トップ会談3
サロンに案内され、側仕えがお茶の準備をしている間、ロザリー様は側近と難しい顔で話をしていた。
ちらりとこちらを伺うと、側近をその場に待たせてやってきた。その表情が酷く曇っている。
「アリア。少し良いかしら」
「どうかなさったんですか?何か問題でも?」
元とはいえ他国の聖女が訪問するのは、やはり問題があったのだろうか。
何もかもが初めて故、少しの不安でも心が騒いでしまう。
「ええ、国王様の容態があまり良くないの」
「国王様の?」
問題は予想と違ったけれど、国王の容態が悪いと聞いて心配になる。
「昨日魔力枯渇になられてから、ほとんど魔力が回復していないの。私たちの回復魔法も効かないようで衰弱が酷いそうよ。アリアに会うと仰ってはいるそうだけど、正直現状では難しいようなの」
眉間にしわを寄せ、溜息を吐く。
他国の王が外遊中に、衰弱するほどの体調不良を引き起こし、それを癒すこともままならない。殊更に悩ましいだろう。
騒がせるのも申し訳ないし、ここは一旦引くべき・・・と思ったのだが。
「それならば、アリアは会いに行くべきだ」
「師匠?」
「どういうことですか?」
師匠の提言に驚く。
「恐らく王は、魔力酔いに近い形になっている」
「魔力酔い?」
「魔力酔いって、館で魔術師さんたちがなった・・・」
とても苦しそうに倒れ込んでいた姿が脳裏によみがえる。
師匠は軽く頷いた。
「彼らは異物が入り込み、魔力の流れを阻害されてあれほど苦しんでいたが、今の王は、魔力枯渇により流れる魔力もない状態だ。血液を全て失ったも同然だな。魔力を欲してもスグナンとミルトランドでは魔力の質が異なる。馴染まぬ魔力は体を蝕む。昨日からか。相当衰弱しているのではないか?」
ロザリー様が厳しい表情をする。
「聖石に繋がっていれば常に魔力供給されるから、魔力枯渇など初めての経験だろうな。恵まれた状況下では、自己回復能力も育たんだろう」
現状を客観的に指摘する師匠に、ロザリー様が問いかける。
「貴方は国王様がどうなるとお思いですか」
ロザリー様は強い瞳で師匠を見上げた。遠慮も誤魔化しもいらない。真実だけを欲する瞳。
師匠の口元が緩やかな弧を描いた。
「このまま放置すれば死ぬ」
ひゅっと息を飲んだ。
ロザリー様の顔が青ざめる。
「だから、アリアに会わせるべきだと言った」
師匠は口元に笑みを刷いたまま、冴え冴えとした瞳でロザリー様を射る。
「アリアはミルトランドの聖女だ」
ロザリー様は、はっとした表情で私を振り返った。
「今の話が本当なら・・・いえ、彼の言う通りだわ。アリアなら・・・ううん、アリアしか国王様を癒せない。そうよアリア。お願い。国王様を助けてあげて。お願いよ」
私の両手を強く握り懇願してくるロザリー様。
私とて、苦しむ人を救うのに否も応もない。
師匠を見ると、師匠も首肯した。
「行くぞ、アリア。あれは悪い者ではない」
師匠の言葉に私は強く頷いた。
それを受けて、ロザリー様がほっと胸を撫で下ろす。
「心配かもしれぬが、部屋には我々と国王だけにして欲しい。治療に専念させたい。それに余計なものが混ざるのも良くない」
弱った魔力神経を癒すには、適合する魔力をじんわりと流し、馴染ませていく他に方法はない。
師匠の言を受けて、ロザリー様が指示を飛ばす。
部屋を整え、治癒士たちを下がらせるよう言づけて、側近を先触れに走らせる。
慌ただしく宮殿が動き出す。
暫くすると、先触れに走った側近が戻ってきた。ロザリー様が私たちを促して部屋を出る。
私たちが歩くと、廊下で会った側仕えの皆さんが端に避ける。そして頭を下げて見送ってくれる。
ロザリー様への敬意だと分かっていても、こういう雰囲気は慣れてなくて落ち着かない。
大きな宮殿の長い廊下をひたすら歩いて、最奥にたどり着いた。一際立派な扉の前で、漸く足が止まる。
「ここに国王様がいらっしゃいます」
ゆっくりと扉を開くと、広い部屋に、備え付けられた豪奢な家具が見えた。
ロザリー様に付いて部屋に入り、室内の内扉の前でもう一度足を止めた。
「こちらでお休みになっています」
扉を開けると、カーテンの引かれた薄暗い部屋に、大きな寝台が見える。
天蓋に覆われてこちらからは良く見えないが、恐らくあそこにいるのだろう。
「私たちは、こちらの部屋で待機していてもよろしいかしら?」
ロザリー様が師匠に確認をとり、師匠はそれを了承した。
「構わない。こちらも寝室に陣を敷いても良いか。スグナンの魔力を中和するものだ。治癒の補助になる」
師匠がロザリー様に説明をし、ロザリー様が了承する。
「それでは、後はこちらに任せてもらおう。何かあれば直に連絡する」
そう言い置き、師匠と私は寝室に入り、扉を閉めた。すぐに師匠により魔法陣が展開される。
「よし。これで整った」
私は、突然様子が変わった師匠を見上げた。そこには悪い顔をした師匠が口端を上げていた。
「師匠?」
「アリア。とっとと王を治せ。楽しい話をしようじゃないか」
目をきらりと輝かせる師匠の姿に、嫌な予感がするのをヒシヒシと感じた。




