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その情(こころ)  作者: シーラ
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1-6 ミクル(2024.9.12修正)


私の仕事は総合職と言って良いだろう。


地族の軍は戦士長が1人に補佐が5人、隊長が100人に副隊長が300人、その下に一般兵の構成だ。

軍の隊長という肩書があり、国境警備の仕事もあるが。猛獣が田畑を荒らせば駆除に出向き、未開の洞窟が発見されれば探索に行く方が多い。

危険が伴う仕事はとてもやりがいがあり、充実した日々を送っている。人を殺める仕事が少ないのは平和の証だ。


今年は入隊試験の監督を一任されている。城壁の監視塔にて歯ごたえのある奴はいないか品定めをしようと、今は軍の顧問兼、騎士団の相談役となったラックに声をかけた。

地族と比べると細身だが鍛え抜かれた肉体、強く凛々しい顔に頭もキレる。10年程前から若者が目指す強い男の一人となったこの男、外面だけは無駄に良いが、一部の人間のみ知る中身はかなり破綻している。


監視塔に向かう途中も、見た感じは冷静沈着だ。その姿に待機している部下達は、羨望の眼差しで見つめている。

でも私にはわかる。頭の中では外泊したレイクの事でいっぱいだろう。昔から変わらない。


ーーー


地族の5割は農林水産業に就く。

中でも一番危険な鉄鉱山はとても人気で、事務作業に就く者でも、休日は鉱山に手伝いに行くのが趣味という者も多い。

男女共に体を動かす事が美徳とされている為、胸筋がある女性は美の象徴、背中の筋肉が模様のように筋張っている男性は力の象徴と言われいる。


私の親は広大な牧場を経営しており、獰猛なウシを片手で締め上げる力を持つ。

私も幼い頃から放牧された動物達を追いかけまわす程には、体力に恵まれていた。なので自然な流れで、学校を卒業してから兄弟と同じく牧場で働いていた。


その日は17歳の誕生日だった。王都全域で人気になっている本『小さな妖精さん』を買いに行った時の事、本の間からパラリと紙が一枚こぼれ落ちた。拾い上げると、広告のようだ。


『第一期、白族の教える個人塾。特待生制度有り。』


凄く胡散臭い内容だったが、印が王の検閲済みの物なので、本物なのだろう。

白族といえば、たまに王都で見かける全体的に白色の男性だろう。いつも、よく目立っていた。少し興味が出てくる。

よく読むと、今日まで入塾見学会が開かれているらしい。覗いてみるとしよう。


記載されている塾の場所は、城下町から外れにある小さな集会所だった。こんな所で何を教えるつもりなのだろう。窓から中をそっと確認してみると、机と椅子が数個並べてあるだけだった。誰もいない。


「入塾に来てくれたのかな?」


背後から声がかかり振り向くと、例の白族の男性が立っていた。体格は自分とそんなに変わりなく、歳は自分より少し上といった所だろうか。肌や髪の色のせいか、同じ人ではあるが別の生き物のように感じる。


「いや、私は…。」


「そうか、違うのか。すまないね。」


無表情ではあるが、あからさまに落ち込んでいる様子に気の毒になってくる。話を聞くくらいなら良いか。何かあれば殴って逃げれば良い。


「本に挟んであった紙を見て、見学に来ました。」


ーーー


教室に案内され、入塾説明を聞かされる。

要約すると。このラックという男性は、地族の若者の見聞を広める為、他族が教える塾を開講するらしい。

街にも入塾紹介の張り紙を出したかったそうだが、どこも断られ。唯一、妖精さんシリーズの本に挟む事だけは許可されたそうだ。挟むのを許可した作者は懐が深いな。私なら、得体の知れない他人からの頼みなんて断る。


「君もどうかな?」


「アンタは強いんですか?それによります。」


「試して良いよ。」


机の上に腕を出される。腕相撲勝負を挑まれているようだ。

体格も腕の太さもほぼ同じだが、日頃鍛え牧場で働く私は勝つ自信しかなかった。どうせ、口だけだろうと。


可笑しな事に、手を掴み合うとラックは自分は一切動かないから好きにして良いと言う。

それなら先手必勝と、手首を折ってやる勢いで力を入れたが、なんと1ミリも動かないのだ。微動だにしない。

こんな事あってたまるかと、反則だが机を空いている方の手で持ち、全身の力をかけてみるが動かない。鉄の塊を相手にしているようだ。ラックは涼しい顔をしている。


「もう終わりか?」


ぐぐっとゆっくり手を倒されていく。必死に抵抗したが、机に手をつかされてしまった。


「何なんですか、今の。」


「君の力を利用しただけだ。こういった技術を教えていく。実践的だろ?まだ他にも試したいかな?」


もう充分だ。こんな力は初めてだ。猛獣が牧場を襲い被害が出た際、兵士の人達に駆除してもらっているが。彼らより確実に強いのがわかる。

この力が手に入れば、被害が拡大する前に自分で対処できるようになる。この力が欲しい。


「授業料ってどれくらいなんですか?」


「国からの補助があるから無料だよ。教えを乞う者を無下にするつもりはない。家族と相談してみてくれ。」


概要が載った書類を渡されて、帰路に着く。本を買いに行っただけが、こんな面白い事に遭遇するなんて。良い誕生日になった。


両親に塾の話をすると、あの粗暴公爵の元で勉強するのかと驚かれた。ラックはそうとう有名人なようだ。

今日の出来事を話すと、王の監視の元だという事で安全だろうと、より逞しい女性になりたいならと即決された。理解力のある両親でよかった。でも、本当は授業料が無料なのが一番大きかった。


ーーー


塾初日、集まった生徒を見て驚きを隠せなかった。


祝典でしか見た事は無いが、カムイ王子がこんな小さな教室に居るのだ。失礼にならない程度に再度確認するが、間違いない。烏の濡羽のような黒髪に深い黒目。まだ発達途中の体は私と同じ位だろう。

他2人もほぼ同じ歳で、後に長い付き合いとなるカナとゴロウ。親が兵士として働いている。牧場勤務なのは私だけ。場所を間違えたかもしれない。


そして、この中で一番に目をひいたのは。カムイの隣に座る、アクアマリンの瞳が輝く幼女。本で読んだ白い妖精のような儚さと美しさに、目が奪われた。この子も白族なのは間違いない。目が合うと軽く頭を下げられる。見すぎていたようだ。


「おはよう。」


何ともいえない空気の中、教材であろう様々な本と用具を抱えたラックが入ってくる。爽やかな微笑みを貼り付けたような顔だ。本心を出していないかのようで、違和感がある。


「今日からこの塾で皆を教える事になったラックだ。気軽に先生と呼んでくれ。」


「先生、何でこんなちっさい子供がここにいるんですか?」


「うん、確かに。危ないよ。」


誰とも無しに声が上がった。とても浮いているのは確かだ。うっかりしたら蹴ってしまいそうな程に幼い子供。もしかしたら、学業面で優秀だとか?

カムイ王子は特に興味は無さそうに、1人教科書を捲っている。何か知っていそうだ。


「レイクの事か?カムイと同じ16歳だよ。私の妹だ。宜しくしてやってくれ。」


『『えっ!?』』


疑問を持っていた生徒達の声が重なる。

何か病気なのか、体質なのか。地族でいう2歳児程の華奢なこの幼女がほぼ同じ歳だと言うのだ。信じられない。


「レイクと申します。皆さん、宜しくお願い致します。」


椅子から飛び降りるように立ち上がり、ちょこんとお辞儀をする姿に妖精が重なった。これは、可愛い。白族に興味が湧いてきた。


「じゃあさ、先生は何歳?」


「私?68歳だ。」


2度目の衝撃が教室内を襲った。









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