拝啓、死神様
拝啓 死神様
突然のお手紙すみません。
実は質問があります。「死」とは一体なんなんでしょうか。今までたくさんの死を見てきたであろうあなた様なら知っていますでしょうか。
僕は「死」というものをとても恐ろしく感じています。死ぬということはどういうことなのでしょう。どうなってしまうのでしょう。あの世はありますか?天国や地獄はどうでしょう。生まれ変わることは可能でしょうか。それともただの闇ですか?自分を自分と認識すらも出来ないのでしょうか。そんな状態が永遠に続くのですか?そう考えるだけで僕は気が狂いそうです。
まだまだ質問したいことは山ほどありますが、今回はここまでにさせていただきます。よろしければお返事を待っています。
敬具
夕日の射す部屋の一角。机に向かっていた黒髪の少年はペンを置いた。静かな部屋の中、時計の音が響く。
「もう葉桜かぁ。」
窓の外を見れば空には藍色が広がっていた。そして街の新緑を飲み込むように黒は広がっていく。
目の下辺りまでの前髪を弄りながら少年は考える。
死ぬなら歴史に残るようなことをしたい。ただ死にたくない。誰にも忘れて欲しくない。無理だというのはわかっている。歴史に残るような人達とは違う。そんな人達とは人生の構成要素が違う。八割以上の人は歴史には残らない。そんなことはわかっている。わかってはいるのに……。
「死神宛てに手紙なんか書いて。返事なんてくるわけねぇっての。」
手紙をグシャグシャに丸め、ゴミ箱に放り込む。
「バカバカしい。」
小さく呟きながら外出のため玄関へと向かう。特に目的のない外出だ。
家々に灯りが点る頃、少年はあてもなく歩く。フラフラと彷徨うように歩く。
これは人類の八割の中の一人で普通に死を恐れ、世間や世界に認めてもらいたい普通の少年の話。
わからないと言われてもそれでいい。