正当性無根な蒙昧による殺戮への抗議小説
20XX年。
I国。
メタリックな景色が燦然と輝く景色の中、《カミエルシ・エウマ・スンギ》の名で呼ばれる存在。
そう、君達は生まれた。
君達はすくすくと育っていく過程で人々の尊敬を勝ち取り、それはやがて神の名を冠する程の物へと膨張した。
ある者は言った。
「人から向けられる尊敬や羨望、そして好意。それらの物が可視化され、数値として表れるようになったこの世界で、それだけの数値を稼げるというのは、相応に努力した結果であろう」
まさにその通りである。
事実、君達はより強い力を得る為、『神』と呼ばれても尚激しく己の研磨を続け、身を削り続けていた事を私は知っている。
私の住む地域に流れる美しい白金色の砂塵というのは君達のその身の一部であり、それはある夢を追っている証という事も当然知っている。
その白金色の思索の浮力に乗り、我々を天高くへと誘い、自らと我々の次元を昇華させる事を夢見ているのだろう。
そんな中、突如として現れた怪獣、《フェイク・フェイミ》の瘴気に撒かれた君達は次々病に臥し、倒れる事になった。
とても酷な話だ。
言う間でも無く、周囲の人々や政府は激しく憤慨し、フェイク・フェイミに対し、爆撃を行った。
無論、奴らには効かず、勢いは削がれぬまま。
奴らは剥き出しの黒ずんだ骨、汚濁した血、穢れに穢れた臓物に秘める、蒙昧なる炎の熱をその身に帯び、一切の攻撃を遮断し、地の果てで蠢き続けた。
やがて、奴らの本質に気付いた者が現れ、口々にこう言い出す。
「化け物には化け物をぶつけてみてはどうか」
と。
その時私は言った。
「さだ○や理論やめーや」
しかし、その言葉が的を射ている言葉である事に、その場に居合す誰もが気付いた。
無論、私も含めた誰もが、だ。
結果、奴らの本質はその化け物じみたその熱量。そのせいでマトモな攻撃は悉く通じないのは有名な話。
ならば同程度の武器を持つ者同士で争わせ、膠着させれば良いではないかという話になり、
こうして我々はさだ○や理論に倣い、行動する事となった。
しかし、そのような化け物など、古い神話にしか登場する筈もなく、どうしたものかと思案に暮れていると、古の時代の書物に“化け物を召喚する為の魔術の詠唱法”が記されていた事を思い出した。
これで次のステップに進める。
しかし、ここで迂闊にこれに手を出して良い物か。綿密に計画を練った上で行動するべきではないのか。
我々は、適材適所という言葉を知っていた為に、その場に居る者の中から召喚役、捕獲役、誘導役を選出した。
そして、来たる召喚の時。
誉れ高い召喚役は、フェイク・フェイニの瘴気をその身に浴びても朽ちる事無く、一族に伝わる必殺【ヴー・ロック】で応戦し、最後まで戦い続けた男、《スールスキノレ・タッカイネ》。
「右も左もジジババばっかじゃねえか!」
彼の口から言葉が放たれたその言葉が世界に何度も反響する。
その度に大きな物となり、末路、この世界を滅ぼす雷鳴のように繰り返し轟いた。
やがて空から二人の年老いた痩せぎすの大男を呼び寄せた。
彼は神話上の化け物を呼び出す事に成功したのだ。
即座にスールスキノレ・タッカイネは必殺【ヴー・ロック】を用い、自らの安全を確保した上でその場から離れ去って行った。
中空に浮かび、荒ぶる老人達は、周囲の景色をまるっきり青磁色に変えた上、我々に対し、交互に言葉の砲撃を放ち、襲いかかってきた。
「北のチョセンはジャポーネです! カノコク人死すべし! カノコクの旗を燃やせ! チョセガッコ爆発!」
「このキャベツ野郎が! ヤフクミに放火だ! ニポーンはゴミ! 朝焼けのフレッグを燃やせ! 地に立つはレッドフレッグ!」
悪神の如く激しく争い、暴れ狂うその姿。
青磁色の空にて互角の勝負を展開する彼らはそれぞれ、《ネシト・ウコタ》、《ネシト・サコタ》と呼ばれている。
この両者はI国に伝わる神話によれば、I国の空の彼方で争い続け、度々地上に嵐を引き起こす存在であり、詰まるところはその場に行きつかねばお目にかかれない存在である。
まさか彼らが実在するとは思っていなかった我々は、我々の一族に伝わる秘術【フクリーノ・ショット】でその珍妙な姿の資料を得た後、捕獲役兼誘導役にその場を任せたまま、目的であるフェイク・フェイミの巣へと辿り着いた。
周囲一帯の展望を貪欲に奪うその瘴気が覆うその土地に足を踏み入れた途端、度重なる金属音にも似た怒声が我々の耳を激しく襲いかかる。
「味噌! 味噌! この味噌! フェイミー・ブーメラン!」
「フ○ミ○○トのキ○○アイです」
「男は敵! 私は売れ残りじゃない!」
「うおおおお! セーテキ・サクシュ! セーテキ・サクシュ!」
奴らが近い事を直感し、進行する事を一旦止め、捕獲役兼誘導枠を待つ。
数時間程経ち、我々の内の数名がダウンし、何名かを運び出した頃、残った者達の背後から、木製の荷車を引っ張るような音が聞こえる。
彼だ。きっと彼に違いない。
捕獲役兼誘導役が我々と合流したのだ。
欣喜雀躍する我々の背後には、秘技【ツホーウ・ロッタ・アカワソト】にて黙らせたネシタ・ウコタとネシタ・サコタのリードを引っ張る怪力の幼児、《トゥイータ・ウノエーイ》の姿が。
トゥイータ・ウノエーイは得意げに闊歩し、威張り散らすかのようなしたり顔で荷車を引っ張り、凍てつく彼らを我々の最後尾から五歩分離れた箇所に安置した。
そして我々に対し、合図を送り、沈静化した彼らのリードを放し、彼らの腑に火を放ち、再び情念の堰を切らせた。
刹那、再び空に舞い上がり、青磁色の世界を展開し、両者殴り合いを始める。
それを見るや、フェイク・フェイニは何事かと怒り出し、空に向かって不快な金属音を放ち、彼らを威嚇する。
末路は雁字搦めの怪獣大決戦。
やがて争いはピークに達し、もはや常人には耐えられない程の共感性羞恥の酸を撒き散らす化け物達に恐れ慄いた我々は、疾くその場を離れた。
故に事の顛末は知らない。
しかし、確かな事はある。
それは、このI国からエゴに満ちた極端な主張という物が減り、皆恥じらう事無くそれぞれの楽しみに興じる事が出来るような、平和な場所になったという事だ。
何故だか知らないが、同じく問題視されていた怪人、《キョーヨ・ビビガーン》も奴らの血の香りを嗅ぎつけたのか、その永遠の戦いに身を投じ、以降その場所に近寄った者にしか目撃される事は無くなった。
お陰様で亜種族の、《フツー・ゼンリョー・ビビガーン》が「何事も強要はいけないよ」と説教する必要性はこれで無くなった。
病に臥していたカミエルシ・エウマ・スンギ。
君達もやがて回復、そして回帰した。
ああ、どれだけこの時を待ち侘びた物か…。
おっと、すまない、君達の描く絵を好いていたから出てしまったが故の愚痴だ。
ん? なになに? ずっと休んでしまってすまないだって?
いやいや、そういう意味で言ったんじゃないよ。君達が休んでいた原因はフェイク・フェミニという悲しい化け物の理不尽な暴力だろう? 君達は何も悪くないじゃないか。
大体ね、休む事は悪い事じゃないんだぞ。
全く、辛い時に休んで謝るなんて、典型的な日本人の悪いところだな。
むしろ休め。
休む事もまた、己の身を研ぐ意思となり、君達や、我々の次元の昇華に繋がるのだ。
では、話すべき事も話したし、そろそろ失礼するよ。
部屋の外で君達の為に押し掛けてきたたくさんのドナーが待っているんだ。
さて、まずは彼らを整列させるところから始めなければ。