オープニング
お待たせしました。新シリーズを発表します。前作は「日本が舞台ではなかった」ですが、今回は明確に日本が舞台です。どうも私、一作書き上げてから発表よりも、一話書き上げる毎に発表のほうが合っているようなのでそのスタイルで進めます。次話を気長にお待ちください。
「それじゃあ! 明日も元気にぃぃぃぃ、悪魔崇拝にゃー!」
猫耳をぴょこぴょこ、尻尾をふりふり、女の子が笑顔で拳をつきあげる様子を思い出し、ふと、これはどんな時の思い出だったろうと少女は考えました。
ああ、そうだ。思い出した。お姉ちゃんが好きだったアニメ。ドジな女の子が失敗にもめげずに苦労を乗り越えていくお話だった。お姉ちゃんはそれが大好きで、私はあんまり興味なかったけど、お姉ちゃんが私も一緒に見ると喜んでくれるから、それでいつも一緒に見ていたんだ。と、疑問が解け、それにしても自分はなぜこんな時にこんな事を思い出しているのだろうと新たな疑問を抱き、少女はなんだかおかしくなって、心の中だけで苦笑しました。
苦笑しながらも、彼女は可能性の一つとして、これは走馬灯のようなものの一種なのではと思いました。危機的状況化において、人間の持つ本能が脳内のデータベースを隅から隅までさらって、その危機を打開する為の情報を検索するが故の現象なのでは、と。
なにせ今自分は、壮大で強大な敵を前に、絶体絶命の大ピンチなのだからと。
そう思ったのです。
昔々ある所に、とても美しい金髪の女の子がおりました。
女の子はその時震えており、大切な姉妹を、圧倒的な脅威から守る事の出来ない自分が情けなく、そしてその脅威を強く憎んでおりました。
彼女はか細い声で言います。
「誰か助けて。お願い。誰か助けてよう…」
ほんの少し前までは、きっと何とかなる。必ず助かる。そう思っていましたが、時が経つほどにその自信は失われていき、ついに泣き出す手前まで追い詰められておりました。
彼女は無力でした。彼女はそれを痛感しました。力では男に勝てず、知恵も大人に及ばず、病気に強い訳でもなく、器用な訳でもなく、これといった特技がある訳でもなく、人から好かれている訳でもなく、注目されるような立場にいる訳でもない、自分の手元にある全てを総動員しても、家族一人を守る事も出来ない、そして、恐らくこのまま自分は殺されてしまうという事を想像して、ただただ「力が欲しい」と願いました。
もうすぐだ。もうすぐあのおぞましいものが私たちを襲う。
もうだめだ。と、そう観念しようとした時です。
(力が欲しいか)
その声は女の子の心に直接聞こえました。
まるで頭の中に響いてくるような、空気を震わせない声が聞こえたのです。
(答えるがいい。力が欲しいか。ならばくれてやろう。契約を交わせ。さすれば汝には、あらゆる難敵を討ち滅ぼす力が与えられる)
「…それで『あれ』を何とか出来るの?」
(無論である。さあ望むがいい。剣か、槍か、汝がこれと思う物を思い浮かべるがいい。それにはあのおぞましいものを滅ぼす力が備わっている。世界を脅かすあの敵を滅ぼす力が)
女の子は決意します。
震える足に無理やり力を込めて立ち、呼吸のしすぎで痛い背中を伸ばして前を見据えます。
周囲は暗黒の渦とでも表現すべきおどろおどろしい様子になっていました。
今この場は「神と悪魔」の戦いによる力の衝突で空間が歪んでしまっているのです。
先程までいた町は消え去り、人の気配も消え去りました。風景画のはしから黒い絵の具をハケで塗って潰したような消え方をしたように記憶していますが、あまりにも突然の事で本当にそんな見え方だったかも、もう自信がありません。
自分達だけがこの騒動の中で生き残っている事に、生きていられて安堵すべきなのか、孤立している事に恐怖すべきなのか、女の子にはわかりません。
女の子は契約の意思を示し、武器を手元に顕現させました。
「必ず、助ける」
ひゅ、という小さい音を発しながらの涙声。
しかし、これほどに決意を感じる声を聴いた事のある人は稀なのではないでしょうか。
その武器は威力を発し、結論として、女の子が守ろうとした最後の一人は守られました。
しかし、この日を境に、彼女は長い旅を始める事になるのです。
その女の子が危機に陥るよりも少し前のお話です。
13次元で勃発した、後に神魔戦争と呼ばれる戦いは、一進一退の攻防を繰り返し、ついに下位の次元にまで影響を及ぼす事となりました。
時に悪魔が勝ち、時に神が取り返す、苛烈なる領土の奪い合いはいつまでも収まる気配を見せず、12,11,と戦況は拮抗したまま低次元に戦果を拡大し、ついに、その主戦場は3次元へと移行したのです。