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その情(こころ)  作者: シーラ
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1-7 ミクル(2024.9.12修正)


塾に通い始めて半年が経った。


最初は王の子だからと関わって良いのかわからなかったカムイは、おおらかな性格だった。ガチガチに緊張してる私達に、産まれがそうだっただけで同じ地族同士だと笑い飛ばしてこちらに手を伸ばした姿。今でも鮮やかに印象に残っている。王の素質たる性格だ。

ゴロウはとても大人しい性格で、鍛え直すよう兵士である両親から入塾を勧められたらしく。分け隔てなく誰にでも親切で、よく愚痴を聞いてもらっている。

カナという少女は、父が兵士だが母の実家が牧場という事で、気が合う。恋愛話に花を咲かせたり、お洒落したり。何でも話す仲だ。


そして、レイク。落ちこぼれだったと聞いていたが、それは教えていた側の問題だったのがわかった。

基礎を一からしっかり教えると直ぐ応用が効き、数式は誰よりも早く解いてしまうようになった。是非牧場の経理に来て欲しい。

性格も明るく素直で、本を読むのが趣味になってからは博識になり、話していると楽しくて直ぐ時間が経ってしまう。

そして一番驚いたのは。小さな体なので戦闘訓練は不参加かと思いきや、相手の力を利用し秘孔を攻撃する体術を学んでいるそうだ。ラックと以前、腕相撲でやられた事もその応用だという。

私は基礎体力が高い為、武器と体術を併用した戦闘が向いているとラックに言われた。彼の実際訓練が始まるととても面白く、自分によく合っているのが実感できた。今まで知らなかった知識や力を学ぶのが、これ程に楽しいとは。ラックの教鞭が上手いからだろう。


今日は朝の牧場作業が早く終わったので、いつもより早めに教室に行ってみた。いつ行っても、レイクが一番乗りしているから何をしているのか気になる。彼女について知らない事だらけだ。

塾に着いて、そっと外窓から中の様子を見ると。レイクがハタキを片手に掃除をしている。

いつも綺麗だと思っていたが、彼女がしてくれていたのか。

椅子に乗って爪先立ちになり棚を掃除する姿が危なっかしくて、つい声をかけそうになるが。もう少し様子をみよう。


『フワフワたっぷりクリームは

夢の中なら雲になる

クレープお月様にちょこんと乗せて

キラキラお星様チョコをパラパラと

くるっとまいたら

クルクルクレープの出来上がり』


クレープを知らないと言うから、先週連れて行った。とても美味しかったようで、乳を飲む子ウシのように必死に食べる姿が可愛いかったな。

歌まで作ってしまう程甘い物が気に入ったようだから、今度はワッフル屋に連れて行ってみよう。


「はあっ!?ミクルちゃん…聞いてたの?」


出窓にいる私にようやく気付いたらようで、慌ててハタキで顔の前を隠す。行動が幼く妹ができた気分だ。コロコロと変わる表情が面白い。


「聞いてた。面白い歌だと思うよ。」


「みんなには秘密だよ。あと、おはよう。」


はにかんだ笑みを浮かべる姿。自分に気を許してくれている実感があり、とても嬉しい。

白族はどんな人達か最初は不安だったが、こうして触れ合う内に、レイクは魅力ある子だと思った。これからも、ずっと仲良くしたい。


ーーー


1年というのはあっという間に過ぎていく。

ただ武器を振るうのではなく、体の軸を使い力を増幅させる技術を使うようになってからは、疲労が格段に減った。

基礎訓練や一人一人に見合った方法をラックが教えているおかげだ。最初は胡散臭いと思っていたけれど、とても良い教師だと思う。


私は戦う才能があり、塾生の中で男性を差し置いて一番強くなった。

牧場ではなく兵士か騎士見習いにならないかとカムイから直々に声がかかり、家族と相談したら2つ返事で兵士になる事が決定された。


私以外の塾生も才能をラックによって引き出され、卒業後はそれらを生かした仕事に就く事になった。レイクはラックの研究の補佐で、城内の仕事に就く。卒業後も会いやすい環境になるのが嬉しい。


「そういえば、この前さ。公衆浴場でラック先生が番頭さんと話してるのを見たよ。地族しか入れないのに何でいたんだろうな。」


ゴロウがハンカチに、可愛いウサギの刺繍を施しながら話し出した。妹用だという。ゴロウに針仕事も教えたラックは、苦手な分野があるのだろうか。


「いつも家で一緒に湯浴みしてるから、何か相談されて行ったんじゃない?

私も公衆浴場使った事無いから、行ってみたいな。おっきなお風呂、気持ちよさそう。」 


レイクの言葉にゴロウの手がピタリと止まった。寧ろ教室内の空気が固まった。私も固まる。その場が凍り付いた。


「……え?えっ?レイクちゃん、何だって?先生と一緒にお風呂入ってるの?」


「ん?地族では一緒に浴場で洗いっこするのが普通なんでしょ?」


おいマジかよと、カムイの顔も引きつる。私も何と言うべきか、困っている。


親と一緒に風呂に入るなんて遅くて5歳位までだ。公衆浴場なら別だが、それでも男女分かれて入るのが普通だ。しかも洗いっこって。どこを洗いっこしているんだ!?


「でも、兄さん知らなかったとか。ほら、地族の文化を取り入れてただけだったり。」


必死に弁明するレイク。兄の性癖をまだ信じられない、いや信じたくないのだろう。

皆から色々質問され、次第にその行為がおかしいと知り、涙目になったレイク。哀れに思ったカナが抱きしめた。


「あんの、くそ教師。」


「おはよう。今日は野外演習場を借りられたよ…どうした?皆、なんて顔してるんだ?」


問題の人が何も知らず教室に入ってくる。皆の冷たい視線を感じたのか、眉を顰め不審な顔をする。誰のせいだ。


「ラック先生、レイクちゃんとお風呂入ってるって本当ですか?」


「兄さんちがうよね?知らなかっただけだよね?」


カナに抱きしめられたレイクの顔を見てラックは、全てを悟ったようだ。


「あ…え、と。」


こいつ、知ってて一緒に入ってたのか。全員汚い物を見る目になっていく。


「勘違いしてもらっては困る。確かに一緒に入ってるが如何わしい事は一切してない。レイクの髪の毛の手入れをしているだけだ。

それに、将来俺の妻になるんだから触れ合ったって良いだろ。俺は至って健全だ!なあ、そうだろ?…レイク?」


「ひっ……そんな話、知らないっ!」


視線を向けられレイクが悲鳴をあげる。予想と違った反応に困っているラックに、その場の全員が思った。コイツ、ヤバい奴だ。


族長から妹として同行するよう言われ、自分も兄と慕っていた男性がまさかの変態だったのだ。レイクはそれはそれは怯えた。


私は汚物を見る目で、ラックの前に立つ。


「この変態公爵!」


ラックはその日1日かけて、生徒全員に弁明する事になった。結局、変態公爵なのが判明しただけだった。















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