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野良聖女~鎖が解かれたので自由に生きようと思います~  作者: 三川士ぱりぃ
ミルトランド王国編
31/45

三日目




(なんでこうなった)


 目の前では王様を中心に、貴族も平民も老いも若きも一緒になって議論を交わしている。

 誰もが生き生きと熱く語り合い、その様子を王様が嬉しそうに眺めている。

 私が追放されて()()。いつの間にか見たことの無い光景が連日繰り広げられている。


(なんでこうなった)


 私は首を捻った。


「何を珍妙な顔をしている」

「・・・・・・師匠」


 片眉を上げる師匠に、私は不満げに口を尖らせた。


「珍妙ってなんですか。不思議だなって思ってるだけです」


 私は視線を向けた。貴族と平民が同じ目線で語らう場に。

 以前はあった身分という高い高い壁は今はどこにもない。


「師匠。なんでこうなったんですかねぇ」

「お前が言うか?」


 呆れたように聞き返され、私は口を尖らせつつ思い返す。


 1日目:殿下に断罪追放され、平民共々師匠の館に転移した。

 2日目:王様に会った。

 3日目:師匠と王様と私と、たくさん語り合った。


 それからどんどん仲間が増えていった。

 やっぱり3日目だ。何したんだっけ。

 うーん、と私は考え込んだ。



◇◇◇



 私が断罪されてから三日目。

 スグナン公国から師匠と国王様と一緒に、師匠の館に帰ってきた日だ。


 スグナン公王との面会は滞りなく終わった。

 主に、追放された私への心配と、行くところに困っていたらスグナンに来ないかというお誘いだった。

 聖女の解放については、それほど心配されていなかった。

 殿下のような方は早々現れないだろうということと、ロザリー様との関係が良好なのだろう。

 お互いに信頼し、敬意を払っている感じが、素直に羨ましいと思えた。

 国によって考え方は違うんだなって。

 余計に色々な所に行ってみたくなった。


 公王様のお誘いは感謝しつつも丁寧にお断りして、御持て成しを受けて一泊した後、館に戻ってきたんだった。

 

 

 そして師匠に命じられて、館とミルトランド王国との道を太くした。

 王城じゃなくても、国内なら国王様は聖石に命令できるんだって。

 それで、館から聖石に接触して師匠が色々試したいっていうから、私は道を太くして魔力の通りを良くするようにした。

 今では、私の意思に応じて自由自在に聖石が動いてくれるから、とっても簡単。

 その様子を見て、王様が目を丸くしていた。普通の人なら分からないのに、流石王様だね。

 

 ・・・バレちゃった。

 

 でも、怒ることなく寧ろ感心してくれた。

 実は王様も、聖石について詳しいことは知らないんだって。だから国中に散らばる聖石たちのこと、役割とか、国の形も変えられることなど、興味深く聞いてくれた。

 国王様とこんな風にお話ができるとは思っていなかったから、嬉しかった。

 

 

 それから、王様と話が弾んだ。

 

 王様はご自分の事を色々と話してくれた。すごく苦労していた。そして先々代と先代の聖女のお話は、ただただ悲しかった。

 王様が分からなかったことは、師匠が『かころぐ』からの情報を教えてくれた。

 王様は暫く黙っちゃった・・・けど師匠にお礼を言って・・・あまり気に病まないといいなって思った。

 

 『聖女に関わるな』っている王命も、初めて聞いた。

 王様は謝ってくれたけど、先の聖女達の話を聞いたら、私を守るためだったんだって分かる。

 だから、私は幸せだって王様に伝えた。

 私のことを、みんなが大事にしてくれたから、みんなを守りたいって強く思ったんだって。

 その気持ちに聖石が応えてくれたから、小さいころから力が使えたんだと思うって。

 この環境を与えてくれた国王様には感謝しかないって。

 そう伝えたら、王様が黙って部屋を出ていってしまった。

 

 驚いて追いかけようとしたら師匠に止められた。

 男には色々あるんだよ・・・って小さくつぶやいた師匠を見て、私は座りなおした。

 

 暫く師匠とお茶をしていたら、国王様が晴れやかな笑顔で戻ってきた。

 目元がちょっと赤かったけど、見ないことした。

 

 色んなことを話して、距離が縮まった気がした。

 王様に対して不敬かもしれないけど、気さくで話しやすくて、やっぱり近所のおじさんっぽいなって思ったんだ。

 

 そうだ。

 ここから、王様が変わったんだ。

 凄く積極的になって、「しすてむ」についても、3人だけで決めてはダメだ。もっと多くの意見を聞くべきだ。

 そう言って、館に滞在している魔術師や使用人の人たちと話すようになって、貴族の意見も必要だと、宰相さんや旧友のおじいちゃんたち、話ができるという貴族の人たちを招いて、皆で話すようになった。

 国民みんなで国造りをしたい。

 王様は口癖のようにいつも言って、誰とでも話した。

 それはいつの間にか広がって、身分の壁が消えて行って、楽しげに笑う王様を中心に輪がどんどん大きくなったんだ。

 

 

◇◇◇



 初めて聖女と語らった。

 今代聖女───アリア殿は明るくて生き生きとしていて天真爛漫な少女だった。

 まるで太陽のようで、過去に知る二人の聖女とはまるで違った。

 生まれつきなのか、育ちによるものなのか。

 ただ、歪むことなく育ってくれて良かったと、彼女の笑顔を見て心から思った。

 

 思えば王となってから心休まる時を過ごしたのは初めてかもしれない。

 魔物の対応と国の復興と、そして貴族に翻弄された30年だった。

 己の力の無さを嘆き、最善を尽くしたつもりが後悔に打ちのめされ・・・

 そんな愚王の愚痴を、聖女は静かに聞き、心を痛めてくれた。

 それどころか、私に感謝しているとまで言ってくれて、心が震えるのを抑えられなかった。

 

 ちっぽけな矜持が涙を留めた。

 急いで部屋の外に出て、みっともないほど号泣した。

 今までも何度も涙を流したが、こんなにも胸が熱くなる涙は初めてだった。

 

 アリア殿が肯定してくれて、初めて心に光が差した。

 今までは国王の義務として国を守るように尽力してきた。でも今は、国を良くするために尽くしたい。そんな思いが胸に湧いてくる。

 とても熱くて強い思い。

 こんな情熱が私にあったなんて、自分自身に驚いた。

 

 

 大賢者殿に新しい国を作るチャンスを頂いた。なれば、国民と共に国を作りたい。

 国民に義務と負担を押し付ける国ではない。義務と責任に応じて権利が与えられ、貢献に対して褒賞が与えられる。頑張った者は報われる。そんな国になれたらと思う。

 誰かの思惑に踊らされるのも、どれほど努力しようとも当然の義務だと一蹴され、更なる貢献を強要されるのも、心が疲弊するばかりだから。

 

 誰かの犠牲のもとに一部の者が恩恵を独占するのはおかしい。

 今まで口にできなかった言葉を声にして、多くの者と話し、それぞれの立場の人々の声を聴く。

 

 なんと、なんと楽しいことか。

 

 言葉を交わすことによって、お互いを知り、理解が深まることの喜び。

 自分はここにいて、受け入れて貰える。

 素の自分の承認欲求が満たされる幸福。

 

 もっと多くの人の話を聞きたい。

 今の思い。嬉しいこと、許せないこと、守りたいこと、変えたいこと。未来への夢や希望。

 様々な考えが、新しい国の礎となる。

 もっと多くの声を、一千万の国民の声を拾うことはできないのか。

 

 そう考えた時、アリア殿と大賢者殿の力を借りればできるのではないか。

 私は思い付いた。




突発的事態でPCに触ることができず、更新が遅れてしまいました。

仕事も色々ありまして、毎日更新が厳しくなりそうです。

私は書きたいので、できるだけ投稿する所存ですが!


追放から、何故か国造りへお話が変わってしまい、私も「なんでこうなった」と呟きながら書いてます。

最後までお付き合い頂けると嬉しいです。

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