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野良聖女~鎖が解かれたので自由に生きようと思います~  作者: 三川士ぱりぃ
ミルトランド王国編
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トップ会談4



「アリア。とっとと王を治せ。楽しい話をしようじゃないか」


 そんなことを宣う師匠に、私は目を見開いた。


「何を言っているんですか。衰弱した王には時間をかけた治療が必要だって」

「そんなのは一般論だ」


 小馬鹿にしたように師匠は鼻を鳴らした。


「お前の魔力はミルトランドの聖石そのものだ。王が失った魔力そのものなんだよ。馴染ませる必要なんてない。どばっと注げばそれで治る。さっさと注げ。折角時間を作ったんだ。ぐずぐずするな。時間の無駄だ」


 あまりの言い様に鼻白む。

 とはいえ、師匠が言うなら大丈夫なんだろうし、そうした方がいいんだろう。


「何を企んでいるんですか。まぁ治しますけど」


 寝台に向かう私の隣で、師匠は心外とばかりに大袈裟に肩を竦めた。


「企むとは人聞きが悪い。俺はお前と王の為に場を整えてやったというのに。───それに、お前がここに来ると決めた時、俺は言ったよな。何か力を貸せるかもしれないと。ま、提案に乗るかどうかは王次第だがな」


 飄々と語る師匠を私は見つめた。訳が分からないけど私たちのため?


「師匠。ちゃんと説明してくださいね」

「馬鹿か。お前も考えるんだよ」


 そんな会話を交わしながら、寝台に辿り着いた。

 天蓋を開けると、男性が横になっていた。

 顔色は蒼白で、酷く具合が悪そうだ。殿下には余り似ていない。随分と年嵩に見える。線が細く神経質そうに見えるのは、体調を崩しているせいだろうか。

 色々な思いが巡る。

 私は師匠に問いかけた。


「本当にドバっとやっちゃっていいんですね?」

「あぁ。お前が調子に乗ってやらかしてもこの男の器は大きいから問題ない。器から溢れた分は陣が吸収する。そうすれば防音盗聴対策も上がる」


 ん?何か不穏な単語が出ませんでしたか?

 ただ、ここで問い詰めても時間の無駄なのは分かるので、私は自分の魔力に集中した。


「じゃ、行きます」


 魔力を右手に集め、遠慮なく国王様に叩き込む。


「そりゃ!」


 乾いた砂に水が沁み込むように、気持ちよいくらいに国王の中に魔力が吸い込まれていく。

 師匠の言う通り、国王の器はかなりの大きさだった。手加減したつもりは無いのに、溢れた分は僅かで、零れた落ちた魔力は師匠の陣に吸い込まれた。


 国王様が身じろいだ。暫くしてその瞼が開かれる。

 ぼんやりとした視線が徐々に定まり、青い瞳が意識を取り戻すに連れて色の濃さを増す。

 国王様はゆっくりと体を起こした。少しくすんだ金色の髪が、やつれた額にはらりと落ちた。


「楽になった。そなたが治してくれたのか」


 国王様の視線が私に向いた。その瞳が見開かれる。


「まさかっそなたは聖女アリア殿か!」


 言うが早いか、国王様は私に身体を向けると、深々と頭を下げてきた。


「愚息が申し訳ないことを・・・いや、愚息だけではない。私もそなたには申し訳ないことをし続けた。国を守って貰っているにも関わらず蔑ろにし続けた。なんと詫びたらよいのか・・・」

「やめてください、国王様。私は何とも思っていません。寧ろ貴族様方と関わりなく過ごせて良かったというか・・・」


 あ、こんな事を言ったら不敬かしら。

 うっかり本音が出て、慌てて口を閉じる。

 国王様は苦い笑みを浮かべた。


「そうか。そう言って貰えると、私も一つ心が軽くなる」


 なんだか思っていた人と違っていて少し戸惑う。

 貴族のように高慢な様子も、人を馬鹿にした感じもしない。何というか、真っすぐで()()な感じ。


「───あぁ、こんな格好で申し訳ない。私はもう大丈夫だから・・・」


 そう言い、寝台から降りかけた国王様を師匠が制した。


「そのままで。未だ治療は続行中だ。私たちは貴殿とこれからの国のあり方について話し合いたい」


 唐突な師匠の要請に、国王様は不思議そうに師匠を見上げた。


「其方は?」

「我が名はベルディモード。聞き覚えはあるか」

「ベルディモード・・・。かの大賢者と同じ名前であるが・・・」


 師匠の顔を見つめる国王様の顔が色を無くしていく。唇が震え、まさか、という呟きが漏れた。

 師匠は「まだ名が残っているか」と不満げに呟いている。


 というか、大賢者?

 師匠は元魔王でしょ?


 疑問符を飛ばす私に、師匠は、お前は知らんでいい。考えるな。禿げるぞ。そんなことを言って頭を小突いてきた。

 師匠、酷い。


「その姿、その瞳、伝承と同じ・・・本当に大賢者ベルディモード殿なのか・・・?」


 震える声で問うてくる国王様に、面倒くさそうに師匠は答えた。


「かつてそのように呼ばれたこともあるか。他者からどう呼ばれようと興味はないが、その名を知っているなら話は早い」


 そう言うと、師匠は威圧感たっぷりに口角を引き上げた。

 うーん、その顔は魔王の方が相応しいと思うな。

 どうでもいいことを考えていた私の頭を、師匠は無造作に掴んだ。


「ちょっ、師匠?」

「今は縁あって、こいつの師匠を務めている」

「なんと!大賢者殿が我が国の聖女様の師匠!!だからこそ、大聖女のお力がアリア殿に!」


 驚き納得の表情をする国王に、師匠は片眉を上げた。


「違うな。私と出会った時には、既にこいつの力は国に収まりきっていなかった。このまま放っておいたら世界に危機をもたらすかもしれぬから、必要な知識を授けたまで」


 私を危険生物のように言うと、頭をぐらぐらと揺さぶってきた。師匠、気持ち悪いから止めてください。

 不満げに唇を尖らせると、師匠はくくっと笑って手を放してくれた。


「そんなわけで、貴殿の国のシステムに興味を持ってな。過去二千年分の過去ログを解析した」


 しすてむ。

 かころぐ。

 聞きなれない言葉に困惑する私たちを意に介さず、師匠は国王様を見据えた。


「私は貴殿の事情を、苦労を()()()()()。相談できる人もおらず、頼れる者もなく、一人で国の為に奔走してきた貴殿を()()()()()。アリアに干渉してこなかった理由もな。だからこそ問う。貴殿はこのまま、聖女任せの国の在り様を望むか?それとも立場ある者が義務を行使して国を担い、義務を果たした者のみが権利を享受できる、そんな国を望むか?」




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