戦いに向けて
アリアは学園の事務局に行って、1週間の休学届を出した。
理由は、国境付近の異常についての調査。
勿論、うまくいかなかった時の保険だ。
調査に行って異常を見つけた、と言った方が通りがいい。
駄目だったら、そのまま聖女達に根回しをしてもらい、連合国全体の危機としてしまおう。
ミルトランドとは違い、他国では聖女の発言権が強い。
他国から圧力をかけて貰えば、体面を重んじる貴族のことだ。意味の無い糾弾と、それに伴う遅延も少しはマシになるだろう。
ふと、目の前の仏頂面の職員を見て、アリアは思った。
そういえば、この人も貴族だっけ。
たしか良家の子女を迎え入れる学園だから、職員は貴族しかなれないんだったか。
面倒そうな態度の職員も、高位貴族にはぺこぺこするんだろうな、と思うと笑えてくる。
相手の爵位を気にしながら態度を変えるなんて面倒なこと、自分にはとてもできそうにない。
(貴族に生まれなくて良かった!)
届け出を興味なさそうに受け取った事務員を横目に、アリアは学園を後にした。
◇◇◇
さて、1週間でやらなければならないこと。
それは、呪いの館までの道を作ること。
大きな魔法を使うには、聖石の加護が必要だ。
特に、今回のように他国の聖女から協力を得る場合は、殊更に。
聖女達に貰った魔力入り術式を現場まで持っていくだけでなく、術式を起動するにしろ、制御するにしろ、聖石のサポートは不可欠だ。
アリアは国境の結界を維持する分を残して、国中の聖石を掻き集めた。
王城から呪いの館まで、最大の加護を受けられるよう、太く分厚く濃密に、集めた聖石を詰め込むのだ。
アリアは急いでいた。
聖石は、国の血管とも言えるものらしい。
魔力を運び、その地を満たすことで、大地は富み、魔物の発生を抑える。
王城の聖石は、言わば心臓であり頭脳である。
そんなことを、魔王は言っていた。
逆に聖石を奪ってしまえば、土地は痩せ、魔物被害のリスクが上がるということ。
どれだけ大地に魔力が宿っているのか分からないが、異変が出る前に、速やかに聖石を戻さなければならない。
異変に気付かれたら、私が「いろいろ」やってることがバレてしまうかも。
それが、一番の急ぐ理由だ。
貴族は平民に興味を持たない。
たとえそれが聖女でも。
今は、監視も、行動制限もない。この自由を守るために全力で事に当たるのだった。
アリアにとって、幸運もあった。
あの日。
初めて国境を動かした日から、聖石を動かす感覚が面白くて、暇があれば魔力を流してぐにぐにと捏ね回していた。
固いところ、動きの悪いところは念入りに、揉み解すようにぐりぐりと。
それが功を奏したのか、全国に広がっていた聖石たちは、アリアの求めに素直に応じて動いてくれた。
「あー良かった。思ったよりも早く聖石道が開通しそう」
独り言を呟きながら、人目につかないように気を使いながら、アリアは聖石の整地を行っていた。
転移陣を使って国内を回り、王都の北の森に行くようお願いし、動いてきてくれた聖石を、今度は北にどんどん送り出す。
この異常な魔力移動に誰か気付くかもしれない。そう思うと、おちおち休んでいられない。
ほとんど寝ずのハイペースで道を通し、漸く一息入れられたのは、決行日を明後日に迎えた頃だった。
「うーん、順調だ!」
久しぶりにぐっすり眠り、すっきりした頭で気炎を上げる。
これから、特大の浄化魔法陣と、強化増幅魔法陣を作らなければならない。
各国の聖女達から受け取った魔力を、最大火力にして放てるように調整するのは結構難しい。
聖石にお伺いを立てつつ、アリアは難題に取り組んだ。
聖石本体のイメージは練消しって以前書きましたが、もっと近いものがありました。
土壌保水剤です。土壌保魔剤になるのかな。
100均でも売ってるアレが国中に散らばっていて、魔力を保持したり、アレの中に処理関数の呼出部が入っていて命令によって実行したり、トリガーにより自立実行したりしてるんです。
作っているのが王城の聖石で、ベースオブジェクトは一緒。
魔力で作られてるオブジェクトなので、掘っても目に見えません。
処理の実体は同じところを参照しているので、全部で一つのシステムって感じですねー。
・・・なーんてニヤニヤしながら考えてる私って・・・
でもスッキリしたからいいんです!
よくあるシステムなんだな、って思って頂ければ嬉しいです(>_<)




