先代聖女(ユーリカ)5
更に鬱展開の上、ゲスいです。胸糞です。
苦手な方はご注意ください。
突然結界が消えて、王都は大騒ぎになった。
いや、主に騒いだのは貴族たち。聖女の事情を知る王都民は、ユーリカに起きたことを察し、心情を慮って黙祷した。
ザリクはユーリカの気持ちを思い、会いに行くべきか悩んでいた。
ユーリカは10歳。まだまだ子供だ。
誰かが支えてやらなければならない子供だ。
心を壊した両親の代わりに、ずっと自分が見守ってきたのだ。
今すぐに、悲しみに沈んでいるユーリカを抱きしめ、慰めてやりたい。
しかし戸惑う気持ちもあった。
ユーリカは真面目で素直だ。
自分はユーリカと「約束」をした。
自分に会うことで「王都を守る」という約束を思い出し、無理して結界を張ろうとするんじゃないか。
ずっと両親を守ろうと頑張ってきたユーリカの姿を思い出す。
今ぐらいは『聖女』という枷を忘れてもいいんじゃないか。
この5年、ずっと両親に寄添って生きてきたのだ。一人静かに両親を偲んでもいいんじゃないか。
ユーリカにとって何が正解なのか。
うんうんと悩むザリクの元に、部下が蒼白な顔をして走り込んできた。
「団長!魔物が・・・すごい数の魔物が王都に向かってきます!」
「何っ!!」
この、まるで見計らったかのような最悪のタイミングで、北からの魔物の襲来だった。
まさか、北の要、キタールの砦が落ちたのか?
考えたくない最悪の事態に、ザリクは拳を握りしめる。
「哨戒中の部隊が見つけました!あと一時程で外壁にまで来るかと・・・・・・その、魔物の中には先代の聖女グローリアを襲ったのも含まれていると・・・・・・」
「なっ・・・!」
部下が蒼白なのが理解できた。
先代聖女グローリア。
彼女は自分の屋敷で魔物に襲われた。
王都の中心にある侯爵家。その道程で、多くの民が魔物に殺された。
とてつもなく大きく、凶悪に強く、真っすぐに貴族街に向かわなかったら、今頃王都は更地だっただろうと思わせる魔物だった。
ザリクも見た。
見るだけで恐怖に震える程、圧倒的な脅威。蹂躙される命を前に、指を動かすことすらできなかった。
「・・・あれは聖女グローリアが消したんじゃなかったのか」
「そのはずですが・・・別個体ということも・・・」
「・・・はっ、あんなのが何体もいるのかよ・・・」
絶望に声が震える。
しかし、怯んではいられない。自分が王都を、ユーリカ達を守るのだと誓ったのだ。
「騎士団にも知らせは回っているか」
「はい。ユーリカちゃんのお陰で団員の体調は万全ですよ」
ユーリカは騎士団員からも、娘のように可愛がられている。
皆、親しみを込めてユーリカちゃんと呼ぶ。
「お嬢ちゃんにこれ以上負担をかけたくない。・・・いいか?」
ザリクの思いを的確に読み取り、部下は笑顔を浮かべた。
「団長。王都を守るのは我ら騎士団だと、魔物に知らしめてやりましょう!」
「そうだな!俺らはずっと戦い続けてきた。今回も同じように殲滅するだけだ!行くぞ!!」
気合を入れて、勢いよく立ち上がる。
そして、集まった騎士団員と士気を高め合い、戦場へ向かった。
◇◇◇
ユーリカは独り部屋でぼんやりしていた。
何もかもがどうでもよくて、何もしたくなかった。
両親と同じように、ぼんやりと息だけして、そのまま二人の元に行きたい。
そっちへ行ったら、笑顔のお父様とお母様に会えるかな。ぎゅって抱きしめてくれるかな。
叶えられなかった夢を胸に抱いて、ユーリカは寝台に倒れ込んだ。
ふと、ザリクのおじさんを思い出す。
いつも様子を見に来てくれて、気遣ってくれたおじさん。
家に仕えてくれた使用人二人を除くと、一番信頼出来て頼れる人だった。
おじさんがいてくれたから、頑張れたんだと思う。
「約束」通り、おじさんは私を守ってくれた。いつも話を聞いてくれて、力になってくれた。
そういえば、おじさんと「約束」してた。おじさんも、おじさんの周りの人も守るって。
結界・・・解けちゃってるな。
でも、何もやる気がおきない。
このまま死んだら、おじさんは悲しんでくれるかな。それとも怒るかな。
今、おじさんは何をしてるんだろう。
何となくおじさんが気になった私に、聖石が私に見せてきた。
突然視界が王都外になった。
眼前には夥しい数の魔物、魔物、魔物。
血だらけの騎士たちが倒れ、おじさんも・・・・・・隊服を血で染め、大地に膝をつき、剣を突き立て、肩で息をしていた。
そして、魔物とおじさんの間には、あの男が。
両親と私を地獄に突き落としたあの男が。
「おじさん!!!」
堪らず悲鳴を上げた私を、聖石の光が包んだ。
そう!連れてって!たった一人残った、この世界で一番大事な人の所に!
両親を守れなかった駄目な私だけど、せめてあの人だけは守らせて!
絶叫のような願いに、聖石が応えてくれる。
ありがとう。ずっとお前が嫌いで恨んでいたけど、おじさんを助ける力をくれるんなら、お前に感謝する。
聖石!!
ユーリカの身体が白く光る。
一瞬後、ユーリカの身体は部屋から消え、ザリクの元へと飛んだ。
◇◇◇
王都の城壁の前に、魔物が整然と並ぶ。
夥しい数の魔物が、眼前で、声一つ立てず静かに待機する異様な光景。
魔物の前には一人の男。
「・・・お前が魔物を連れてきたのか」
ザリクは低い声で恫喝するように、目の前の男に言葉をぶつけた。
対する男───ステイン公爵は、にこやかな笑みを浮かべてザリクを見下ろした。
「仕方がないでしょう。全然聖女が会ってくれないのですから。親しい貴方が死にそうにでもなれば、聖女も出てくると思ったのですがね。まさか結界が消えているとは、何という僥倖!私の願いは確実に叶えられそうで嬉しいですねぇ」
満足そうに笑うステインに、ザリクは舌打ちをする。
このクソ野郎が、コブラー家を滅茶苦茶にしたのだ。例え高位貴族だとしても許せるものではない。今すぐここで切り伏せてやりたい。
怒りに燃えるザリクを、ステインは馬鹿にしたように見下げる。
「平民の、魔力なしの騎士如きが、私に傷一つでもつけられると思っているのか?『私の魔物』たちにすら手も足も出ないというのに。身の程も弁えられぬとは、愚かなことこの上ない」
「・・・お前の魔物だと・・・」
胡乱気な眼差しのザリクに、ステインは自慢げに胸を張った。
「愚かな平民ではあるが、冥途の土産に私の功績を教えてやろう。この魔物たちは私が作ったのですよ。隷属の陣を刻み込んだ動物を劣悪な環境に閉じ込めるとですね、生き残るために共食いを始め、残った一体が魔物になることがあるんですよ。私の言うことを聞く従順な魔物が生まれるのです。素晴らしいでしょう!」
ザリクは顔を顰める。恍惚と語るステインには嫌悪感しかない。
「しかし、手に入る動物では大した魔物は作れない。ですが────」
巨大な化け物がステインの隣に来る。
通常、魔物は母体となった動物の形を保つ。しかし、この化け物はどんな生物にも似つかない醜悪な姿をしている。
聖女グローリアを襲った化け物だ。
「彼はリュカ。と呼ばれていましたっけねぇ」
「・・・っ!まさか貴様っ!!」
驚きに目を見開くザリクに、ステインは哄笑を浴びせる。
「はははっ、貧民街の掃除をしてやったんですよ!王都に住み着く害虫を駆除がてら色々と遊んでやっていたら、なんと魔物化したんですよ!すごいでしょう?さすが底辺の人間は獣に近いんですねぇ。しかし、獣よりは優秀だ。なんでも貪欲に飲み込み、どこまでも成長する。ここまで育てるのは大変でしたが・・・素材はいくらでも調達できる」
「貴様・・・・・・」
あまりのことに言葉がでない。
射殺すようなザリクの視線などものともせず、ステインは酔ったように喋り続ける。
「貧民は弱い。すぐに死んでしまうから魔物化する個体は非常に稀だ。グローリアに消されたのは残念だったが、こいつは前のより強いぞ?王都などあっという間に壊滅できる」
「そんなことをして何になる!!」
激高するザリクに、ステインはにたりと笑う。
「平民が死のうがどうなろうが知ったことでは無い。私はあなたに聖女を引き渡して貰いたいだけですよ」
「っ!そんなことっ!」
こいつに滅茶苦茶に傷つけられたユーリカを渡せるわけがない。
だが、ステインはしたり顔をやめない。
「引き渡さねば王都を潰す。平民を食らって、私の魔物は更に強くなる。そうすれば聖女を引きずり出せるでしょう?」
「なぜ・・・そこまでっ」
「聖女が、あの小娘がいけないんですよ」
ステインは目を細める。陰湿で嬲るような嗜虐的な色が双眸に揺らめく。
「私が聖女にしてやったのに、私を拒絶するあの娘が悪い。聖女になれば、男爵から買い上げて公爵家に入れてやろうと思っていたのに。私の元で、私の為に力を使えば贅沢をさせてやったというのに。馬鹿な娘の所為で、我が公爵家は随分と評判を落としてしまいましたよ。私を蔑ろにするなど、許されることでは無い」
「貴様・・・・・・!」
あまりに醜悪な男の言い分に、ザリクの声が怒りで掠れる。
こいつは人間じゃない。魔物よりもはるかに醜く下劣で、生きているだけで害悪だ。
「貴様なんかに嬢ちゃんをこれ以上傷つけさせねぇ!王都も守る!その魔物たちも、お前から解放してやる!」
「っく!ははははっ!!お前如き薄汚い平民に何ができる!哀れで愚かで、王都に結界を張るのが精いっぱいの弱い聖女にお似合いだ!お前を殺したら、聖女は私が上手に使ってやるさ。安心して死ね!」
元人間の魔物が、ステインの隣で咆哮を上げる。
ザリクは両手で剣を持ち、ステインに対峙する。
(嬢ちゃん、すまねぇ。守ると約束したのに、ちょっとこれは荷が重いぜ)
威圧に呼吸が浅くなる。化け物相手に勝ち筋が全く見えない。
それでも、最期のその時まで、心は屈しないと覚悟を決める。
引き絞られた緊張が切れる。
魔物が動いた。
たった一撃。それだけで騎士団の男たちは地にひれ伏した。
圧倒的な暴力。何をされたのかすら分からない。
ザリクも地に膝をつき、剣を支えに身体を起こすのが精いっぱいだ。
ごぼり、と口から血が噴き出す。
「弱すぎる」
嘲るようにステインが笑う。
「この光景を見たら、聖女はどんな顔をするだろうね」
楽し気に言うと、止めを刺すように合図する。
魔物が返事をするように吠えた。
その時、空気が揺らいだ。濃厚な魔力の揺らぎに、魔物が口を閉じる。
「おじさん!」
突然ザリクの目の前に、ユーリカが現れた。
すみません。終わりませんでした。。。
次で終わると思います。




