プロローグ2
まだ、プロローグです。
早く、本編へ移りたいです。
「おぬしは何をしておるのじゃ‼ その武器は唯の飾り物に過ぎないのか‼ 男なら、男気を見せるのじゃ‼」
虎徹さんが僕の前に立っていた。だけど、その手には何も持っていない。
〈グラァァァァァ‼〉
オーガは棍棒を振りかぶり、虎徹さんを叩き潰さんとしていた。
僕は………僕は……‼
「ウオォォォォォォォォッ‼」
気付いたら体が動いていた。虎徹さんを守る為に‼
僕は懇親の力を振り絞って、足に力を入れ虎徹さんの横を摺り抜けと同時に、虎徹を下から上へと振り上げた。
「ッ⁉」
オーガは驚いた様子だったけど、既に時遅しだ‼
振り上げた虎徹は、研いだばかりの包丁が豆腐を切るがの如く、オーガの左脇から右肩にかけて切り裂いた。
「グガァァァァァァァッ‼」
だけど、切り裂いたのは良いけど切口は浅かった。
オーガの分厚い皮膚のお陰か、致命傷にまでは至らなかった。
「ここでお終いか………」
オーガは残る力で僕を叩き潰そうとしていた。
僕はつい諦めてしまい、自分に降りかかるであろう痛みを待った。
「良くやったぞ、主よ」
「えっ?」
虎徹さんがそう呟いたと同時、オーガは苦しそうな声を上げ始めた。
僕は俯いていた顔を上げた。
すると、僕の目には信じられない光景が目に焼き付いた。
「ギャァァァァァァァァァァッ⁉」
オーガは叫び声と共に消え去った。
僕には何が起きたのか判らない。
なぜ、オーガは白いの炎に焼かれたのか、そして、白い炎の正体が解らなかった。
「主よ、其方の決意、そして、覚悟を見せてもらった。これより、我が身は御身の為に使ってもらいたい」
虎徹さんは僕の前に膝間着いていた。
「え? どういう事なの?」
僕の質問に虎徹さんは簡潔に教えてくれた。
「主よ。この間は我と契約する者との絆を試す場じゃ。もし、あのままオーガに殺られておれば、我と契約は交わせなかったじゃろう。其方の決意を称し、我は其方と契約を交わすことにした」
虎徹さんの口調は相変わらず、古めかしいけど、だけど、そこには優しさと主を思う気持ちが籠っていた。
「僕は認められた……という事なの?」
僕の言葉に虎徹さんはゆっくりと頷いた。
僕はなぜか知らないけど、自然と涙が溢れ出した。
これは、安心感からなのか達成感からくるものなのかは解らない。だけど、僕はやり遂げたんだ。
それだけど、僕は十分だった。
それと同時に、僕の目の前が真っ暗になっていく感覚を覚えた。
「主よ……今はゆっくりと休むのじゃ」
僕は気を失う前に虎徹さんの優しい声が、僕の耳に入っていった。
誰もいない漆黒の闇の中に突如として、二人の男性の声が響き始めた。
「……それは真なのか?」
「はい。既に試練の間を通過した者が二つほど、存在する事が確認されました」
一人の男性の報告に、もう一人の男性は「フム」と呟くと、詳細を聞き出した。
「それで、その者達が扱う武器は何と言う?」
「はい、一人は刀を使用しております。刀の名は“虎徹”と申します。もう一人の方は……」
報告をしていた男性はそこで言葉を区切った。
突然の区切りに、報告を受けていた男性は訝しみ始めた。
「何があったと言うのだ? 今まで貴様が言葉を区切る事は無かっただろう? まさかと思うが………我らにとっても凶悪な武器を使うのか?」
男性の言葉に、報告をしていた男性は口を開いた。
「……アエラ様。信じられないお話かも知れません……ですが、私は嘘偽りない報告をさせて頂きます。心構えを、どうかよろしくお願いします」
アエラと呼ばれた者は、それだけ重要な話であると分かると、その場の雰囲気が変わる。
「では、ご報告をさせて頂きます。もう一人の者は………“天照”を扱う者です」
アエラはこの報告には流石に度肝を抜かれてしまった。
「なんだとっ⁉ “天照”だと‼ まさか、奴らはそこまでの力を開放したというのか‼」
「アエラ様。ご安心ください。“天照”を扱う者は、まだ聖霊を開放させておりません」
アエラはその言葉に驚きを隠せない様子であった。
「ま、待て‼ “虎徹”を扱う者は既に聖霊を開放しているというのか‼」
「はい。また、既に契約も交わしている模様です」
この言葉にはアエラは何も言えなくなってしまっていた。
「アエラ様。我々もうかうかとしていられる状況ではなくなりました…………早期に手を打たなくては、我々の生末は断ち切られたのも同然です‼ アエラ様‼ ご決断を‼」
アエラもそんな状況下で、何もしないで手を拱いていられるほど暢気な者ではなかった。
「………良かろう。各部署に通達をしろ。だが、今はその時ではない………時期を見て出撃しよう」
「ハッ‼ そのお言葉、確と各部署へ通達いたします」
その言葉を最後に、男性の気配はなくなった。
漆黒の闇に包まれた空間にはアエラ一人となった。
「よもや、人間如きが聖霊を開放するなぞ………認める訳にもいかないな………」
アエラはそう言うと、その場を後にした。
そして、漆黒の闇に包まれた空間には誰も存在しなくなったのであった。
山城家の試練の間の入り口の前に勇気が倒れていた。
傍らには虎徹と祖父の姿があった。
なぜ、虎徹が具現化されたかというと、聖霊は主と認めたものと契約を交わすことにより、肉を得て具現化する事が出来るのである。
また、ずっと具現化されたままではなく俗霊と戦う際には、武器となり主の助けになるのである。
「まさか……勇気が俗霊と戦う事になってしまうとは…………」
勇気の祖父は、その場に膝をついてしまう。
まさか、孫が俗霊と戦う者となってしまった事に、酷く落ち込んでいる様子であった。
「おぬしの孫は強いのう………土壇場で我を助けようとしたのじゃからな」
虎徹はそう言うと高らかに笑い始めた。
「そういう問題じゃないわ‼ 虎徹と言ったな? 儂の孫に何かあってみろ………絶対に儂はおぬしを許さぬからな!」
「フフ、安心せい。童とて主を守る気でおるのじゃ………そう簡単に殺させやしないさ………今の所、俗霊の気配を感じないのう………奴らも今は戦力拡大に奮闘しておるのじゃろう」
虎徹の事の言葉に祖父は怒りを露わにした。
「何を暢気な事を言っておるのじゃ‼ 俗霊の強さはおぬしが一番知っておるじゃろうが‼ 山城家は俗霊と戦う家系ではない………だが、いつの日かこういう事が起きてしまうと思っていたのじゃ‼ よもや、儂の孫が…………」
「……………」
虎徹は何も言わなかった。否、言えなかったのである。
虎徹の前の主である近藤勇を始め、新選組は俗霊と戦うために結成された組織であった。
表上では治安維持のために組織された最初の警察として、組織されたものと言われているが、実際はそうではなく、俗霊と戦うための組織であったのである。
「………我が眠り始めて早数百年………これほどまでに人間は発達したのか…………」
虎徹は静かに呟いた。
「………ここは………」
すると、勇気は気が付いたのかゆっくりと瞼を開けた。
「勇気‼」
「主‼」
勇気が起きた事に気付いた二人は、勇気の傍に寄る。
「爺ちゃんに虎徹さんか………僕はあの後からどうなったの?」
勇気は気を失った後の事が気になり、二人に尋ねた。
「おぬしはあの後、自動的に試練の間の入り口に転送された………だが、ここからが大変になるじゃろう」
「どういう事なの?」
虎徹の言っている意味を理解できずにいた勇気は尋ねた。
「………主よ。そして、祖父よ。よく聞くのじゃ………この試練の間の出来事について、俗霊に知られた可能性があるのじゃ」
「え?」
「なんじゃと‼ では、ここに俗霊が攻めよって来るのか‼」
虎徹の告白に二人は驚いていた。まさか、すぐにでもここに攻めよって来るのかと心配していた。
だが、虎徹は首を横に振る。
「そこは安心せい。俗霊も莫迦ではない。奴らもすぐに攻める準備ができるほど戦力を有していない………だが、いつの日かは攻めて来るじゃろうな………この日ノ本に…………」
「主よ。今だからこそ言うが、我の真名は他にある。今後はそちらの名で呼んではくれないかのう?」
「いきなりですね⁉ シリアスをぶち壊しに来たよ‼」
虎徹のいきなりの注文に勇気はツッコミを入れたのは間違いではないであろう。
だが、置いてけぼりにされた祖父はただ、静かに成り行きを見守っていた。
「童の真名は“琥珀”じゃ」
「綺麗な名前だね………じゃぁ、今度からは虎徹さんから琥珀さんに呼びなおすよ」
「……出来ればさん付けも止めてほしいのじゃがな」
「ウッ………そこは時間をかけて直します」
勇気の言葉に虎徹改め琥珀と祖父は笑い始めるのであった。
日本のある名家では、一人の少女がその手に大薙刀を持っていた。
「これで………終わりです」
少女は大薙刀を上から下にかけて降り下げると、目の前にいたオーガを真っ二つにした。
「フゥー………これで私も山根家の後継者として認められたのですね」
少女の言葉に応えるかの様に、大薙刀は小さく光った。
「フフ、ありがとうございます。天照」
少女はそう言うと、天照を愛おしそうに撫でた。
「では、戻りましょう。お父様やお母様がお待ちになっていますわ」
そう言うと少女は元来た場所へと静かに戻って行く。
そして、試練の間を出るとそこには二人の男女が立っていた。
「その様子では、天照に認めらた様だな………だが、聖霊は開放する事は出来なかったか………」
男性の言葉に少女は静かに謝る。
「申し訳ありません。お父様………わたくしの力が及ばず、聖霊を開放するに至りませんでした………」
「何を仰っているのです、美琴。貴女は山根家始まって以来、初代様や七代目様に並ぶ力を持っているではありませんか。気に病むことはありません。これから地道に開放出来る様に努力すれば良いのです。さぁ、疲れたでしょう? お風呂に入ってらっしゃい。其の後は貴女の好きな料理で誕生日をお祝いしましょう」
「………はい、お母様」
美琴はそう言うと静かに天照を神棚へ置く。そして、風呂場へと向かっていった。
そして、残された二人は美琴の姿が見えなくなると口調が悪くなった。
「チッ、生まれてから聖霊を開放できると思っていたのに……なぜ、こうなったのだ‼」
「私たちは俗霊と戦うために生まれたのも同然……聖霊を開放できないなんて、なんて嘆かわしい事」
「これからは訓練の強化をしていかなくてはならないな………」
「そうね………そして、認めさせるのよ。俗霊と戦うに相応しいのは我々、山根家だけという事を」
二人はそう言うとその場を後にした。
だが、二人の言葉を聞いていた者がいた。
「(なんて嘆かわしい事を………童を開放できないのは彼女の所為ではないわ………貴様らの考えを知らないとでも思ったのか‼ 貴様等こそが俗霊に近い‼ クソッ‼ 童に力があれば‼)」
神棚へと置かれていた天照は自分の力が足りない所為で、聖霊を開放できない事を悔やむのであった。
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