館にて2
光の中に入ったら、そこは小さなブースのようだった。
正面に四角い枠が表示され、各部屋の様子が上から見下ろす感じで映し出されている。
枠に触ると暗くなり、中の人々が止まり、もう一度触ると明るくなり、中の人々が動く。ざわめきも聞こえてくる。
これが、師匠の言っていた、止めたり話したりできるってことかな。
そう解釈し、アリアはこてりと首を傾げた。
今回は勢いで、たくさんの、それはもうたくさんの人々を巻き込んでしまった。
今更ながら、ここまでしなくても良かったかも・・・なんて思うが、やってしまったものはしょうがない。
まずは謝罪をして、それから皆の希望に沿うようにしなくては。
反省と決意を新たにし、アリアは4つの枠を明るくして話しかけた。
「みなさーん、元聖女のアリアですー!強制的に巻き込んでしまってごめんなさいっ!気分の悪い方、いたら挙手してくださいねー」
つい緊張して、声を張ってしまった。
どのくらいの声量で話せば聞こえるのか不安だったが、アリアの呼掛けに、全ての枠から反応が返って安堵する。
まずは交信できたこと、それから、皆の様子から怒りの感情が見られないことに、アリアはそっと胸を撫でおろした。
でも、安心してはいけない。
今はまだ、戸惑いや不安が怒りを上回っているだけかもしれない。というか、たぶんそう。
落ち着いて話して、これ以上迷惑をかけないようにしないと!
ぎゅっと拳を握ると、ある枠から声がかかった。
「アリア様!気分の悪い者が何人かいるのですが・・・」
それは魔術師部屋からだった。
見ると、蒼白な顔色で床にへたり込んでいる者が何人かいる。自分の魔力が彼らの中に入り込んでいるようだ。
魔力を持たない者は受け皿が無いため、魔力そのものが体内に入ることはない。
魔力持ちも、他者の魔力を体内に受け入れることはない。魔力は個人の特性が強いので、人から人へ、魔力そのものを注いだり融通し合うことはできないのだ。
魔力は生命力に近く、他者の命を自分のものにするのは禁忌に触れる。
魔力は特異なエネルギーである。
魔力の使用方法は、術式を通して事象に変換すること。
一人で魔力を賄えない巨大術式を起動するために、複数の魔術師が魔力を放出し、融合させて術式に注ぐこと。
─────というのを、私は師匠から教わった。
だが、例外もある。
似た魔力を持つ者同士が大きな魔力を使用すると、体内に入り込んでくることがあるのだ。
似て非なる魔力は、自分自身の魔力の流れを阻害し、著しい体調悪化を引き起こす。
それを魔力酔いと言い、異物の魔力を取り除けばすぐに回復するが、そのままにしておくと、深刻な障害をもたらす・・・という師匠のよもやま話を思い出し、アリアは顔色を変えた。
私は他の3枠をタッチして動きを止めると、魔術師枠に近づいた。
「これは魔力酔いですね。私の魔力と親和性が高く、私の魔力が体内に入ってしまったのでしょう・・・」
師匠からの受け売りをそのまま伝え、アリアはどうしたものかと思案する。
恐らく、転移陣を途中で止めたため、魔力にさらされる時間が長くなり、魔力酔いになったのだろう。
ああぁ、やっぱり勢いで転移陣を発動させる前に、師匠に会いに来るべきだった!
後悔先に立たず。
彼らの部屋がどこにあるかも分からないし、ここは通信部屋らしいし。
どう対応すれば良いのかさっぱり分からず、師匠に相談するしかないよね・・・と思いつつ、アリアは何の気なしに、枠に右腕を突っ込んだ。
どよめきが上がった。
(えっ・・・!?)
「・・・なんと神々しい光・・・」
「これは、アリア様の御光・・・」
感動に打ち震えるような魔術師達の言葉。自分の右腕が光に見えて部屋に現れているようだ。
(じゃあ、もしかしたら・・・)
さらに腕を突っ込んで、苦しみに呻く魔術師達に触れ、自分の魔力を回収していく。
魔力の選別、付与、回収は、師匠に何度も課された課題だ。
自他問わずに魔力制御を行うことは、魔法を深く理解するのに必要な基礎らしい。
そんなわけで、さっさと魔力酔いの治療をして、魔術師達の回復を見守っていると、後ろから呆れたといわんばかりの声がかけられた。
「いきなり腕を突っ込むか?原理を理解しておらぬのに、よくそんな真似ができるものだ。いや、知らぬからこその無謀か」
振り返れば、呆れを隠さない師匠が立っていた。
アリアちゃんは反省できる子です。
ただ、自重はできません。無自覚だから。
・・・残念な子・・・