世に広める使命を授かりし者!」

「なにぃ!? 神の福音を世に広める。だ、と」

 悪魔王様は驚きました。この次元において、そのように恐ろしい団体があり、それを悪魔王様がご存じないという事は、それほどの情報隠蔽能力を彼らが有しているという事だからです。油断ならない敵だと思いました。

「我ら! 三次元を守護する神の戦士。スリー・ディメンション・ガードナーズ。『S・D・G・(エスディジーズ)』だ!」

 ……。

「……」

「……」

 悪魔王様も崇拝子ちゃんもしばらく声を出せませんでした。

 やがて悪魔王様が絞り出すように言葉を紡ぎ、最後には叫びとなりました。

「スリーだったらスペルは『T(Three)』だろうがあああああああああああ!!」

「やかましい。悪魔の言う事など聞くものか! 我らは天国へ至る道を説く者! 悪魔王。貴様はここで滅びるのだ!」


 いよいよ神の隠し玉が登場しました。果たしてSDGSの実力とは? ミーちゃん達は無事に合流できるのか。次回をお待ちください。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 今回の冒頭のお話、かなり思い入れがあると見ました。自分も接客をしているのですが、このお話には感銘をうけました。頑張ってください! [一言] 今回のお話はこの世の不条理を描けている秀逸な作品…
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