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その情(こころ)  作者: シーラ
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1-4 ラック(2024.9.12修正)


扉が叩かれ、兵からレイクを連れてきたと声がかかる。急いで扉に向かうが、一旦冷静になろう。一呼吸して気持ちを落ち着けてから、扉を開く。そこには、兵士に連れられたレイクが不安な様子で立っていた。


心配させて申し訳なく思っているのだろう。こうして無事を確認できて良かった。彼女を抱きしめ、髪に顔を埋める。 

レイクの優しい温もりに、今ここにいるのだと再確認できた。無事で安心した。


「兄さん、心配かけてごめんなさい。私…」


「いいんだよ。レイクが無事なら。」


「兄さんみたいに強くなりたいの。だから、私は。」


「何も言わなくて良いよ。わかってる。俺の為になんだろ?嬉しいよ。

でも、無茶はしないでくれ。レイクに何かあったら生きていけない。」


謝罪の言葉を述べるレイクが、心から愛しい。髪を撫で、頬に触れるとこちらを見上げてくる。眉を下げて反省している姿も可愛い。


「私がいるのを忘れないでくれる?」


「ミクルちゃん、兄を諫めてくれてたんでしょ?ありがとうございました。」


「いいのよ。貴女の所に飛んで行きそうになったから、沢山雑務押しつけてやっただけよ。勿論、カムイも一緒にね。」


「本当に人使いが荒い女性になったな。俺の可愛いレイクとは大違いだ。」


「ラック先生、言葉が崩れているよ。」


ミクルに指摘され、気が緩んでいた事に気付く。今は軍の仕事中。咳払いし、レイクの腰に手を回す。


「私の仕事は終わりました。レイクと本日は休息を取ろうと思いますので、絶対に人を寄越さないで下さいね。絶対です。わかりましたか?」


「はいはい、畏まりましたよ。ラック先生、程々にしてあげて下さいね。レイクは明日も忙しいんですから。」


ミクルに茶化されながら、レイクを引き連れ監視塔を後にする。彼女が俺達の動向に口出しし始めたのは、いつからだろう。余計なお世話だ。


ーーー


地族は絢爛豪華な物を嫌うので、城の造りも全て簡素だ。そんな無駄な事に費用を使うなら、農機具や掘削機材に財源を充てている。


白族は王の客という事で、城の隣りに建てられた軍上層部専用の宿泊所の1室を特別に与えられている。簡単な造りになっていて、水回りも整えられており、生活には困ら無い。

軍部と同じ宿舎なので、緊急招集の時に一緒に来てくれと呼び出しを受けるのだけは難点だ。


特にミクルは最近、用事も無いのに部屋に来る。正直言えば、レイクと2人きりで居たいので邪魔だ。

隊長に成り立ての頃は一切顔を見せなかったのに、心境に変化があったのだろうか。


レイクを部屋に連れ込みドアを閉めると、再び抱きしめる。彼女の甘くて優しい香りで胸が満たされる。やっと二人きりになれた。


「本当に心配したんだ。」


「本当にごめんなさい。」


「レレは強くなったよ。俺が言うから本当だ。でも、実戦するなら一人ではまだ経験不足だ。

クマ相手に苦戦したんだから、言わなくてもわかるな?

村の自警団に入っていて志願兵とはいえ、一般人も巻き込んだ。彼に何かあれば族間の問題になる。

次は俺が援護するから、一緒に行こう。わかったか?」


「‥‥わかった。ごめんなさい。」


反省している姿が心にぐっとくる。顔が緩みそうになるのを自制心でこらえた。

自分のしでかした事は充分反省しているだろう。責任持って補助術で護衛し、城まで連れてきたのだから、責めるのではなく今後の事を話した方が良いだろう。


「おいで」


ソファーに座り、後ろ向きでレイクを膝に乗せる。この温もりが消えてしまっていたらと思うと、背筋が凍る。


良い歳した大人だから、少しは手を離せと地族の人々は言うが、白族から見ればまだ少女だ。自分の保護下に置いておくべき愛しい存在。

地族の領土では兄と呼ばせているが、将来を誓った相手なので守るのは当然の事。


今研究している案件が終われば、自分だけのものにして良いと族長会議で決定されている。早く終わらせて、誰も手出しできないようにしたい。

それをわかっていて、わざとこの決定を下した族長には腹が立つ。


「兄さん?」


「ああ、ごめん。考え事をしてただけだよ。」


「仕事は大丈夫?戻らなくて平気?」


「するべき事は終わらせたから、あとは最終調整だけだ。

試験監督は俺の仕事じゃないし、ゆっくりできるから心配はいらないよ。」


抱きしめていた手を緩め、レイクの腹部を撫でる。ピクリと反応する姿に目を細める。耳元で、彼女の好きな声で甘く囁く。


「レレ、2人きりの時はなんだった?」


「‥‥ラン。」


上目遣いで頬を染める姿も、凄く可愛い。


「腹筋も鍛えられたね。一時はプニプニしていたのに。あれはあれで、好きだった。」


「あ、あれは何年も前の話でしょ。今はきちんと摂生してるから良いじゃない。」


いつものレイクに戻ったようだ。少しむくれる様子に、自然と口から笑みが溢れる。

冷静で勇ましい大人のように振る舞っているが、少しつつけば直ぐへたれる所があり、実に楽しい性格をしている。


撫でていた腹部から、右手を太ももの内側へ滑らせ、左手は脇腹の辺りを撫でる。期待しているのか、微かに震える体に俺も興奮してきた。


「…っあ。」


「ゴロウから聞いたけど。あの餓鬼、レレを口説いただけじゃ飽き足らず、性欲処理に利用したんだって。……知ってたか?」


ゴロウに連絡を取ると、何かを必死に隠そうとした。脅したら直ぐ白状したが、話の内容に怒りで震えた。

愚かな行為をしたと心身共に反省させ、完膚なきまでに徹底的に潰してやる。


「診療所で寝てたから知らない。」


「ロンが相手してたそうだ。あのイヌよくやるよ。今度、好物を沢山持っていってやらないとな。これからもああいう輩を見つけ次第、相手してもらう。」


「そんな、に…触らないでっ。」


真っ白な頬をほんのりピンクに染め、こちらを上目遣いで見てくる。愛しいレイクに唇を落とすと、とうとう耳まで赤くなる。

こんな初々しい反応をしてくれるから、変な男につけ込まれる。心配にならない日は無い。


そんな子供ではないと怒るが、今までは仕事も休日も一緒に居たから、危険とは無関係だっただけだ。


この3年は研究が最後の追い込みになった。レイクも族長から地族の野外任務同行を任されるようになり、離れる事が多くなってきて気が気ではない。

白族に良い感情を持っている人達ばかりではないんだ。俺が守らないと。




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