館にて(魔術師団)
ブクマに評価、感想を頂けると思っていなかったので驚いてます。
ありがとうございます!
あまりにも美しい光景に見惚れていた。
たとえ映像でも、これほどの強大な魔法の行使を見られるのは一生に一度あるかないか。
瞬きもせず、光が踊り、別れ、交差し、また交わり、世界が魔法で染まっていく様を見つめていると、ふと、何かに引っ張られる感覚がした。
「!!!」
瞬間、高濃度の聖なる魔力に包まれて息を飲む。
暖かくて、安心できる、幸福に満ちた世界。
ここは神の世界か。女神に抱かれているのか・・・
まるで幼子のように、温もりに腕を伸ばした瞬間、その幸せな世界から放り出された。
「────────ぁ」
幸せの余韻と、酷い喪失感に、声にならぬ音が漏れる。
一瞬とも永遠ともいえぬ時を超え、唐突に我に返った。
腕を掲げ、立ち尽くしていた自分に気づくと、のろのろと腕を下して周囲を見渡した。なぜか世界が滲んで見えて、目元を押さえると指が濡れた。涙を流していることに気づいて、急いでローブで顔を拭うと、改めて周囲を見渡した。
そこは薄暗い大広間だった。
いや、実際は明るいのかもしれない。しかし先ほどの眩い光の奔流に包まれた自分には、酷く暗い世界に見えた。
周りには、自分と同じ魔道師のローブを纏った者たちが、やはり呆然と立ち尽くしている。
ある者は跪き、ある者は己を掻き抱き、滂沱の涙を流したり、恍惚の表情で放心していたり、様々に我を失っている。
我が女神、アリア様の聖なる魔力に飲み込まれたのだ。
唐突に理解し、私はその僥倖に歓喜で身が震えた。
◇◇◇
魔術師団にとって、アリアは生ける女神である。
平民生まれにもかかわらず、歴代聖女の中で最大ともいえる、類稀なる強大な魔力。それを幼いころから難なく使いこなす天才。
呼吸するように癒しの術を使い、当たり前のように結界を構築する。
貴族はほぼ魔力を持って生まれ、魔力量の多い次男以下の貴族子弟は宮廷魔導士団に入る。
平民から生まれる魔力持ちは一割にも満たないが、全員集められ、適性のある者が魔術師団に入る。
宮廷魔導士団は、王侯貴族のために魔法を使う。
魔術師団は、騎士団に随行し、魔物討伐の補助を行う。
何故、補助なのか。
それは、貴族が魔法術式を秘匿しているからだ。
魔力はエネルギーにすぎない。
そのエネルギーをどのように発現し、指向性を持たせるのか。
それは術式によって決定づけられる。
攻撃、回復、支援。魔法の系統を決定し、威力、範囲など、様々な条件を術式に込め、魔力を流すと発動する。
難度は上がるが、魔力上昇や持続系などの補助術式を加えれば、少ない魔力で威力の高い魔法を発動することもできる。
魔力の質により威力や精度に差は出るが、術式無くして魔法は使えないのだ。
だが、それらを魔術師団で教わることはない。
ごく初歩の、生活魔法とも言える、火熾し、水生成。血止め、痛み止めなどの回復魔法程度しか教えられない。
魔物に対峙しても、魔力をそのまま投げつけるなど、魔物の気を引くくらいしかできない。
魔物討伐の主力は騎士団であり、魔力持ちでありながら役立たずな自分が悔しくてたまらなかった。
それが、アリアが学園に入学して一変する。
貴族しか入学できない学園に、特待聖女として入学したアリアは、まず図書館にある魔法書を片っ端から検証した。
初級から中級の術式をベースに、アリアは新たな術式を次々と考案し、研究成果を秘匿することなく、一般に公開した。
魔法理論も体系別にまとめ、効率的な補助術式の付与についても、検証結果や考察を含め、余すことなく公表した。
術式を広めることに、貴族の中には嫌な顔をする者もいたという。
しかし、秘匿されていた術式よりも遥かに優れた術式に、研鑽を重ねた魔法理論。
これらに魔法研究者達は感嘆し、諸手を挙げて歓喜した。それは研究者魂に火をつけ、魔法技術の発展に大きく寄与した。軽んじられていた研究にも日が当たり、活発に行われることになる。
アリアの発表を切っ掛けに、飛躍的に魔法が発展した。
その速度はすさまじく、利権争いの懸念も出たが、結局問題とはならなかった。
魔力持ちは貴族が大半を占めるため、貴族内の駆け引きに終始したためだ。
最終的に高位貴族たちが権力と資金を背景に、それぞれの血族が得意とする系統魔法を囲い込むことで終息した。
優秀な者は高位貴族の庇護を受け、その恩恵は国全体に渡り、名声と利益は貴族に帰結する。
アリアの功績はそれらの喧騒のなかにかき消され、異を唱える者も称える者も出なかった。
魔術師団にとっても、アリアがもたらした魔法学は女神の福音だった。
アリアの術式だけでも、魔物に対抗するには十分な力になる。
それ以上に、魔法理論を理解することで、自分で新たな術式を考案できることに、とてつもない興奮を覚えた。
役立たずだった自分が、人の役に立てる!
その思いからか、悔しさの反動か、多くの魔術師たちが魔術狂いになったのは、必然かもしれない。
魔術狂いたちは、もれなく強烈なアリア信者でもある。
我が女神、アリア様を追放し、自分たちから遠ざけた王太子。
さて、どうしてくれようか──────




