館にて(王城勤め人)
誤字報告ありがとうございます。助かります!
こんにちは。
王城勤めの使用人。クローディアです。
私は今、とんでもないことに巻き込まれているようです。
今、私は見知らぬお屋敷の広間にいます。
とても歴史がありそうな、重厚な雰囲気です。
華美な装飾などなく、質実剛健といった感じで、王城の大広間が2つ以上入ってしまいそうなくらいにとても広いです。
周りにはたくさんの人がいます。
皆、王城の使用人のお仕着せを着ています。
見知った顔もたくさんいますね。皆、とても驚いているようです。
それはそうでしょう。つい先ほどまで王城でお仕事をしていたのですから。
え、私?
私も勿論驚いています。人生最大の驚天動地です。
こんな風に、誰にともなく実況中継のような真似事をしてしまうくらいには、激しく動揺しています。
「クローディア!何一人でぶつぶつ呟いてるのよ!」
「えっと、現状把握をですね・・・」
私の右腕を抱き込んで身を寄せてきたのは、同僚のオードリーです。
相変わらず、豊かで柔らかくて私の腕など埋もれてしまいますわね。
いえ、別に羨ましくなんてないですけど。別に。
それよりも、こんな時でも殿方の熱視線が集中するのは驚きです。いえ、こんな時だからこそ、女体の神秘に思いを馳せて、現実逃避をしているのかしら。
「・・・クローディア?」
は!私としたことが、殿方と同じような視線でオードリーを見てしまいました。
訝しげな顔をするオードリーに、私はにっこりと微笑みます。
「いえ、何でもありません。それよりも、少し整理しましょうか」
「はい?」
オードリーにも賛同頂けましたし、まずは簡単に、順を追って整理いたしましょう。
「まず初めに、聖女アリア様が殿下に断罪され、国を追放されることになりました」
「・・・あんた本当にマイペースよね」
「殿下のお頭の驚きの貧弱さと、聖眼の節穴っぷりが全国民にお披露目された出来事でした」
「本当のことだけれど、容赦ないわね」
「それをアリア様は受け入れました」
「そうね。嬉しそうだったわね」
「殿下とはWinWinでまとまりましたね」
「正直、喜べないけど」
「それから、アリア様は国外に出られる準備を行いました」
「なんかもう、そっからのアリア様は凄かったわ」
「他国の聖女様とのおしゃべりは楽しそうでしたね。仲がよろしいのですね」
「あ、そっち?確かに、聖女様方があんなに気軽にお話しているなんて思ってもみなかったわ」
「そして、貴族エリアの平民毎転移されました」
「えぇ「今ここ!!」」
───いけない。少し興奮して、オードリーの言葉を食い気味に叫んでしまいました。
あら、周りがこちらを驚いた顔で見ていますね。そんなに声が大きかったかしら?
「クローディア・・・。そんな鉄面皮でも、少しは動揺していたのね。安心したわ」
オードリーが半目で私を見てきますが、気にしないでおきましょう。
不穏当な発言も、それどころではないので今はスルーです。
「ここはどこなのですか」
「国内には、こんなお屋敷は無いと思うわ」
「私たちはどうなるのですか」
「聖女様が説明してくださるまで、何もわからないわ。待つしかないと思うわ」
「こんな何もない広間で、何もせずに待ってられないわ!仕事を、仕事をちょうだい!!」
「この仕事人間!!」
私の魂の叫びと、オードリーのつっこみが繰り広げられた瞬間、目の前に大きなテーブルが現れた。
真っ白なテーブルクロスが敷かれ、その上には銀のカトラリーとクリーナーにクリーニングクロス。傍らにはクリスタルガラスにグラスクロス。向かいには大きな花瓶に色とりどりの花と花鋏。
「これは・・・お仕事・・・?」
ふらふらとカトラリーを手に取り、磨き始めると、徐々に心が落ち着いてくる。
それを見てか、徐々に周りに人が集まってきて、思い思いに手仕事を始めた。
カトラリーを磨く手を止めず、私は心の中で頷く。
(分かる。分かるわ。理解を超えた非日常にいたら、日常に戻りたくなるのよ)
リズミカルな音に目を上げると、玉ねぎのみじん切りをしている者やジャガイモの皮むきに没頭している者達がいる。
(あちらは、料理人エリアかしら?)
どこからか、美しい音楽も聞こえてきた。
(宮廷楽団も来ているのね。願えば何でも出てくるのかしら?)
そう思っても、頭に浮かぶのは生活に密着したものばかり。
心に余裕が無いと、欲すら湧かないのね。
心の赴くままに、ひたすら銀食器を磨いていると、突然頭上から、底抜けに明るい声が降ってきた。
「みなさーん、元聖女のアリアですー!強制的に巻き込んでしまってごめんなさいっ!気分の悪い方、いたら挙手してくださいねー」
皆、手を止めて天井を見上げる。
キラキラした白い光が部屋の中央に集まり、光の中に聖女様が現れた。
「アリア様」
安堵と不安が心を占める。
漸く、状況が分かる。
そして、私のこれからも。
平穏で充実していた私の使用人人生。
それを突然ぶち壊してくれた男の顔をふいに思い出して、イラっとした。
さてあの男、どうしてくれようか。