1-3 タクマ/カナ/ミクル(2024.9.12修正)
結局、休憩無しの1時間程で目的地に到着してしまった。
昨日は荷物を背負って、山一つ登っただけで辛かったのに。いまは少し疲れてるだけ。
やはり。運命の人と出会えたから、俺に隠された本当の力が目覚めたのかもしれないな!
検問所まで着くと、人だかりが見えた。三千人位だろうか。全て、今年の志願者みたいだ。
毎年一万人程が様々な試験を受けるそうで、兵士になるのは千人まで。
定員から漏れた者は人気の農林水産業の仕事に必ず就けるので、あえてそれ目当ての人が多いらしい。全部、姉ちゃんからもらったメモに書いてある!
レイクが居ると、筋肉だらけの検問所でも凄く目立つ。周りから見られてるなって思う。嫌な視線だ。彼女を守らないと!俺はレイクを囲うようにして立つ。
「ここは俺に任せて下さい!」
「……」
俺のカッコいい決め台詞が耳に入っていないようで、レイクはキョロキョロと周囲を伺っている。めげないぞ。よし、もう一回!
「レイク様!」
俺の言葉より先に、検問所の立番とは別の兵が走ってきた。レイクの前に立つと一礼する。俺も思わず背筋が伸びた。
「ミクル隊長とラック様が、あちらでお待ちです。こちらからどうぞ。」
レイクが顔を上げ、遠くの一点を見つめると焦りだした。初めて見る姿だ。わからないけれど、愛する人の危機のようだ。
「わかりました。タクマ君、ここでお別れです。試験頑張って下さいね。それでは失礼します」
俺の気持ちを知ってか知らずか、あっさり行ってしまう。行かないで欲しい。手を伸ばして、レイクの腕を掴んだ。
思ったより細くなく、程よく筋肉のついた腕だ。初めて触れた。柔らかな肌の感触に、驚いてしまう。
守りたいけれど、俺じゃ守れない。本能でそんな気がする。
「どうしましたか?」
「ええっと、助けてくれてありがとうございました。
俺、絶対に騎士になってみせます!また会えますよね?」
「こちらこそ巻き込んですみませんでした。
兵士になれば必ず会えるので頑張って下さい。」
兵士に連れられて、レイクはさっさと行ってしまった。あっさりした別れだけど、直ぐに会えるさ。
色々と注目を浴びてしまったので、大人しく列に並んで待っていると。
「おまえ、あの化け物と知り合いか?」
「‥‥え?俺に話しかけてんの?」
ガタイの良い男が仏頂面で話しかけてきた。
レイクに触れた手を堪能してるのに、邪魔しないでほしかったけど。今の発言は許さない。
「何だよおっさん。レイクさんにそんな事言っていいと思ってんのか?」
「王があの化け物の飼い主って話だろ?地族でもないのに反吐が出る。ヒョロヒョロで白蛇みたいな怪物じゃねぇか。」
「俺のレイクさんにそんな事言うなっ!」
ーーー
今年の兵志願者の受付担当をしているけど、正直困惑しているわ。
「カナ副隊長。彼はこのままで良いんですか?」
「良くないわね。どうにかするわ。」
血気盛んな若者が揉め事を起こすのは、毎年ある事だ。あえて手を出さない事で力の優劣を見るのも、入団した際にどこに配属させるか判断材料になる。
しかし、一方的な攻撃ではただの暴力だ。可哀想に、目立ってしまった若者は餌食にされ、手も足も出ず、首を掴まれ宙に浮いている。
手を解こうと足をばたつかせ、暴れ涙を流し叫ぶ彼。もうそろそろ助けても良いのではないかと、城壁の監視塔でこちらを見ている上司に目を向けると、意地悪く笑っている。
相手が手加減しているんだから良い、という問題ではない。上司を睨みつけると、まだこれからなのにという表情をしながらも離してやれと合図され、やっと彼は解放された。
「君、大丈夫かい?」
「ゲホッ、ゲホッ…悔しい…くそぉ…。」
「相手が悪かったな。暴言が許せないなら力を付けて見返してやれ。
そろそろ君の受付の番だが、救護室に行くかい?」
「大丈夫です!」
あれだけやられても、彼の目には力があった。
大丈夫のようだ。これは、試験は合格するだろう。長年見てきてわかる。彼は良い兵士になるだろう。
「頑張りなさい。」
「はい!ありがとうございます。」
ーーー
監視塔で、今は軍の相談役となった私の元先生と、事の顛末を眺めている。
20代前半のように見える、白い肌に乳白色の髪をアップバンクにした白族の男。ピジョンブラッドの瞳には、嫉妬が渦巻いている。やれやれだわ。
「彼、中々根性があるね。国境警備辺りに就かせたら良いんじゃないかしら?」
「いや、私の下に入れる。肉体・精神共に徹底的にいびり倒してから、土木部門の最下層に叩き落としてやる。」
「彼女の事になると怖いわね。」
「私のレイクに色目を使った奴に優しくする必要はない。そもそも、私はレイクが一人で狩をする許可は出していなかった。それに、男と無断外泊だぞ!ミクルの責任だからな。」
「ゴロウから話は聞いているでしょ。何も無かったんだから良いじゃない。
ラック先生にいつも迷惑かけてばかりだから、一人で戦う訓練をしたいってお願いしてきたのよ。健気じゃない。
成果も上がったし、周囲の見る目もまた変わってくると思うわ。」
「そうさ!健気だし可愛いし、ずっと側に居て欲しいのに、いつもどこかに行こうとしてしまうんだ。もう側に括っておくしかないかな。」
「そんな事したら、彼女に嫌われるわよ。それに、私達が許さない。」
苛立ちを隠さず眉を顰める姿に、友人の今後の身を案じる。これは、私では手に負えないわ。